今日は休日。
空は快晴で気候も良好。
そんなお天気の空の下でニィナはナオヤとデートをしていた。
道すがらにある店に入って買い物をしたり、カフェでお茶をしたり。
ショーウィンドウをただ眺めて話し合ったりなどして楽しくウィンドウショッピングを楽しんでいる二人。
そんなデートの最中、いつも通りに街を歩いているとふとニィナの眼にある一件のお店が留った。
そこは色鮮やかな草花が沢山置いてあり、とても美しい緑あるお店。
ニィナはそれが気になって、僅かに歩く速度が遅くなる。
するとナオヤはそれに気付いて、ニィナの目線の先を追った。
「花屋さんだね、気になるの?」
花屋に意識を持って行かれている中急に問い掛けられて多少驚きつつも、ニィナはナオヤに振り返って頷いてみせる。
「うん、ちょっとね」
「そっか。じゃあちょっと覗いてみようか?」
そう微笑んで問い掛けてくれるナオヤに、ニィナは嬉しそうな表情を向けて一つうん、と肯定の返事を返した。
二人して花屋の側に近づくと色とりどりの草花が所狭しと並んでいる。
それを目にしてニィナは眼を輝かせて様々な植物を見て回った。
「あ、この花可愛い!」
「どれ?」
「これ」
そうニィナが指差した先には小さな花が。
小振りながらも寄って集まり健気に咲くその薄紫色の花は、確かにとても可愛らしい。
ナオヤはそれを見て、ああ、と一つ頷く。
「これは錨草だね」
「錨草?」
「そう。確か花言葉は『あなたを捕らえる』、『あなたを捕まえる』。それと『人生の出発』・・・だったかな」
「へー!ナオヤ君、花言葉とかよく知ってるんだね!」
「そんなことないよ。昔暇だった時に花言葉の本を読んだことがあったから、それで覚えていただけ」
「それでも十分凄いって!」
やっぱりナオヤ君は凄いね、とニィナは可愛らしく微笑む。
ナオヤはそれに暖かな気持ちになって、微笑み返した。
「でもこんなに可愛らしくて可憐なのに、花言葉は結構強引というか何と言うか・・・・強気、なんだね」
「確かにそうだね」
「でもそれって見た目程弱くなくて芯は強いんだよって言ってるみたいでカッコいいかもしれない」
「カッコいい?」
「うん。ただ手折られるだけの弱々しい存在じゃないんだって気がする。それに人生の出発って、すっごく前向きな花言葉じゃない?」
「確かにそうだね。強い意志がなければそんなこと言えないから」
「でしょ?」
そう言うとニィナは軽く小首を傾げて笑った。
するとさらりと音を発てて髪が肩を滑り落ちる。
ナオヤはそれを見て無償に触れたくなって、腕を伸ばした。
しかしそれはニィナの一言でぴたりと止まることになる。
「でもこの花、ちょっとナオヤ君に似ているかも」
「オレに・・・?」
「うん」
花を見つめながら素直に頷くニィナに、ナオヤは複雑そうな顔をする。
伸ばそうとした手を引いてニィナとともに再び錨草を覗き込んで確認してみるが、しかしそれは全く自分に似ているとは思えなかった。
「似てる・・・・の、かな?オレに」
「似てるよ。色とか雰囲気なんかがね」
「雰囲気?」
「うん。ナオヤ君て確かに格好良くてすっごく目立ってるんだけど、自分をひけらかしたりしないでしょ?」
「まあね」
「そう言う所とか、とっても真っ直ぐで大輪の花って感じじゃないんだよね。じゃあ大人しい感じかどうかと聞かれると、そう言うわけでもない。この花みたいに一見静かなように見えてとっても眼を惹く存在・・・みたいな感じがしたの。だから、ナオヤ君がこの錨草に似ているなって思ったの」
そう言われ、ナオヤは一瞬目を点にしたが、直ぐさまそれは優しい笑みに変わる。
自分をそう思って見つめてくれていたのだと思うと嬉しかったのだ。
そしてニィナに言われると確かに目の前にある紫の可憐な花が自分のように見えて来るのだから不思議だ。
よくよく考えると確かに似ているのかもしれないな、とナオヤは思う。
花言葉は『あなたを捕らえる』、『あなたを捕まえる』。
それは自分の中のニィナに対する気持ちと一緒だ。
ニィナを誰にも渡したくない。
ずっと自分の側にいて欲しい。
そう思っているのだから。
そう考えていると、ふとナオヤは錨草のもう一つの花言葉を思い出した。
