「大嫌いよ、アンタなんて」
そう言ってルナマリアは泣く。
オレの胸元を叩いて、服に皺を作って。
「大っ嫌い、大っ嫌い!」
そう何度も呟いて、服に染みを作って。
ルナマリアは、泣く。
そんな彼女を見て、オレは卑怯にも喜んだ。
彼女はオレがいなくなることを恐れている。
オレが死んでしまうことを哀しんでる。
それはつまり、彼女にとってオレは捨て難い存在であるということで。
この欠陥品だらけの身体のオレを。
この欠陥品だらけの心を持ったオレを。
彼女は、大切だと。
失いたくないと。
大好きなのだと。
そう、思ってくれる。
それがオレは堪らなく嬉しかった。
「嫌い、嫌い。アンタなんて、嫌い!」
ルナマリアは泣く。
オレの胸元を叩いて、バカと、大嫌いと、オレを罵って。
でもそれは、徐々に弱って行って。
最後はオレの胸元の衣服を小さく掴んで、オレの身体へと縋った。
「なんで。なんでアンタはいつも、いつも、」
私を置いて行くの。
そうルナマリアは弱々しくも呟いて、泣く。
その身体は僅かに震えていて、とても小さく、儚く見えた。
ああ、彼女はこんなにも小さい。
ああ、彼女はこんなにも弱い。
普段気丈に、明るく振る舞っているけれど。
けれどもやはり、彼女は一人の少女なのだ。
壊れそうな小さい肩。
折れてしまいそうな細い腕。
その腰も、オレが強く抱きしめたならすぐにでも壊れてしまいそうだ。
彼女はこんなにも小さな身体で、いつも戦っている。
様々な人たちに女であるのに赤服でいることを妬まれて、罵倒されても。
強敵が現れて、何度も危機的状況下に陥っても。
その全てを打ち返して、輝きを消さずに凛と立っている。
それはどこまでも強く、凛々しく。
まるで戦神のヴァルキリーのように、気高い。
けれどそれは、彼女の強いところだけだ。
彼女は本当はただの少女なのだから、女神であるわけがない。
だから彼女は戦神のように無敵ではないし、強くもない。
いつも影で、苦しんでいる。
女であるからと見下されることに。
女であるからと、どんなに努力しても力で男に叶わぬことに。
それに、苦しんでいる。
それでも彼女は弱みを見せない。
決して誰にも弱い自分など見せたくないと、いつも胸を張っている。
だから彼女は滅多なことがない限り、涙を見せることはない。
人に縋ることなどしない。
隙を見せないように、努力しているのだから。
でも、そんな彼女が。
そう、そんな彼女が。
今、泣いている。
オレが長く生きられない、欠陥品であることを告げただけで。
そう遠くない日に、オレは彼女の前から消えることを告げただけで。
彼女は、泣いている。
それがオレは、堪らなく嬉しかった。
愛おしかった。
こんな作り物のオレでも、思ってくれる人がいる。
大切に思ってくれる人がいる。
泣いてくれる、人がいる。
しかもそれが、滅多なことでは泣かない、大切な人だなんて。
それがオレは堪らなく愛しくて、自然と口元に笑みを浮かべた。
それはどこまでも愛おしい笑みで、そしてこれから消え行く未来に哀しむ笑みで。
オレはそれを見られたくなくて、胸元で震える肩を抱く。
それにびくりと震えながらも、彼女はぎゅっとオレの服を強く掴んだ。
それをいいことに、オレは彼女の腰に腕を回す。
やはり細い腰で、オレが力を加えたなら本当に壊れてしまいそうだった。
けれど沢山鍛えて努力している彼女は、本当はそんなに脆くない。
脆かったなら、赤ザクなんて乗りこなせないのだから。
それでも涙する彼女は、本当に脆くて。
その脆さは、オレの前でしか見せないのだと思うと嬉しくて。
彼女を泣かせているはずなのに。
彼女を哀しませ、苦しませているはずなのに。
それが今、オレはこの上もなく幸福に感じた。
嗚呼、オレはなんて酷い奴なのだろう。
そうオレは自嘲すると、彼女の頭を胸元に引き寄せる。
すると彼女はオレの背中に手を回して。
ぎゅっ、と。
強く。
抱きしめた。
「だい、き、らい」
ルナマリアは呟く。
弱々しく、切なそうに。
涙を流しながら、オレへと向ける愛情を沢山乗せて。
オレはそれに微笑むと、優しく彼女の頭を撫でて、そっと口付けた。
きみをえがおに
できないぼくで
ごめんね
2010,8,7