Orijinal | ナノ



「あ、暑い・・・」



聖華(せいか)はしんどそうな声で言う。

今は真夏。
そんな中、彼らは学校の敷地内の裏庭にいる。



「そうですね」



対して涼やかな声で優(すぐる)は言った。



「・・・でも優さん、あなたは全然暑そうじゃないんですけど」

「そうですか?」

「そうですよ。だって全く暑そうな顔をしていないじゃないですか」

「・・・・・」



無言、と言うことは、全く暑くないと言うこと。
それがこの人の肯定の意味。



「はぁ・・・何でこんなに暑いのに、そんな涼しそうな顔ができるんですか・・・・・私には理解できません」



聖華は大きく溜息をつきながら言う。



「理解しなくてもいいですよ」



こう言われてしまっては、もう何も言えない。










「「・・・・・」」










二人の間に沈黙が流れる。
と、突然。



「・・・・ひゃ!!!」



下に俯いていた聖華の首筋に何か冷たいものが掴み、聖華はそれに驚いて小さな悲鳴を上げ、その場から離れて振り向いた。
其処には先ほどまで2メートルほど離れて立っていた優が、右手を聖華の首が有った所に上げて立っていた。



「ななな・・・す、優さん!?」

「何ですか?」



そう答えながら上げていた右手を下ろす。



「いいい、今、な、何をしたんですか!!!」

「何って、あなたが暑そうにしていたので、冷やそうとしただけですよ」



相変わらずの無表情で平然と答える。



「ひ、冷やすって、何でですか!?」



その問いに優は不思議そうに首を傾げた。



「手ですけど。それが何か?」

「手って・・・」



この世にあんなに冷たい手をした人がいるのだろうか。
そう思うくらい優の手は冷たかった。



「・・・・・」

「どうかしましたか?」



不思議そうな顔をしながら、優は聖華の元へと歩いて来る。
それを見て、何故だか聖華は冷や汗を掻き、その場から後ずさった。





───トン───





聖華の背中が倉庫の壁に当たる。
その前に優が立ち、左手を壁に置いた。

そして優の細い指先が、聖華の頬を綴る。
その異常な指の冷たさが、とても───気持ち良い。



「・・・っ」



指先は頬を、首筋を、何度も繰り返し伝う。



「・・・・・」



だが、その動きが突然ぴたりと止んだ。
聖華は突如動きが止まったことを不思議に思い、優を見上げた。



「・・・少しは涼しく為りましたか?」



そう言った優の顔が少し微笑んでいるように見えて。



「───っ!」



聖華は顔を反らす。



「どうかしましたか?」



そう問いかける優のその顔はもう、いつもの表情に戻っていた。










「────────」

「?」










「優さんのせいで、余計に暑くなってしまいました!!」


聖華はそう顔を赤らめながら言い、優を振り切ってその場から走り去ってしまった。





「・・・・・」





その場に一人残された優の顔には────


















今まで誰も見たことの無いような笑顔がそこにはあった。



冷たい手



2004,8