リアルロデ | ナノ



「アルヴァンド」



そう笑って呼んでくれる君が、誰よりも愛しくて。
何よりも輝いて見えて。

だからこそ、私は。





きみが、あまりに眩しすぎたから








午後の陽射しに、緑の庭。
そこは美しく輝く花咲く世界。

そんな城の庭を、私とニィナは散歩していた。





ニィナは私の前を歩く。
まるで花が咲くように笑顔で。
道ゆく道で出会う草花に足を止めては笑顔を咲かせ、私に向かって微笑んでくれる。



綺麗だね、と。



私はそれにそうだなと答える。
でも内心は、ニィナの方が綺麗だと思いながら。





ニィナは私の前を歩く。
生い茂る木々の葉から零れる、木漏れ日に踊って。



お日様のシャワーみたい、そう言ってニィナは微笑む。



私はそれに、そうだなと答えた。
内心、ニィナが妖精のようだと思いながら。





ニィナは私の前を歩く。
開けた場所に現れ出(いで)て、私に振り向いて。





「アルヴァンド!」





溢れ帰らんばかりの輝かしい陽光を浴びて、ニィナは私に微笑んだ。





まるで陽光に溶けるような輝かしい笑み。
それはあまりにも美しく、それはあまりにも儚くて。
触れるどころか、視線すら外せばすぐに消えてしまいそうで。

それに私は不意に不安を覚えて、その場から駆け出していた。
そのままニィナの姿を捉えては、強く引き寄せ抱きしめる。



「あ、アルヴァンド・・・?」



突然抱きしめて来た私に驚いたのだろう、腕の中で困惑の声が聞こえて来る。
私はそれに申し訳ないと思いつつも、その抱きしめる腕に力を込めた。



「・・・どうしたの?」



心配そうな愛しい声が問う。
私の背にそっと両の手を添えて。



「君が・・・」

「・・・?」

「君が、消えてしまいそうだったから」

「私が・・・?」



腕の中で小首を傾げたニィナに、私は小さく頷いた。



「私の名を呼んで振り向いた君が、光の中に消えてしまいそうに見えた」



そう私は呟いてニィナを抱きしめる腕を強める。
するとニィナは身体から力を抜いて、私の背にその細い両の腕を回してくれた。



「私は、消えたりしないのに」



私を安心させるように、ニィナは私の頭を優しく撫でてくれる。



「私は、アルヴァンドを置いて消えたりしないよ」

「判っている。判っては、いるんだ」





そう、判っている。



ニィナが決して私を一人にしないことを。
私を残して消えないことを。



私は誰よりも知っている。



だが、それでも。
私の名を呼んで振り向いてくれたニィナは、あまりにも眩しすぎて。
まるで本当にこの世界の女神のようで。





この世界の中に、溶けて消えてしまうのではないかと。
この世界に、ニィナが取られてしまうのではないかと。





本当に、そう思ってしまうのだ。










「君が私を一人にしないことは知っている。でも、思うのだ。私が君を愛すように、この世界も君を愛しているのではなかと。世界が・・・君を、私から奪ってしまうのではないかと」



そう思うと、不安で仕方ないのだ。
そう震えた声で呟く私に、ニィナはぎゅっと抱きしめ返してくれた。



「大丈夫。例えロデの世界が私を愛してくれていても、私はアルヴァンドの愛にしか応えないから。私はアルヴァンドしか、愛さないから」



だから。

ニィナは私を抱きしめる力を緩め、身体を少し離そうとする。
私はそれを受け入れて、抱きしめる腕を少し緩めて互いの顔を見合わせた。



「安心していいんだよ」



そう笑ったニィナの表情は、優しくて。
本当に、どこまでも慈愛にも満ちた女神の表情で。





「アルヴァンド、愛してる」





愛しい笑顔に、私は幸せの涙を流し。
その唇に、己の唇を近づけて。















「私も、誰よりも愛してる───ニィナ」




















口付けを、交わした。
























【お題元:橙の庭
2009,2,6