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[お礼小説]

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高校一年生

蝶子
大学生

※過去拍手文『蝶子さんと樹くん 前編』の続き


『蝶子さんと樹くん 後編』



ねえ、知ってる?

高級マンションのだだっ広いエントランスって声が響くんだよ。
大理石だかなんだか知らないけどそういうのに反響するんだと思う。

僕も今まで特に気にしていなかったけど、後ろから近づいてくる革靴の音に心臓が口から飛び出そうになって初めて気づいた。

まるでホラー映画の主人公みたいに早く来い早く来いってエレベーターの扉が開くのを必死で祈ったけど一向に開く気配はなく。
早鐘を打つように僕の心臓は躍り狂い、口の中の水分は等の昔になくなっていた。

あわよくばあの人が来る前に乗り込んでしまって、閉じるのボタンを押してしまいたかった。
向 かい合わせに2つずつ設置されている計の4つエレベーターがフル可動しているはずなのに、たった1つしか動いてないなんて……。

神様はこんなときでも僕に味方してくれない。

そのよく響く靴音が背後でパタリと止まり、嫌な汗が額から一筋流れ落ちた。


「…………………………」


エレベーターが到着するまでの長い長い沈黙の間、今までどうやって息を吸って吐いていたのかわからなくなり始めた頃、ピンポ〜ンと場違い極まりない到着音がようやく鳴った。

に、逃げたい。
今すぐ此処から消えてしまいたい。

ゆっくりと開いた扉にいそいそと乗り込み最上階のボタンを押した。
僕は緊張し、手に持ったままだった紙袋を抱き抱えるように持ち直した。

言わずもがな僕に続いてさっきのサラリーマン風の人が乗り込んできたみたいだったが、顔を上げることが出来ないでいるのでピカピカに磨かれた黒い靴の先だけが見える。


なんで僕がこんな目にーー。
さっきの、絶対に聞かれてた。
きっと軽蔑や侮蔑の目で見てるに違いない。
こいつは女の子にあんな恥ずかしいことを言わされて、興奮してしまう変態なんだときっと思われた。


恥ずかしい。悲しい。切ない。

涙がじわっと滲んできて紙袋を抱える手にいっそう力がこもった。


「ひッ!」

「あ。…………ごめん」

「い、いえ」


その時の僕は半泣きのひどい顔をしていたはずだから逆に驚かせてしまったことは間違いない。
その人がエレベーターの行き先ボタンを押そうと腕を伸ばしてきただけだったと言うことはすぐにわかった。


「…
…お前さ」

「!」

「ふ、……ビクつきすぎ」


そう、僕はビビっていた。
と言うよりむしろ、パニックになっていたと言うほうが正しいかもしれない。
ボタンを押すために伸ばされた腕は自然な動作で、今では僕の顔の横にある。
なぜかのぞきこむようにしておもむろに距離を詰められた。

狭いエレベーターの中で男二人、この距離感はどう考えてもおかしい。


「お前ドMちゃんなの」

「え」

「その顔、無意識でやってるんだったら気を付けたほうがいいぜ」


何を言ってるのかさっぱりだ。
そしていつの間にか両の尻を揉まれている不思議。


「あ、あああああの……っ」

「俺さ、大勢の人の話聞き分けんの超得意なんだよね」

「ーっ!」

「だからさっきのインターフォン越しの会話もバッチリ聞こえてた、……って言ったら、どうする?」






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