色褪せた想い

「……名前、別れよう」



言ってから「あぁ言ってしまった」と微かな後悔が胸を過ぎるも、僕の隣に座っている名前は真っすぐ前を向いていて表情に変化はなかった。



「……うん」

僕が悩んで考えた末出した結論を呑みこんでも、返ってきたのは短い言葉。



(愛し合っていた筈なのにね)


自嘲気味に小さく笑い、目を閉じればいつでも名前との思い出が鮮やかに蘇る。



ずっと一緒にいて、
愛しくて、
離さないと誓った日。


でも、いつの間にか苦しくなった。



「……そう」
「ごめん、名前」
「ううん、私が悪い……から」
「違うよ、名前」


俯く彼女の表情は分からないけど、きっと心の中では凄く自分を責めているんだろう。

人一倍、周りに気を使って自分に厳しい名前に憧れた。

ご飯も好きだし、その仕草も可愛くて、一緒に居て安心出来る唯一の存在。


けど、僕の中で何かが彼女を拒否していた。


嫌いじゃない、むしろ好きだ。


でも何年も一緒に過ごす内に、僕の何かが大きく変わってしまった。



彼女を愛しい感情はあるのに、何故か拒絶反応が出てしまう。

それを彼女も感じていたようで、僕に遠慮する姿は余計にその気持ちを倍増させ、とうとう戻れないところまで来てしまった。




「……今まで、ありがとう……」
「僕も、迷惑をかけて悪かったね」




触れ合えそうな所にあった手の温もりが離れ、ソファーの重みがなくなった。


「……さよなら、恭弥」


小さくまとめてあった自らの荷物を手に部屋を出ていく名前を、見送りもせずに居ると飾られた二人の写真が目に止まった。

ゆっくりと見回すと、写真以外にもペアマグカップや色違いのモノだとかが目につき、気がつけば辺りは二人の思い出が埋めつくしていた。


僕が集めたわけでないが、それでも好んで使っていた。



彼女と、どこかで繋がっていたくて。

共通点が、欲しくて……




どうして、そう思ったのだろうかと考えてその結論まで至った時、同時にある事実にたどり着いた。



(あぁ……僕は、本当の馬鹿だ)



本当に、欲しかったモノは、
いつも隣にあったと云うのに。



でも、譲る事の出来ないプライドは僕が弱者に成り下がる事を許さず、握りしめた拳は白く変わる。



愛してるのに、愛してたのに。



今更心の中で言い訳を繰り返しても、もう遅い。


「ごめん、名前……」


応えのない呼びかけに、貫かれる胸を埋めてくれるモノは何もない。

覚悟していた筈の痛みが広がると途端に体が震えだし、熱い何かが喉を込み上げた。


ぽたり、と枯れた頬を滑り落ちた雫はカーペットに吸われて消える。

開いた僕の手の平に残ったモノは、何もなかった。



いつか、これも過去になるのだろうか。

時間が経てば、何が胸を埋めるのだろう。

自問自答を繰り返しても、出る答えは同じなのに、僕にはその温もりを求める事は出来なかった。





でも、

もしも願いが叶うなら……



もう一度、


君に――……



2011.04.10


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