「あなたは、私のことをどう思っているのですか?」
私が真剣に問い掛けると、彼は薄らと不敵に笑った。
嘘しか言わないピエロ
「そうですネェ・・・・まあ間違いなく、愛してはいませんネ」
そう言って笑った彼に、私は歯を噛み締める。
僅かに寄った私の眉間を視界に入れて、彼は私に近づいた。
「でも、大切には、思ってますけどネ」
さらり。
私の髪を優雅な手つきで撫でる。
それはとても大切そうに、愛おしそうに。
私はそれが嫌で、思い切りその手を薙ぎ払った。
「触らないで下さい」
きっ、と私は彼を睨みつける。
少し驚いたような赤い瞳がニヤリ、と嫌な色を見せた。
「愛してはいない。でも、大切には思っている。それはどちらかと言えば家族のような心情に近い。それではアナタは不満なのデスカ?」
余裕な笑みで私を見下ろす彼。
それが酷く憎たらしくて嫌いだ。
「知っている、くせに」
「知ってなどいませんヨ。ワタシは悟りではないのでネ」
クスリ。
嫌味ったらしく笑う口。
その口から発せられるのは、全て嘘でしかない。
「嘘つきは、嫌いです」
「おや、お嬢様も嘘つきだというのに、そんな言葉が出るとは驚きですネ」
「私をからかって吐く質の悪い嘘をつく方は、嫌いなんです」
「おやおや、そんな酷い人がいるんですネェ。それは実に愉快な方だ」
クスクス。
耳障りな笑い声。
それなのに私を楽しそうに見つめる赤い瞳から私は視線が逸らせない。
それに私は益々憤りを覚えて、その身を翻した。
「おや、何処に行かれるのデス?」
「貴方のいないところです」
そう言って私は荒々しくも靴音を発ててその場から離れようと歩み出した。
けれど。
「それは頂けませんネェ」
ぐいっと、不意に後ろへと腕を引かれたと思ったら、私はそのまま何かに包み込まれる。
「・・・ブレイク、何のつもりですか?」
「別に、どういうつもりもないデスヨ」
「放して下さい」
「イヤだ、と答えたら?」
「このまま貴方の足を踏みつけます」
「・・・・それは些か遠慮したいですネェ」
そう少し冷や汗混じりにも答えたが、彼は一向に私から離れる素振りを見せない。
私を背後から抱きしめたまま、耳元にクスクスと笑う嫌みな声が小さく聞こえる。
とことんそれに私の心は掻き乱されて、両の手に力を込める。
愛していないと言った口で、離れるのが嫌だと言う。
何処までも私の感情に苦しさを生み出すその口が、憎くて憎くて仕方ない。
「放して」
「・・・・・」
「放して」
「・・・・・」
「放して下さい、ザクス兄さん・・・っ!」
最後は声が震えてしまった。
きっと私の身体も震えているんだわ。
そう思ったら涙が出て来て。
不意にその涙を男性の割には細い指先で拭われて、それを口に含まされた。
「塩っぱいデスカ?自分の涙は」
「・・・んっ」
私は口内を這う指先に眉根を寄せる。
この男は何がやりたいの。
訳の判らないその行動にただ自分の心が掻き乱されているだけなのが悔しくて、私は彼の足をヒールの踵で踏んづけてやった。
「ぃっ・・・!?」
痛みに身悶える声が耳元に聞こえると、私の口内を這っていた指が口から抜かれた。
それにいい気味だわと思っているのも束の間、彼は痛みに僅かに眉を寄せながらも耳元に唇を寄せた。
身体はさっきよりもより一層きつく引き寄せられ、抜け出すことは出来ない。
「全く、可愛くない人だ。このままここで喰い散らかして差し上げたいですヨ」
そう言ったかと思うと耳元に舌を這わされて。
「大嫌いデスヨ、シャロン」
酷く甘ったるい声音で、そう囁かれた。
私はそれに悔しさに息を小さく詰めた。
「嘘、つき」
小さく呟いた私の言葉に、彼は笑う。
「嘘つきですから」
そう笑って、私の頬に口付けた。
酷い人。
私の気持ちを
知っていて、
嘘ばかり吐く彼。
でもそんな彼に
溺れている
私も、きっと、
【お題元:期間限定】
2009,7,12