異端皇子と花嫁 | ナノ
奴隷 01 


「降り注ぐ氷槍(サルグ・アルサーロス)!」


魔法で作り出した土の壁に向けて氷の槍がズドドドッと突き刺さり、壁を凍結させていく光景を目にして天音は小さく溜息を漏らした。

ジュダルは文句を言いながらも次々と課題をこなしていき、この数日の間に技の精度だけでなく命中率まで高めている。
おまけに、氷が刺さった場所を凍結させるという非道な事まで考え付いて、命令式に組み込むくらいには魔法式についての知識が深まっていた。


やはり、彼は紛れもなく「マギ」だ。
魔法についての知識の吸収度は、常人のソレを遥かに超えている。
さすが魔法使いの最高位に位置するマギ、というべきだろう。


「……ま、こんなモンだろ」
「さすがです、神官様」


短いステッキ状の杖を指先でクルクル弄って得意げな顔をしたジュダルに対して、天音も表情を緩めた。


「技の事はもう良いんじゃね?次アレ教えろよ!まほーを二つ同時に使うコツ!」
「そうですね。基礎知識はだいぶ付きましたし、そろそろ応用を入れても良いでしょう」


天音も杖を取り出してそれを軽く振い、地面から拳一つくらい浮き上がってジュダルを見つめると、まるでおもちゃを前にした子供のように目が爛々としていてついつい笑みが零れてしまった。


「で!どうやんだよ、ソレ!」
「浮遊は、まず軽く浮くことから。斥力を使うとより良いですよ」
「斥力って言われてもわかんねぇよ!もっと手っ取り早く教えろ」
「……解りました。じゃあ、私の手を掴んでください」
「はあ?」

「はい」と杖を指に挟みながらジュダルに両手を差し出すと、訝しげな顔をしながら掴んできた。天音はその手を引いて屋敷を囲う塀の高さギリギリまで浮かび上がって、フワフワと空中を遊泳した。

ジュダルの黒い三つ編みが尻尾のように宙でゆったりと揺れながら、天音の動きについてくる。


「ユラユラして気持ちわりぃ……」
「まずは、この感覚を自然に体に覚えさせてください。神官様は他の魔法を平行させようとするとそちらに意識がいってしまうようですし」
「うるせぇな」
「一つ一つの魔法の精度をあげて、少しの意識でできるくらいまで上達させましょう」
「……解った。お前もそういったからには、ちゃんと最後まで付き合え」
「畏まりました」

くるくるーっと宙を踊るみたいに浮かぶと一気に相手の顔色が悪化した為、ゆっくりとした低空飛行に変えて一旦地面に足を付ける。


「大丈夫ですか?」
「っやめて良いなんか言ってねぇぞ!さっさと続けろ!」
「……そうですか」

もう一度ふわりと浮かび上がると、「うっぷ」と吐きそうになりながらも懸命に耐えている姿に少し好感を抱く。


「なんか気が紛れるような事を」と思いながらも、推進力を意識することで飛行時の揺れを少し軽減させる。


「神官様も、この数日で随分と魔法が上達されましたね」
「んだよ、いきなり………きもちわりぃな」
「いえ、そうやって知識を求めるところをみると、やはり神官様も私と同じ魔法使いなのだと思って。……嬉しいです」


魔導士にとって、最も強い欲求は『知識欲』。

何かを知りたい、解き明かしたいという『知的探求心』なのだ。


自分を負かした天音に頼んでまで魔法を知りたいと願った彼に対し、天音は一種の親近感さえ抱いていた。


「神官様は、素晴らしい魔法使いになると思います」


目をパチパチさせたあと、ジュダルはバツが悪そうに顔を逸らしたが少し頬が赤みを帯びている事に気づいて笑みが零れた。


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