婚姻 01 「天音姫様、お綺麗ですわ」 「姫様」 「……そう、ありがとう」 早く起きて念入りに湯浴みを行い、香油などで更に滑らかになった肌を赤い反物が覆い隠していく。 普段の衣から真っ赤な煌の花嫁の衣装へ、いつもおろしていて飾り気のない髪型は簪で飾り付けて派手なモノへ。 体中には金や宝石をあしらった装飾品が付けられ、年齢相応に幼い顔を化粧で塗り変えて艶やかな姫君に。 真っ赤な煌の色へと染められていく。 「………」 最後に血色の良い小さな唇に血よりも濃い紅が差されると完全に、煌の貴人が出来上がっていた。 鏡に映る己と向き合いながらも表情が硬い天音の姿を認めた侍女二人は頷き合うと天音の肩にそっと手を置く。 「姫様、貴女は私たちのお国のたった一人の姫君です。此度の婚姻も、致し方ない事」 「そうですよ。煌の皇子様との婚姻も、天音姫様じゃないと務まりません」 「………っ」 更にプレッシャーを感じてぎゅっと膝の上で手の平を握りしめた時、ふわっと両隣から二人に抱きしめられて目を見開く。 「私たちは姫様のお傍に居ます。ですから、どうか今だけは感情を殺してくださいませ」 「式が終わったら、めいっぱい泣きましょう。周囲の方々に姫様のすっごく魅力的な晴れ姿、見せつけてやりましょう?」 一生懸命励まそうとする二人に挟まれながらやっぱり自分の事を考えてくれる二人の姿につい笑みが零れた。 二人の腕に手を置き、きゅっと握る。 「ありがとう……。付いて来てくれたのが二人で本当に良かった」 「!!ええっ!私は姫様が魔導士だろうとどなたと結婚しようと、姫様をお慕いしています」 「天音姫様ほんと可愛らしいです!大好きです!」 「私も二人の事大好きよ!」 きゃーと言いながら三人して抱きしめ合い、滲んでいた涙を拭って真っ直ぐ鏡と向き合った。 先程よりもだいぶ緩んだ表情にホッと安心して鏡に映る二人に笑い返す。 「もう大丈夫よ。ありがとう」 「はい、天音姫様!」 「姫様、最後にこちらを」 滑らかな良い生地の赤いベールを取り出して頭に被せられる。 なんでも、ベールをかぶった方がより縁起が良いのだとか。 「私たちは余所者ですので末席となりますが、心は姫様と共におります」 「天音姫様の事、信じています」 「ありがとう」 二人に見送られながら、迎えの者の後ろをゆっくりとついていった。 戻る ×
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