-離別- 

「話には聞いていましたがこんなに綺麗なお嬢さんだったなんて、あの子もきっと安心するわ。孤児だったと聞くから心配していましたのよ」










ギリシャで有名な海商王、ソロ家。


航路を使っての商売を成功させて富を築いたことから海商王と呼ばれ、その手の人間たちには一目置かれている一族。


そんな家柄の人間となら、何があってもコネクションを持ちたいだろうなと他人事のように思いながら、顔合わせの為に用意された屋敷の窓をぼんやりと見つめる。



肝心の婚約相手は大事な取引先に行っているらしい。

でも顔合わせだなんてただの口実で、実質は取引をしたいだけだろう。

こうして父達に部屋から追い出されてるのが証拠だ。




(海……綺麗…)


南側に設けてあるテラスの先にはアドリア海が望めてその美しさにため息が漏れる。

白波を立てる海の上を船が滑り、乱れた波に跡を残していく。




「アローン達にも見せてあげたいな………」


きっと、アローンもテンマもサーシャも海は見たことないだろう。頭の中でテンマが騒ぎ、それをアローンが制してる図が思い浮かんで笑みが零れたが、すぐに掻き消えていった。





(忘れなきゃ、忘れなきゃダメだ)




残像を振り切り、気を引き締めて海を見つめた時、扉が開いて商談の終えた父親が姿を現し、足早に屋敷を後にした。




「ソロ家の嫡男は容姿端麗、頭脳明晰、お前には勿体ないお方だ。しっかりとお使えするんだぞ」

「………はい」



お使え、か………。


やはりどこに行ってもそういう扱いしかされないのだろう。

ギュウッと拳を握り締めると怪我した所が僅かに擦れて痛んだ。



ふいに泣きたくなって馬車の外へ目を向けると、行き先の空の雲行きが怪しくなってきていた。
同じように外を眺めた父はぽつりと「これは嵐になるな………」と呟いた。



「………」






早く嵐になって、全部壊してくれれば良いのに。




密かにそんな事を思いながら、現実から目を逸らした。




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