-若獅子誕生-02 

「じゃあ、わたし村に用事があるから。またね」
「おう!」


「シジフォスも」と、二人を見守っていたシジフォスにも軽く手を振って二人に背を向ける。


今日は、サーシャに習った花の冠の作り方をアガシャに教えてあげるのだ。



(今日は他に何をしよう……。あ、帰りにデジェルに本を借りに行こうかな)


自然と笑みが漏れて闘技場から外へ出た時、



「エレナ様」
「シジフォス?」



呼び止められて振り返ると、そこには普段の穏やかな表情を引き締めた彼がいて、ゆっくりと近付いて来た。



「これからどちらへ行かれるのですか?」
「……ロドリオ村の友人の元まで」
「………左様で」


少し眉を寄せて苦しそうな表情をした彼は、その場に膝をついた。



「レグルスはすぐ聖闘士になります。あなたが女神と知ったら、奔放に過ごされている貴女様の身を案じるでしょう。わたしが申し上げる事ではありませんが、そろそろアテナと共に神殿に居て頂けませんか」
「………それは勿論女神として、ですね?」
「はい」




("女神"……か)



今は良いかも知れない。

でも、もし聖戦が始まればアテナの傍にいる自分も聖戦に介入する事になるだろう。


聖域から出ることは不可能になってしまうかもしれない。


………故郷の地には、二度と帰れない。





「……もう少し、考える時間をください」
「ハッ」
「貴方を悩ませてばかりでごめんなさい、シジフォス」

「……エレナ様」



顔をあげたシジフォスにぎこちない笑みを向ける。



「今はレグルスの修業を見てあげてください。彼は、きっと凄い聖闘士になる」
「ええ……なんせ、レグルスは現在欠員の黄金聖闘士、獅子座の聖闘士になるべく育てられてる男ですから」


「!獅子座の聖闘士!?」



(じゃあ、黄金最後の聖闘士は………)



頭の中で、彼が無邪気な顔で笑う。




「レグルス……」
「修業も、もう少しで完了するでしょう。最後の時もどうか彼を見守ってください」
「……ええ、勿論です。彼は、弟みたいな存在ですから」



「弟……」と、聞いたシジフォスが驚いたように眼を見開いたあと、苦笑を漏らした。




「なるほど……前途多難だな、レグルス」
「?何か?」
「いえ。引き止めてしまい、申し訳ございません。お気をつけて」


ええ、行ってきます。とシジフォスに見送られ、エレナはロドリオ村へ降りていった。




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