そしてこれこそが自分とこの花が一番似ている言葉なのかもしれないとナオヤは思った。
「ニィナ、ちょっと待ってて」
「え?」
急に声を掛けられてニィナはきょとんとした表情を向けた後、ナオヤは目の前にある錨草の鉢を手に取った。
そしてそれをそのまま店の中へと入って会計を済ませる。
ニィナはぽかんとした表情のままその場で立っていると、暫くしてナオヤが店内から戻って来た。
「はい、ニィナ。これ、あげる」
「ええっ!?」
ニィナは驚いた表情で目の前に差し出されたラッピングを施された花を見た。
そこには先ほどナオヤが持って行った錨草があって。
「受け取って・・・・もらえるかな?」
少し困った表情をしながらも首を傾げて問い掛けるナオヤに、ニィナは慌てて頷いた。
「う、うん、受け取るっ、受け取るよっ!」
そう言ってわたわたとしながらも差し出されたそれを受け取った。
しかしニィナは少しばかり小首を傾げる。
「でも急にどうして錨草をプレゼントしてくれたの?」
そう問い掛けられると、ナオヤはくすくすと少し可笑しそうに笑った。
ニィナはそれに不思議そうな顔をする。
そんなニィナを見つめながら、ナオヤは楽しそうに笑いながら口を開いた。
「ニィナがさっきそれをオレみたいだって言ってくれたでしょ?」
「うん」
「ならそれをオレみたいに思って持っていてくれたら嬉しいなって思ったんだ。それに花言葉もね」
「花言葉って・・・」
「『あなたを捕らえる』、『あなたを捕まえる』」
「・・・!」
「それと、『人生の出発』。オレはニィナと出逢って人生が変わったんだ。だから贈ろうと思った」
そう言って微笑んだナオヤは何処までも優しくて、美しくて。
ニィナはそれに半ば見とれて顔を真っ赤にしつつも錨草を抱きしめながら首を横に振った。
「そ、そんな御恐れたこと私やってないよ!それに人生が変わったのは、私の方だよっ!」
ばっと詰め寄るようにニィナは言って、そのまま思いの丈をぶつけるように続けた。
「私ナオヤ君と出逢って色々なものが変わったの。ゲームのことだってそうだし、私の周りだってそう。色んなものが変わって見えて、それが全部愛しく感じて・・・・私の人生を変えてくれたのはナオヤ君なの」
だからすっごく感謝してるんだ、とニィナは真っ赤な顔でいながらも照れくさそうにはにかんだ。
それにナオヤは嬉しくなってその頬に手をそっと添える。
ニィナはそれに少し驚きながらも、その手の体温に心が温かくなった気がした。
「ニィナ・・・ありがとう」
お互いの額を付合わせながら感謝の気持ちでそう言うと、ニィナも嬉しそうに見つめ返して。
「ナオヤ君、ありがとう」
そう、お互いに微笑み合った。
ナオヤはそれに幸福を感じて、今まで合わせていた額を放してニィナのおでこに口付ける。
軽いリップ音を響かせてその顔を見てやれば、ニィナは耳元まで真っ赤にしていた。
ナオヤはそれを嬉しく思いつつ笑ってみせる。
するとニィナは少し困ったようないじけたような表情をした。
「もう、ナオヤ君たら・・・・」
「ふふっ、可愛いよ、ニィナ」
ちらりとナオヤを見上げれば、愛しそうな眼差しで見つめ返される。
それに気恥ずかしくも嬉しくなったニィナはまあいいかと笑い返した。
「でもごめんね」
「え?何で謝るの?」
謝る理由が判らない、とニィナは小首を傾げる。
対してナオヤは苦笑した。
「本当は女性に花をあげるとき、鉢に入ったものをあげたらいけないんだよ」
「そうなの?」
「うん、失礼に値するからね」
「そうだったんだ」
知らなかった、とニィナは呟く。
「でもそれってそれを気にしない程にこれを私に渡したかったって思っても・・・いいんだよね?」
こくり、と愛らしく首を傾げるニィナに、ナオヤは微笑んで頷く。
「そうだね、それくらい、ニィナにはこれを貰って欲しかったんだ。だって錨草には、もう一つ花言葉があるから」
「そうなの?」
「うん」
「それってどういう花言葉なの?」
ニィナは興味津々と言った表情でナオヤを見上げる。
するとナオヤは悪戯っぽく微笑んだ。
「それはね・・・・」
君を放さない
*錨草は普通花屋さんには置いてないです
っていうか普通に山に生えてます
2009,9,12