異端皇子と花嫁 | ナノ
同志 02 


「ルフが、見えるの…?」
「!ルフ…!この光る鳥はルフというのね…!他にも見える子は村にいるけれど、私の他にもこの妙な力が使える人がいただなんて…!嬉しい…!!」


頬を染め、感激した様子の水月に手をぎゅーと握られてブンブンと上下に勢いよく振られる。
手を振られる度に脳にも振動が伝わって揺すられ、気持ち悪さに軽く呻く。


「妙な力などではなくて、」
「でも、外では絶対に使ってはダメ!その力は、怖がられてしまうわ」
「……ええ、解ったわ」

俯いて表情を曇らせる水月から、再び部屋周囲へと視線を巡らせた。


この地域は、魔法の概念が未発達……。
と、いうことは煌よりも更に東の地域?

私の国も魔法の概念は一般的ではないけれど、隣国の私の国よりは温暖だから……やっぱり煌よりも東側の筈。


「水月、唐突でごめんなさい。この地域を治めている王様はどなた…?」
「え、練紅徳様よ。此処は煌帝国で首都、洛晶よりもずっっと東の端。首都までは……そうね、早馬でも五日以上はかかるんじゃないかしら…。少し古い物だけど、地図もあるわよ」

ほら、と床に広げられた煌帝国中心の地図を前に、軽く眩暈が起きそうだった。


(遠い……)

紅覇様と行った港は、首都よりも西南に位置していて更に遠い。
とてもじゃないけれど、マゴイが枯れかけている状態じゃ飛んで向かうことなんて不可能。

そもそも、今日は何日なのだろう。
私はどれくらい眠っていたの…?


紅覇様は…無事なの…?


グルグルと考えると本当に目が回ってきて、口元を押さえて気持ち悪さを堪える。

「大丈夫?私も力を使ったあとは、体調が悪くなるのよ」
「いえ、そうでは」
「ゆっくり休んでて頂戴!今手拭いを濡らすから!あ、薬草粥も作ってあげる!よく効くから、しっかり食べないとだめよ。
それまではゆっくり眠ってて?」
「あの……、ありがとう、ございます」


薬草を煎じた粥は、食べ慣れない事もあって何とも言えない味で…。
でもしっかり食べてひと眠りすると、彼女の言葉通り少しだけ体が軽くなった。

汗を手拭で拭い、着替えを借りて一息つける頃にはやや頭がすっきりした状態で向かいあう。





「じゃあ貴女も家族の中で一人だけルフが見えたのね」
「そうよ。その上妙な力が使えたから……家族にも怖がられて…。村に居場所がなくなったわ。こんな妙な力、なければ良かったのに」
「……」

水月は、私と同じく家族の中で一人だけ魔導士として生まれてきてしまった。
その為、非魔導士の家族には気持ち悪がられ、村はずれのこの家に一人で暮らしているらしい。

他の村にも、ルフが見える子達が居るらしいけれど水月と同じ扱いをされているのだとか。


…そう考えると、私は何て恵まれた環境に居たのだろう…。


一国の姫として生まれ、魔法が使えてもそれでも守ってくれる家族がいて…。
魔法の先生がいて、そして今も魔導士と理解した上で傍に置いてくれる方が居る。

紅覇様が居たから、励ましてくださったから、私はこの国に居られる。
全部全部、紅覇様のおかげ。


紅覇様が居たから、私はこの国が好きになれた。


「……――妙な力じゃないわ、『魔法』よ」
「魔法?」
「魔法はルフが起こす奇跡を意図的に起こすれっきとした技術。
そのルフの奇跡を自在に操る事が出来るのが、私達魔導士。どんな命令をすればどうなるかははっきりしてるの。だから、命令式を構成して演算すれば、自分の望む現象が自由に起こせるわ!」
「天音、」
「煌の首都では立派に働いてる魔導士はたくさん居る。それに、此処よりもっと西のマグノシュタットという国は魔導士が作ったの。そこには、魔法の勉強をする為の学院もあって、私のような学徒もたくさん居て、私に魔法を教えてくれた先生も居るわ。
魔法には、無限の可能性があるの。だから、その」


だから、それ以上魔法を嫌いにならないで…。


嘆願するように震える声を絞り出し、そう言い募ると水月は少しだけ哀しそうな顔をしていた。
彼女が生まれ育った環境が、魔導士である彼女を許さなかったのだろう。
だから、魔法を扱えるようにも、好きになる事も出来なかった。

「魔法を使えるって事は、素敵な事よ。
知れば知る程、奥深くて、何だって出来るんだから。
それに世界には知らない事や様々な人がいて……そこには、魔導士でも受け入れてくれる人達がたくさん居る。世界は広いのよ!此処以外にも、生きる場所はたくさんあるわ」

「……生きられる、場所」

「私もね、昔は怖かったの。だから、魔法が使えるのがばれないように窓のない部屋に匿われてても、大人しくしてた。嫌われたくないから。
でも外の離宮に出されて、『先生』が魔法の楽しさを教えてくれて……離宮を出ても、紅覇様がこんな私も受け入れてくださった。だから、前よりももっと魔法が好きになれた」
「……天音は、その“こうは様”が好きなんだ」
「うん、大好き。大切な人なの」

大切な友人で、夫で、会いたい人。
どんなに辛くても、紅覇様が居ると思えば頑張れる気がする。

それくらい、かけがえのない人。




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