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夢を見る。
懐かしい歌声の、幼き少女の夢を。





夢の歌は現の夢か








新緑の草木に蒼い空。
そこに広がる海の潮風と若草の匂い。
そこでオレはハーモニカを吹いて、幼き少女がそれに拙く歌を乗せる。

何処までも懐かしい歌。
何処までも愛しい声。

それはオレの唯一持っている記憶のメロディ。
夢の中の少女はそれを紡いではオレの心を優しく暖かいもので満たす。
まるで腕(かいな)に包み込まれているかのような気分で、何も考えなくても良い筈の心に懐かしさが溢れ出す。





この夢は記憶なのだろうか。
それとも夢が生み出す虚像なのだろうか。

記憶の無いオレには証明する術が無い。
それを何処か残念だと思いながらも、それを考えることは無駄だと目が覚めると理性が言う。





ふと、胸元に掛けていたブルースハープに視線を向ける。
確か夢の中の自分もハーモニカを持っていて、それを吹いていた。
けれどそれは夢の証明にはならないし、確信には至らない。

オレはそのブルースハープを手にして、唇に当てる。
そのまま己の身体に身に染みた懐かしのメロディーを奏でると、夢の光景が脳裏に過った。
身も心もその夢を思い出して、疑似体験にも似た懐かしい感覚が身体を包んだ気がする。
しかしそれは何処かもの足りず、確信へとは至らない。





ハーモニカの音。
懐かしいメロディ。

けれどここには夢のような少女の声音は存在しない。

そう、少女の声が。
少女の歌声が、足りない。





この少女の歌声さえあれば、この夢と記憶に何か手がかりが出来る気がするのに。
けれども欠けたピースは見つからず、記憶も夢も何もかもが曖昧で空っぽ。

記憶が戻ればこの夢の少女が誰なのか判るだろうか?
架空の人物か、それとも現実に存在するのか。
それすらも定かではない少女に、オレは想いを馳せた。




















懐かしいメロディを奏でる。
想いを馳せる声音の無い、愛しさを溢れさせるメロディを。

いつかこのメロディに夢と同じように懐かしの少女の声音が乗ることを夢見ながら、オレは宇宙へと奏で続けた。

























2009,4,25


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