異端皇子と花嫁 | ナノ
凱旋 01 


「朝だよ、起きて天音!!」
「う〜〜〜」


遮光していた寝台の覆いを取り払われた事で、暴力的に降り注ぐ日光から逃げるように掛け物の中に逃げるとすかさず紅覇様に掛け物さえも取り払われて目を開けた。

遅くまでやることがあるから、と昨晩は久々に自分に宛がわれた部屋で夜を過ごした。
紅覇様が居ることに慣れ過ぎたせいで逆になかなか眠ることが出来ず、今も眠った気がしないせいで頭がクラクラする。


「おはよう、ござます……」
「これから炎兄……、皇太子が凱旋するんだよ!起きて」
「そうなのですか。いってらっしゃいま」
「お前も行くんだよ、馬鹿」


むにゃっと目を閉じると、ぺちぺちと頬を叩かれる為渋々体を起こす。すると剥いだ掛け物の中からごそっと猫が姿を現して「くぁ…」と大きく欠伸を漏らしていた。
猫と紅覇はお互いを視認するや否や、冷めた目で睨み合う。


「に”ゃあ……」
「天音、コレと一緒に寝てたの?」
「ええ。一人で……眠るのが、寂しくて……」


紅覇様が、居なかったからです。と眠い頭でぼやくように言うとガシッと肩を掴まれて何処か嬉しそうな紅覇様の声を聞き流しながら呻く。
それを冷めた目で眺めていたぶーちゃんはボテッと寝台から降りると、少し開いた隙間を自分が通れるくらいまでこじ開けて自分用のご飯と寝床が用意されている部屋の方へと行ってしまう。



「……紅覇様、お加減が悪いのですか?」
「ん?なんで〜?」
「顔色が、良くないような…?」


侍女達に手伝って貰いながらある程度身支度を整え、改めて紅覇様を見るといつもよりもやや顔色が悪いような気がした。

表情もどこか固い上に、食事も薬膳を中心に召し上がられているような気がする。
昨晩寝床を分けられたのも、もしかして体調が悪かったからじゃ…と考えが至ると即座に「違うよぉ〜」と間延びした声で否定された。



「ちょっと総督閣下に課題みたいなのを出されてたから、それの最終確認してただけ」


食事を胃におさめながら、少し苦い顔をされる紅覇様。


「総督閣下……、皇太子様でしょうか?」
「そー、その人ね。僕たちの婚姻式にも勿論参加してたんだけど……ちょっと用事があってその後すぐに出かけちゃっててね」
「お忙しい方なのですね。ん?あら…?でも……私が倒れてしまった日には軍議に参加されていたのでは…?」
「向こうとは遠隔透視魔法でやり取りしたんだよぉ〜。魔導士のマゴイ量にも限界があるから、『集中出来ないなら今日はやめる』って言われて追い出されたってわけ」
「ま、誠に申し訳ございませんでした……」
「だから、気にしなくて良いってば」


私が箸を置くのを見計らっていたかのように食事を下げさせられると、いつものように長椅子の方へと手招きされて座る。

「今日はめいっぱい綺麗にするからね」
「はい」

牡丹が描かれた緋色の布地に金糸の刺繍がされた美しい衣装でも十分なのだが、その上衣装は香が焚かれていて鼻を近づけなくても良い匂いがした。
髪の毛も派手すぎない程度に纏められて簪を挿されるし、化粧もちゃんとされる。
今日は本当に特別らしい。


最期に紅をさされ、ベタベタする不慣れな感触に眉を寄せると「こら〜」と眉間をぐりぐりされてしまった。

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