対決 02 「………やはり邪魔をするのね。煌の皇子」 ボルグによって黒い大剣は弾かれたが、さっと態勢を直しながら距離を取った人物は片腕で大剣を肩に乗せながら「当たり前じゃん」と不敵に笑った。 薄紅の綺麗な髪を軽く払った紅覇様は、腰に手を当てて此方を真っ直ぐ見つめる。 「すぐ気付いて戻って来て正解だったみたいだね。お前の姿が見えなくなったって、純々達が心配してたよ」 「こうは、さま……」 「すぐ手当てさせるから、もう少しだけ待っててくれる…? まずはコイツをどうにかしなきゃだし、ねえ?」 地面に大剣を突き立てた紅覇様は、その柄の部分に肘を付きながら口元だけゆったりと微笑む。 その黒い大剣は紅覇様の身の丈に近く、寄り掛かれそうな程にがっしりとしていた。 「金属器って便利だよね。ボルグだけじゃなく、魔法結界までぶった斬れるんだからさぁ。 こうすれば……皆が僕達に気付く」 「その為だけに、結界を破壊したと」 「てかそもそも、壊さないと天音のところに行けないじゃんか。 さて、もうすぐ増援が来るけど……次はどうする気?」 獲物を追い詰めるかのようなギラギラとした眼で先生を見詰める紅覇様に、背がぞくぞくっとした。 でも、先生も余裕を崩さずに口角を吊り上げる。 「馬鹿な事を。周囲の被害を最小限にするための魔方陣だったのに、それを壊すだなんて。 ………次はどうするか、なんて決まってるじゃない。この子を連れて帰るのよ」 「天音は連れて行かせない」 「ならば、力づくで」 杖を構える中、地面から剣を引き抜いて構える紅覇様。 先生の杖の先に白いルフが集まり、魔法が飛び出す瞬間にはもう紅覇様は走り出していた。 「おらっ!」 バチィッと派手な音を立てて先生のボルグが黒い剣を弾く。 そして、紅覇様も軽やかに身を翻して杖から飛び出した魔法を避ける。 次々と飛び出す風魔法を避け、先生のボルグへ向けて剣先を振るう。 バチバチっと黒い剣を弾いていた先生のボルグにも細かな亀裂が走り、一瞬だけ表情に焦りを見せた先生が宙を浮いて距離を取った。 「金属器、か。 微かですが、黒いルフを纏っている。ということは、7型の力魔法を主軸にしている武器ですね」 「そーだよ。お前もこの金属器でボコボコにしてやるよ」 両手で構えた黒い大剣、金属器を構えられた紅覇様は不敵な笑みを浮かべながらグッと持ち手に力を込められた。 「金属器、如意錬刀」 カッと刀身の側面に八芒星が浮かび上がり、黒い光を纏う魔力が剣を覆い尽くしていく。 紅覇様が軽やかに地を蹴り、宙で大剣を振り上げるとそれは見る間に数十倍に巨大化して先生の真下に大きく影を落とす。 ドーーーンッとまるで隕石が落下したかのような音を立てて降り下ろされた大剣は、地に地割れのような巨大な裂け目を刻み付けた。 半歩ズレて避けた先生のボルグの一部が、粉々に砕け散って先生の頬を掠める。 先生は頬に出来た赤い一線を手の甲で拭い、冷めた目をして降り下ろされた大剣に視線を向けた。 「なんて強大で、野蛮な力」 「あれ?抜けないっ!?ん、んんーーっ重いいいぃぃっ!」 「……やっぱりあの子に相応しくないわ。消えなさい、煌の皇子」 「だめっ!逃げてください、紅覇様!」 地面に突き刺さったままの剣を引き抜こうと、ふんっと息を詰めて踏ん張る。 そんな紅覇様と距離を取った先生は、杖先を振るって旋風を巻き起こして降り下ろす。 「……おっと」 やっと地面から剣が抜けた事でよろめいた紅覇様に向かって風魔法が炸裂し、辺り一面を砂埃が舞った。 「紅覇様っ!」 魔法の余波で血と傷まみれの重たい腕を無理矢理動かし、杖を腕に当てて傷口を塞ぐ。 それでも上手く力の入らない腕を引きずって立ち上がり、未だに土煙が舞っている方へと足を向ける。 ただ、紅覇様の安否だけが気になって土煙の傍まで駆け寄って荒く息をつく。 どうしよう。 私のせいで紅覇様が居なくなってしまったら。 やっと、 やっと、国の離宮以外にも私の居場所が出来たと思ったのに。 心の底から大切にしたいと、想う人達が増えたのに。 こんなときに限って私の魔法は使い物にならない。 「う、いやです。紅覇、様…」 膝から力が抜け、ぺたんっと尻餅をつくと視界が大きく揺れて歪んだ。 じわじわっと滲んだものが、瞬いた時に膝頭に滴って地面に吸われていった。 その時、土煙の中でジャリッと砂を踏む音がしてハッと顔を上げる。 「……あーあ。ったく、そんな情けない声出さないでよねェ」 溜め息混じりの声が聞こえたかと思えば、何かが空気を一閃薙いで土煙を払う。 その手に握られていたのは、いつの間にか黒い大剣から紫色の結晶の塊のような綺麗な大鎌へに変わっていた。 紅覇様の傷ひとつなかった前腕には輝く紫の結晶の欠片が、腕を侵食するように埋まっている。 えっ?と驚いて呆けていると、ひゅんっ大鎌を回転させて持ち変えた紅覇様が私の視線に気づいて此方を一瞥してから先生を見据えた。 「金属器にはね、色々な使い方があってね。 これはその内の一つ、武器化魔装、だよ!」 紅覇様が鎌を前に突き出すと、先生の風魔法がバシッと弾けて霧散していく。 そのまま強く地面を踏み込まれると何度かその鎌を先生の方へ向けて降り下ろし、光る斬撃が先生の周囲に襲いかかり木々や地面が凹んでは崩れ倒れて景色が塗り替えられた。 「ほらほら!どうしたのさっ! あまり仕掛けて来ないってことは、さっきの闘いでお前のマゴイもヤバイんじゃない〜?」 その斬撃の一つが当たった瞬間パンっと容易くボルグが弾け、紅覇様の口角が上がっていく。 「観念したら?」 美しい大鎌の先を突き付け、優美に微笑む紅覇様の姿に心臓が高鳴った。 戻る ×
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