-輝く女神-02 

眩しい陽射しの下、滝の傍の拓けた水辺で美しいニンフ達が楽しそうに水浴びをしている。


はしゃぎ疲れた一人の乙女がその輪からそっと外れて濡れた体のまま岩にもたれかかった。

金の髪が乙女の濡れた体に張り付き、なんとも言えぬ色香を漂わせる。

はぁ…と悩ましげなため息を吐いた乙女、コレーは、ふと己の耳に冷気が触れた事に驚いて振り返るとすぐ傍の岩にぽっかりと穴が空いている事に気付いて首を傾げた。



「こんな穴、あったかしら…?」


身を乗り出して恐る恐る顔が入る位の小さな洞窟を覗くと、洞窟の奥から吹き付けているひんやりとした風が頬を撫でた。

黒い闇がぱっくりと口を開けており、手を差し入れてみると洞窟特有の冷気が肌を冷やして気持ち良くてうっとりと表情を緩める。



「何してるのー?コレー」
「あぁ、あのね小さい洞窟があるの。ひんやりしていて気持ちいいのよ」
「洞窟なんかに近づいたらダメよ!」


ニンフ達に手を引かれて、名残惜しくも洞窟から離れると、ふるっと身が震えた。

少し体を冷やしてしまったかもしれない。


陸に上がると、一足先に衣を纏って待っていたニンフ達に濡れた髪や体を拭かれていく。

彼女達ニンフはコレーの母、デメテルに言い付けで幼い頃からずっとコレーの身の世話をして来た頼もしいニンフだ。


コレーも姉の様に彼女達を慕っていた為、ニンフ達はコレーをそれはもう目に入れても痛くない程可愛がった。



「最近、なんだか美しさに磨きがかかってきたわね」
「ええ、きっとオリンポスに上がったら色々な男神を虜にしてしまうでしょうね」


きっと美を司るアフロディーテ様も嫉妬するに違いないわ。

と口々にコレーを褒めちぎるニンフ達の言葉を聞きながら、適当に言葉を返す。


正直、コレーは自分に皆が言う程の魅力があるとは思えなかった。


幼い頃に何回か訪れたオリンポスで垣間見た者達はみな、目が眩んでしまう程に眩しく輝いていて、美しかった。



一番身近な母デメテルも時が経つほどに美しさを増し、娘であるコレーさえもため息を漏らしてしまう位なのだ。

むしろ、自分のような田舎育ちの娘がそんな者達ばかりがいるオリンポスに上がって母デメテルが恥をかかないかという方が心配だった。


幼い頃から母の傍に居たい、永遠に母親と共に生きてその大変な仕事の手伝いをして行きたいと願っていたコレーだったが、成人を迎えてオリンポスに上がり、十二神に冠される程に素晴らしい母が恥じぬような働きが出来るのか……と思うと気は沈んでいく。



デメテルは「貴女は私の自慢の娘なのよ」と微笑んでくれたが、毎日この島で暮らす自分は遊んでいるだけで自慢になりそうな事など一切出来ていないからだ。



あと少しで、コレーは成人に加えられる。



母の勧めでコレーは成人の儀と共に処女の誓いを立てようと決めている。


本当の父であるゼウスの酷い浮気話をよく耳にして快楽を得るモノとして扱う男神達に嫌悪の感情があり、また大好きな姉妹のアルテミスやアテナも処女の誓いを立てているのを見て、恋人や旦那など必要ないものと教えられてきたのもあった。



それにそんなの居なくとも、何より大好きな母の傍にいられるのだ。


だったら、恋なんて要らない。




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