・きゅう・ 


『ばァか!!話が急過ぎんだよ!!なんでそれを当日に連絡してくるんだてめェは!!』



うおっと、突然の大声に驚いて耳から携帯を離して顔をしかめながら再び携帯を耳に当てる。


「てっきりアルバフィカからもう聞いてたかと思ってた」
『……あいつの性格的にメールでもしてくるかと思うんだがな…。昨日は出張行かされて今日も今外回りだから、単に忙しかったんじゃねェの?』



あいつ、若いくせにやり手だからな。

へぇ……真面目そうだもんね。


「まあ、とりあえず!時間空けておいてねー」
『……わりぃけど、今日月末でちょっと処理が残ってんだ。遅れってけど、いいか?』
「分かったー。じゃあ、先に始めてる」


定時に上がるように頑張ったおかげが、此方はなんとか約束の時間には余裕で間に合いそうだ。

途中でスーパーに寄ってお酒に合いそうなチーズ菓子などのおつまみを買って指定された住所のマンションに向かうともう私服に着替えたアルバフィカが出迎えた。

さすが、チノパンにシャツというラフな格好でも美人は物凄く絵になる……。


「あれ?シオン君は…?」
「シオンは少し遅れる。二人でなんとか定時に終わらせようとやっていたのだが、直前になってシオンの入力ミスを見つけてしまってな……書類を幾つかやり直してから来る」


なんでも、本当はアルバフィカもソレを手伝おうとしていたのだが、『待たせるとしおりに悪いから先に始めててくれ』とシオンに諭され、アルバフィカが先に帰されたらしい。


なんだか、あのシオン君がそんな風に気を使ってくれたのかと少しだけジンッとクるものがある。


しかし……皆でワイワイ飲む気満々できたのにな……と思いながら飲み始めるも、やはりアルバフィカといると楽しくて話が弾む。


そして、およそ二時間くらい経つ頃には………私は完全に出来上がっており、アルバフィカ相手に絡み酒 をしていたのだ……。



「さて……二人しかいないとこだし!恋バナしよーよ!!恋バナ!!さ、色々ぶっちゃけよう!
ずばり、初カノは何歳!?」
「……恋愛経験はない」
「え、えー嘘!アルバフィカ、今まで恋人いなかったの!?恋人居ない歴=年齢なの!?」
「言うな」


嘘だー……と探るようにアルバフィカを見るも、苦い顔をするだけで嘘をついているような素振りはない。

(マジか…)


地雷を踏んでしまったかもしれないことを少しだけ申し訳ないと思いつつも、お酒の効果なのか深く考えることはなかった。


「初恋は……中学くらいの時だったかもしれないな」とポツリと漏らした美人の独り言を聞き逃す事はなく、「どんな子どんな子!?」と自分でもウザいと思うくらいにガッツリ食らい付く。


少し酔いが入っているのか、ほんのり赤く染まっている目元と泣きボクロが物凄くセクシーだなー……と思っていると"そんな気分"になってきてしまうものだから、お酒はほんとに怖いと思う。


形のよい喉仏が上下し、グラスに当てられた薄い唇が濡れており無意識に喉が鳴った。

「えーとさ……。じゃあ、ちゅーもしたことないんだ?」
「…っ!?ごほっ」


ビックリしたのか、むせてしまったらしく飲みかけだった酒が零れるのを慌てて防ぎながらも顔を真っ赤にして顔を背けるアルバフィカ。


「やば、なにその反応可愛過ぎ」
「っからかうな」
「ごめんごめん。じゃあさ――してみる?」
「は、」


いやー……お酒って怖いよね。

次の瞬間には、その綺麗な形をした唇を塞ぎ触れるだけだがそのファーストキスを(無理矢理)奪ってしまったのだ。


ちゅー、としばらく唇を重ねていたが、動いたせいで頭がくらくらしてちゅーしたまま寄りかかると、相手も崩れてドサッと二人して倒れこむ。

倒れた衝撃でテーブルの上のビール缶も倒れたらしく、頭の上に冷たいビールがビシャーッと垂れてきた事に驚いてガバッと起きる。


そして、しばらくぐるぐると自分のしたことを整理したのち我に返って声をあげずに心の中で絶叫した。



(……私、今……何した!!?)


いくら、酔ったらからといって年下の男を押し倒すなんて……どんだけ欲求不満だったのだ!!

どうして働かなかったのだ、理性!!

うわぁああと悶絶していたが、ハッとしてアルバフィカの方を向くとそこには茫然としていて未だに何が起きたのか分かっていない彼がいた。

どうやら、アルバフィカもお酒が回っていたらしい。
今起こったことも、そのまま忘れてくれたらいいのに……!!




「っごめん、ちょっと酔いすぎたみたい。帰る!!」
「あ、あぁ……」
「片付けとか任せちゃって平気?汚くしてごめんね。自分が飲んだやつは引き取るから!!」
「ああ」
「……それと、今の忘れて!じゃっ」


テーブルの脇に即席ごみ箱として置いていたゴミ袋を掴むと、酒臭さを纏ったまま部屋を飛び出した。


普段のアルバフィカなら帰り道の心配もしてくれるが、よほどさっきのがショックなのだろう。


本当に申し訳なさすぎて、自分をぶん殴りたい。


いくらなんでも、さすがに年下を襲うのは不味いだろ!!


彼氏いない時間が長すぎてさすがに人肌恋しくなっちゃったんだ☆
とかなんとか言って少しフォローしてくればよかった…!

あれじゃただのヤリ逃げみたいなものじゃないか……!


「ごめんねごめんねごめんねぇええ!!てか、もうさすがにアルバフィカの顔みれない……!!恥ずかしすぎる……!!あああーっ!!」


その日の夜、マニゴルドに『なんで先に帰ったんだよ!なんか用事思い出したのか?』と聞かれたが、
「酔いすぎてもうあれ以上飲めなくなちゃったの!!マニゴルド遅い馬鹿」
「ひっで」


と適当な会話で誤魔化した。

この夜のことは、私の数ある黒歴史の中に深々と刻まれた。












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