届かない02 「わ……ちょ、くすぐったいよ」 己の肩に降り立った青い鳥がすりすりと身を寄せてくることについ顔が綻ぶレグルス。 アイアコスの攻撃を受けてボロボロになりながらもユズリハの肩を借りてなんとか帆船のところに戻ってこれたまでは良かった。 だが、ちょうどエレナが連れ去られる寸前の時だったのだ。 崖から飛び降りて冥王の背中を追いかけようとするのをユズリハに止められてしまい、目の前で連れ去られていくのを、見ていることしか出来なかったのだ。 唇を噛んで悔しさを噛み締めていた時にあの鳥が傍にやってくると、当然のようにレグルスの肩で羽根を休め始めたことに驚きつつもなんだかんだ受け入れた。 聖域に残っていた雑兵などの僅かな戦力をも船に集めている為、かなり人でいっぱいだ。 柵に腰掛けながらなんとなく下の方を見下ろしていると、後ろから「おい!」と声をかけられる。 「レグルス、お前も手が空いてるんなら手伝えよ!!」 「耶人!……っ、シジフォス!!」 耶人に支えられながら立っているシジフォスの姿を見るや否やビュンッと駆け寄ると、ボロボロな上に目から血を流しているシジフォスの肩に手をおく。 うっすらと目を開けたシジフォスの様子がおかしく、パッと手をかざすとシジフォスは困ったように笑う。 するとまぶたから新しい血が流れ落ち、それを止めるように目を閉じた。 まさか、見えない……? 「シジフォス、目が……」 「見えなくとも平気だ。……いい加減、弟子を不安がらせてはいけないな」 私はもう大丈夫だ、耶人。 そう言いながらポンッと耶人とレグルスの頭に手を置き、目が塞がれているのにしっかりとした足取りで歩き始める。 だが、「せめて、手当てを!」と耶人が慌てて救護箱を取ってきて手際よく血を拭き取り消毒を行っていく。 「そういやレグルス、お前その肩の鳥はどうした?」 「ああ!うーんとな……、エレナの友達なんだ」 「なんだそれ」 友達だよなー?と呼び掛けると嬉しそうに鳴き声を上げる青い鳥に、耶人は訝しげに首を傾げた。 シジフォスの頭に包帯を巻き付け、ギュッと少し圧迫すると白い布が滲む。 (………シジフォスも頑張ったんだ。俺もしっかりしなきゃな) 目が見えない師匠の分も頑張らないと!と意気込む。 しかし、浮かび上がった船の前にはスペクターと巨大な扉が立ち塞がり、倒れていく者達や相手のスペクターの言いなりになりかけている仲間を見かねたシジフォスが再び立ち上がった。 そして、スペクターの技にかかってその身から出された心臓は壁の秤の上に乗せられ、大きく傾いた筈の秤が釣り合って巨大な扉が動き始める。 「…お前には…分からんだろうな。人の心を踏みにじる偽りの審判よ!!」 スペクターを一撃で倒すも、スペクターのせいで扉は動きを止めてしまい動かなくなってしまう。 「ビッグバンでも起こさぬ限りな…」と呟いて絶命したスペクターに皆が絶望を露にした。 「くそ…ビッグバン!?無理に決まってる!!」 確かに、宇宙を創造したと言われているビッグバンと匹敵する攻撃なんて、ない筈。 (……どうしよう、シジフォスが倒してくれたのに……) コレじゃ、此処で死んだ皆が無駄死にじゃないか……! シジフォスも…… 「いいや!……一つだけ、我々でもビッグバンを起こす方法がある!!」 「何だよシオン!そんな方法があるなら最初から……」 焦ったせいか、ついシオンを責めるような言葉になったが肩を震わせているシオンに気づいて口を閉ざす。 「だが、これは…。黄金聖闘士が3人揃わねば不可能だ。私とお前、そして、もう1人……」 今となっては全て遅いのか……。 しかし、そのシオンの声に答えるかのように穏やかで温かく、力強い小宇宙が辺りに満ちて死んだと思っていたシジフォスが立ち上がった。 (………シジフォス、まさか意識が……) 何も言わずに何かの構えをしたシジフォスに駆け寄り、シオンの見よう見まねで同じ構えをする。 サッと船の方に避難した青い鳥を視界の端に捉えながらも、目の前にいるシジフォスの力の流れ方を見ながら同じように扉へと力を放つ。 「くっ!」 目も、心臓もなくしたのに体に残されていた力を全て出しきるようなシジフォスの小宇宙に負けないように小宇宙を最大限燃やすと巨大な扉は目映い光を放ちながら崩れ落ちていく。 壊れていく巨大な扉と共に大好きなシジフォスの小宇宙が羽根を散らすように消えていく感覚がした。 「!シジフォ…」 シジフォスの肉体が四散して消え去り、サジタリアスのクロスだけが形を成してその先の道を指し示す。 「……〜〜っ!分かってる!」 分かってるよ、シジフォス。 会ってからずっと、シジフォスは俺を守ってくれた。 背中を押してくれた。 そしていつだって、誰かの為に戦い続けて……死んだ今でさえ、俺たちの背中を押し続けている。 "進め、レグルス" 「……あっ、」 散っていくシジフォスの小宇宙にそう言われている気がして、グッと歯を噛み締める。 もう、シジフォスと同じ戦場に立つことは二度とない。 これが最初で、最後の共闘。 『俺の名は、射手座のシジフォス。もう、怯えるな。……寂しかったのだな』 「っ!」 レグルスは涙を耐えながらひたすらその先を見つめた。 「シジフォス……?」 ハッと顔を上げると、温室の硝子のドーム型の天井へ白い羽が舞い落ちていた。 開いていたらしい何処かの窓から白い羽根が一枚だけ室内に入り込み、温室の中央を舞いながらゆっくり落ちてくる。 「貴方が……そんな……っ、シジフォスッ!!」 その羽根に触れようと寝台から立ち上がるも、すぐに膝から崩れて床に手をつく。 痛む体を引き摺りながら行くも、指先に触れる寸前に白い羽根はシジフォスの小宇宙と共に幻のようにフッと消えてしまい手元には何も残らなかった。 また、だ。 また、聖闘士が消えていく。 「………っ………」 本当は誰にも傷ついて欲しくないのに。 [*前] | [次#] 戻る |