破滅の国のアリス | ナノ




逃げなければ、逃げなければ





早く逃げなければ追って来る
私を捉えに悪魔が私の元へとやって来る





逃げなければ、逃げなければ





誰にも見つからぬ場所へ身を潜めなくては
悪魔が私を見つけて連れ去らないように















私は夜の町を駈けて行く

息が切れても
身体が軋んでも

その走る足だけは決して止めずに
悪魔から逃げる為に必死で走る





夜の静寂の町に靴音が響く
それはあまりにも静かな中に響いて耳に痛い
空は闇に覆われ星すらも見えない
真っ暗闇の中を縫うように私は走る















逃げなければ、逃げなければ





まるで呪文のごとく呟き続ける言葉





逃げなければ、逃げなければ





まるで呪いのように走り続ける足





逃げなければ、逃げなければ





それはまるで儀式のようで














私は空よりも暗い路地裏に隠れる
汚らしい汚れと薄暗さが私を汚す
それでも私は構わない
あの悪魔に捉えられるくらいなら
私はここで朽ち果てる方がいい





切れる息を潜め
身体を小さくする私
僅かに見える隙間から薄暗い道に目を向ける

先から響く、忌まわしい靴音を聞きながら
どうかこの場から通り過ぎるようにと願いながら

何処から響いているのかも判らない
まるで街全体を歩いているような靴音を聞きながら
私はどうかその靴音が遠くへ消えて行くことを願った















靴音が小さくなる
靴音が消えて行く

町が静寂を取り戻し
私の耳に痛みを与える

隙間から覗く暗闇も
その忌まわしき悪魔の姿は見当たらない















私は大きく息を吐いた





これで私は大丈夫だと
これで私は救われたのだと
これで私は、助かったのだと





逃げ切れたのだと















そう思って見上げたその先には―――――




















月光も星光も全てを飲み込む、深淵の悪魔が

























嗤っていた






























逃げれるわけがない
知らず自ら悪魔
いていたのだから



【お題元:Anne dool
2009,3,5



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