デュラララ | ナノ


「シ〜ズ〜っ!」



そう私は脇から背の高いシズの腰元に嬉々として抱きつくと、シズは一瞬驚いた顔をしたあと、サングラス越しに私を見下ろした。
手元には煙草を持っていて、その灰が私に降り掛からないよう気を使って逸らしてくれる。
その心遣いだけでも私は胸がきゅんとして、ぎゅ〜っとその身体を抱きしめた。



「・・・んだよ」

「いやもう、シズって可愛いなぁって思って」



そうデレデレした顔で言えば、シズは僅かに顔を顰めたが、別段怒ることもせずに私を見つめた。



「・・・可愛いとか、男に言うもんじゃねぇだろ」

「そんなことないよっ!シズはすっごく可愛いもの!もうこんなペットがいたら私可愛がっちゃうし溺愛しちゃうっ!」

「・・・・俺、ペットなのか。つか人間じゃねぇのかよ」

「いや人間だよっ!人間だけどもっ!!でもでも、こんな子ペットに欲しいですっ!」



本当にシズがペットになってくれたら絶対に一日中可愛がってしまう自信がある。
てか可愛がらない方がおかしいし、絶対に四六時中構ってしまうだろう。
朝起きたらおはようを言って、頭を撫でて、ぎゅっとその大きな身体を抱きしめる。
それにそっと笑い返してくれたりしてくれれば、もう私は何も望まない。
もしそんな日が来てくれるのならば、私は今の生活を捨てたって構いやしないっ!

そう私が片手に拳を作って力説すれば、シズは私を見て目を点にした。



「なんだよそれ」

「私の本心よっ!」

「・・・こんな暴力的な奴でもか」

「別にシズは暴力が好きなわけじゃないでしょう?寧ろ嫌っているし」

「まあ、」

「だから関係ないよっ!シズは確かにキレやすいけど、それでも私の前では極力抑えようとしてくれてるし、それだけで十分。っていうかそこがまたご主人様のために〜って感じで我慢してくれてるみたいで益々萌えるのっ!」

「・・・・もえ?」

「いやまあそこは気にしないでいいから!」

「・・・はあ、」



それだけ言うと、シズは口を噤んだ。
相も変わらず無表情だけれど、それでも何かを思案しているのが窺える。
少し斜め上を見て煙草を噴かすその姿は、可愛いよりもどちらかと言えばかっこいい。
それでもやっぱり可愛く見えるのだから、私の眼や脳は相当シズに毒されているのだと思う。

シズはかっこいいけど可愛い。
可愛いけどかっこいい。
そんなかっこいいと可愛いを兼ね備えている成人男性は、世の中にはそういないと私は思う。
だからこそ好きで好きで堪らなくて思わずぎゅ〜ってしたくなる。

可愛い可愛い可愛い可愛い。
可愛いよ、シズ。

もうどうしようもない愛しさで顔がデレデレになっている私。
それが自覚出来るくらいなんだから、相当なものなんだろう。
それでもシズは私を邪険にはしないし、怒らないで付合ってくれる。
それが益々私を夢中にさせていることを、この男は知っているのだろうか?



「なぁ、」

「はいはいなんですか?」

「俺をペットにしたいって本心か?」

「も〜う、そうだってさっき言ったじゃない!」



冗談でそんなこと言いますか!
と抱きついていたシズから身体を離して胸を張れば、シズは普通は冗談だろ、と呆れ顔で私を見下ろした。
ああでもそんな表情すら可愛いよ、シズっ!



「じゃぁ、」

「ん?」

「俺のこと、飼えよ」

「・・・・・は?」



私は思わず目を点にした。

今シズはなんて言った?
今シズの口からなんて言葉が出た?

俺のこと飼え?
え、それとも俺のこと買え?

いやいや最後の方は色々と拙い気がする。
いや確かに前者の方が一般的にはおかしいけれどもっ!

