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「──と」



声が聞こえる。



「─んと」



心地良い声が。





ぐずる理由








「ムント、ムントってば!」

「ん・・・・」

「もう、起きて!朝よ!」



薄らと目を開けると、視界の中に眩しい陽射しが差し込んで来る。
俺はそれに目を細めて、ごろりと寝返りを打った。



「ん〜〜・・・・まだ眠い」

「あっ、こらっ、また寝ないの!いい加減起きなさい!!」

「・・・嫌だ」

「我が儘言わない!もう、王様なのに朝寝坊なんてみっともない」



全く、と言って不機嫌そうに溜め息を吐くユメミ。
俺はそんな姿を布団の中でぼんやりとした頭で見つめる。
するとふといいことを思いつき、俺は僅かに口元に笑みを浮かべた。



「・・・ユメミ」

「何?って、きゃあ!」



どさり、と音を発てて俺の腕の中へユメミが転がり込んで来た。



「もう、いきなり腕引っ張んないでよ!」



抗議を上げる声にも俺は構わず、その細く華奢な腰に腕を回す。



「って、ちょっ、ムント、抱きつかないで」

「嫌だ」

「もう、ムント!!」

「・・・気持ちいい」



ユメミの腰を引き寄せて、柔らかに触れる髪から香る香りに身を寄せて呟いた。
それにユメミは口を噤む。
顔は見えないが、多分その顔は真っ赤だろう。
胸元から伝わる熱がそう告げていた。



「っ・・・・これじゃあ、本当に政に遅刻しちゃうわ」

「少しくらいなら許されるだろう」

「そんなの駄目よ!」

「俺様はもっと、お前とこうしていたい」

「・・・・っ・・・・・卑怯よ」



ぼそりと呟くと、ユメミは腕の中で大人しくなった。

本当にユメミは可愛い。
どうしようもなく可愛くて、思わず手を離したくなくなる。

そう目を瞑りながら思っていると、胸元から疲れたような小さな溜め息が聞こえて来た。



「皆はムントって寝起きは普通に良くて自分で起きられるって言ってたのに、嘘つき」

「・・・皆がそう言ったのか?」

「そうよ。でも嘘っぱちだってことが証明されたわ」

「・・・・・」



俺は内心告げ口した皆に舌打ちをする。
何故なら俺は、本当は寝起きは良いからだ。
でも、俺がこうしてぐずっているのには理由があって。



「他の奴が言うことなんて当てにならないさ。事実お前の知っている俺様は、こんなにも寝起きが悪い」

「・・・・・」



急にユメミが口を噤んだ。
俺はそれを不思議に思って上半身だけ僅かに離し、胸元のユメミの表情を見る。



「・・・今ので判ったわ」

「何が?」

「ムントは寝起きが悪いんじゃなくて、性格が悪いんだって」

「なっ!?」



ちょっと睨むように俺を見上げたユメミに、俺は驚き眉根を寄せる。



「この俺様の性格の何処が悪いって言うんだ!」

「悪いわよ。仕事をしたくないからって布団の中でぐずってるんだから。まるで学校に行きたくないって我が儘言ってる子供みたい」

「こっ、こどっ・・・・俺様は子供ではない!」

「自分のことを俺様なんて言ってる人は、子供です!」

「ユメミ!!」



つーん。

腕の中にいながらユメミはつっけんどんな態度を取る。
それに俺はかちんと来て。



「ほーう。あくまでもこの俺様を子供だと言うんだな?」

「当たり前よ」

「なら、子供じゃないと証明してやる」

「・・・え?」



今まで一緒に横になっていたユメミの上に影を造り、俺はユメミを見下ろす。
それにユメミは少々冷や汗を浮かべて。



「む、ムント・・・?」

「俺様が子供ではないとその身体に教えてやる」



そう俺は不敵に笑って、ユメミの抗議を唇で奪った。
























「酷いわ、酷い」



ぶつぶつと、俺の隣で俯せになって呟いているユメミを俺は見つめる。
白いシーツから覗く白い肌が酷く魅惑的で思わず触れたくなるのだが、今それをしてしまうとユメミの逆鱗に触れそうなので、それを必死に堪える。



「酷いわ、こんな・・・・仕事したくないからってこんなことするなんて」



涙目にしながらそう呟くユメミに、俺は呆れたように小さく溜め息を吐いた。



「お前、まだそんなこと言っているのか?」

「当たり前よ!」

「全く・・・・俺様は別に、仕事が嫌なわけじゃないぞ」



そう呆れたように言うと、ユメミはじっと睨むように俺を見つめて来る。



「・・・じゃあ何だって言うのよ」

「こうして寝ていれば、お前が俺を起こしに来るだろう?朝一番にお前の顔が見れるから、俺様は自分では起きない」

「・・・じゃあぐずる理由は?」

「お前が構ってくれるから」



そうにやりと笑うと、ユメミの頬は瞬時に真っ赤に染まって。



「・・・バカ」



小さく呟いて、枕に顔を埋めてしまった。
そんなユメミが可愛くて、俺は微笑みその身体を引き寄せる。



「俺様はお前と一緒にいたいんだよ」

「ムント・・・」



互いに見つめ合うとどちらとともなく顔を寄せる。
そのまま口付けを交わそうと近づくと。



「ムント!!いつまで寝ているつもりだ!?」



そう大声とともに大きなドアの開く音がして───ルイが部屋に入って来た。

それに俺とユメミは驚き振り返って。
そんな俺たちに向こうは目を点にして。





「っ、きゃぁぁぁあああああああああ!!!!!」





ユメミの叫び声が城中に響き渡った。
それに現状をすぐに読み取ったルイは。



「しっ、失礼しました!!」



と、顔を赤くして即座に扉を閉める。
俺はそれに溜め息を吐いて、軽く頭を掻いた。



「・・・いい加減、起きるか」



呟いてユメミを見ると、シーツに身体を丸めて顔を真っ赤にし、縮こまっている。
目元には涙が僅かに浮かんでいた。



「みっ、見られた・・・・・」



少々ぐずったユメミに、俺は愛しそうに目を細めながら苦笑する。



「確かに見られはしたかもしれないが・・・・多分大丈夫だろ」

「どうしてよ」

「背中を向けてたんだから、こっちは大丈夫だ」



そう言って胸元に触れると、凄い勢いで平手を喰らった。



「いっ、痛って!!」

「ムントのエッチ!!」



ムントのばーか!
そう言ってユメミはシーツごとベッドを離れた。

頬の痛みに俺は頬を手で摩りながら、そのバスルームへと遠ざかって行く背に恨みがましい眼差しを向ける。
だがそれも、首元まで真っ赤に染めていることに気付いて、すぐに微笑みへと変えた。
去り行く背に俺もベッドから降りて近づいて、その身体を背後から抱きしめる。



「ちょっ、ムント!」



抗議の声が即座に聞こえて来たが、俺はそれを愛しい想いで聞いて目を軽く閉じた。





「ユメミ、愛してる」





そう耳元で告げるとユメミは暴れるのを止め、その身体から力を抜いて。















「・・・私もよ、ムント」















抱きしめる俺の手を優しくその手で包み込んで、そう、笑ってくれた。



























「ルイ」

「なんだ、ムント?」

「お前今朝ユメミの裸、見ただろ」

「・・・見てない」

「・・・・・」

「ほ、本当だぞっ!」

「お前後で城内の罰掃除決定」

「なんで!?」






























「俺様の大事なユメミの肌を見たんだ、それぐらい当然だろう?」


2009,2,11



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