でもでも今確かにシズの口から、俺を飼えって言葉が・・・・・。



「ぇ、は、え?」



私は混乱のまま思考がぐるぐるしながらそんな間抜けな声を出す。
だがその頬が赤いのは自分でもよく判った。



「だから、俺のこと飼えよ。ペットにしたいんだろ?」

「い、いやぁまあ、そうで、すけれど、も」

「んじゃあ問題ねぇだろ。お前んとこ一人暮らしだし」



まあ俺んとこでもいいけど。
そうシズは付け足すと、煙草を再度噴かす。
妙に冷静な表情の口から紫煙が吐き出されるのを私は視界に留めながら、硬直したようにその場に立ち尽くしていた。

だってシズがペットになってくれるとか、色々と有り得ない。
いや勿論すっごく嬉しいけれども。
っていうか願ったり叶ったりだけれども。
寧ろ万々歳で色々と脳内がヤバいけれども。

けれども、ほら・・・ね。
私の妄想っていうオチも、あるし。
現実的に考えれば、冗談っていうことも、ある、し。

私にとってシズの言葉はあまりにも嬉し過ぎるものだったせいか、何故か手放しには喜べない。
もっと本当は両手あげて飛び跳ねるくらい喜べるはずなのに、今はそんな気も沸き上がらない。
嬉しさの度が過ぎると人って臆病になるものなのね・・・・。

そんなことを私は思いながら、頬を軽く引き吊らせてシズを見上げる。



「ほ、本気・・・?」

「おう」



こくり、と真面目顔で頷かれ、私は脳天に雷が落ちた気がした。
もうそこで、私の何かが壊れたのだと思う。



「ぜ、ぜぜぜぜぜぜぜぜ是非とも飼わせていただきますーーーーーー!!!!」



なんだか色々といつも以上に危ない脳内でそう即答して頭を下げれば、シズは私を見て小さく笑った。

あ、あれ?
やっぱり冗談だった?

頭だか目だかがぐるぐるしながら、シズの笑った声を聞いて頭を上げれば、私はその光景に目を見開き固まる。



「し、シズ・・・?」

「ん?」

「ち、近くないですか?」

「そうか?さっきお前抱きついてたんだからそうでもないだろ」

「いやいやいやいやそれはそうだけれども。でもね、でもね、ほ、ほら、こっ、こんなに顔近くなかったしっ・・・!」



眼前に迫った綺麗に整っているシズの顔に驚き、顔を赤くしながら思わず仰け反る。
しかしそれは背後にあった壁にすぐ遮られ、逃げ場を失ってしまった。

・・・あれ?
こんなに近くでシズの顔見れるのに、なんで私逃げてるの?

背後の壁を感じながらそう自分に問い掛けるが、しかしそれはすぐに吹き飛ぶ。
だってシズが私の顔の横にある壁に手を置いて、私の顔を覗き込むように間近までその顔が近づいて来たから。

白い肌に整った顔立ち。
人工的なのにやけに綺麗に見える金髪に、サングラス越しに見える少しばかり鋭い目つき。
その茶色がかった瞳には私を映し、薄い唇は不敵に弧を描く。

そんな綺麗な顔が鼻先擦れるくらい近くにある状態に、私は何故だか叫び出したい気持ちになった。
どうしてだか無性に恥ずかしくて逃げ出したい気分なのだ。

だが私の身体はそれを実行出来ない。
今動いてしまったら、シズの唇に私の唇が当たってしまいそうだからだ。
身動きなんてしたら、きっと私は羞恥で立っていることも出来なくなるだろう。

そう私が顔を赤くして固まっていると、シズはまた小さく笑う。
心底楽しそうに、愉快そうに。

そして口を開くと。










「これから宜しくな、ご主人様?」










それだけ呟いて、私の唇をぺろりと、舐めた。

























「・・・沙良?」

「・・・・・・」

「駄目だ、気絶してやがる」



2010,6,9



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