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ホールでコレットが転びそうになっていたから、咄嗟に腕を掴んだら一緒になって転んでしまった。
派手にいったなー、とか大丈夫か?という声を聞きながら、起き上がってコレットに大丈夫だったか聞こうとしたら凄い勢いで謝られた。

「ご、ごめんなさい!だいじょぶだった?怪我とかしてない?」
「う、うん。コレットのほうこそ大丈夫?」
「うん、私はだいじょぶだよ。ほら、この通り!」

そう言ってすくっと立ち上がりくるっと回ってみせると、にっこりと笑った。
コレットはよく転ぶのに何で怪我をしないんだろう。

「それならよかった」
「私が転びそうなのを助けようとしてくれたんだよね?ありがとエミル」
「あ、う、うん」

助けるどころか巻き 込まれてしまったのに、お礼を言われてちょっと恥ずかしくなった。
コレットに差し出された手を取り立ち上がると右足に少し痛みが走る。つい声が出そうになったが眉をひそめて我慢した。
幸いコレットはエミルの様子に気付いておらず、今から用事があるから、とお礼を言って去っていった。

「よかった、バレなくて。…でもちょっと痛いな……ほっとけば治ったりしないかなぁ」
「ダメよ、医務室にいってらっしゃい」
「うわっ!あ、アンジュいつから…!?」
「うわって何かなぁ、エミル君?」
「ご、ごめんなさい…」

ずっとホールにいるアンジュは最初から見ていたらしい。エミルの怪我にも気付いたようで、コレットには黙っておくから医務室に行ってきなさい、と言われた 。











中から、お願いしますね、という声と共にこちらに歩いてくる足音が聞こえたので、ノックしようとしていた手を止めるとすぐに扉が開いてアニーが出てきた。

「あ、エミルさんどうかしました?」
「あ、な、なんでもないよ」
「そうですか?それじゃあ、私ちょっと用事があるので失礼しますね」

アニーは扉の前にエミルが居たことに驚くこともなく、慌ただしく走っていった。急いでいる様子だったのでつい、なんでもないと言ってしまったが、どうしよう…と医務室の中を覗くといつもアニーがいる場所に誰か居る。ナナリー…じゃないな。色が。銀髪だし…あれ、もしかしてルカかな?とりあえず中に入ろう。

「あ、やっぱりルカだ」
「あれ、 エミル。どうしたの?」

中に居たのは、勉強道具を広げて机に向かっているルカだった。

「あ、さっき入口でアニーと話してたのはエミルだったんだね」
「うん。ルカはどうしてここに?」
「アニーがちょっと医務室空けるからって、その間ここを頼まれたんだ」
「そっか。ルカって医者目指してるもんね」
「うん、軽い手当てなら出来るし」

勉強道具を片付けながらルカが続ける。

「それで、どうしたの?僕に用事…じゃないよね」
「あ、うん。さっきホールで転んで足捻っちゃったみたいで…」
「ええ!?大丈夫?ちょっとここに座ってて」

ルカはさっきまで自分が座っていた椅子からどくと、エミルにそこに座るよう指示して棚の方へ行き、何かを探し始めた。
エミルはそれを見ながら黙って椅子に座る。

「ごめんね、ルカ」
「え、何が?」
「えっと、勉強の邪魔しちゃって」
「あ…これは誰かが来るまでやることないからやってただけで…」
「あはは、暇だったんだ」
「うん、誰も来ないし」

目当ての物を見つけたルカはエミルの足元に屈むと、足を出すように促す。
慌てて靴を脱ぎ足を出すと、足首が赤くなり少し腫れていた。

「うーん…そんなに腫れてないから折れてはないかな。今は痛い?」
「歩いたりしたら痛いけど…今は大丈夫だよ。だけど凄いね、見ただけで分かるの?」
「うん、折れたらもっと腫れ上がるし…歩けないくらい痛いから」
「そうなんだ」
「軽い捻挫だから、湿布貼ってしばらく安静にしてればす ぐ治るよ」
「よかったぁ」

すぐに治ると言われて安心する。長引くとコレットにバレるかもしれないし、仕事も出来ないし。

「だけど、いつまでも痛みが続いたらちゃんと言ってね?」
「うん、わかったよ」

これでよし、とルカが湿布を貼り終わるとすぐに靴を履き、立ち上がる。

「え、あれ、もう行くの?」
「ここに居たら誰か来たとき邪魔になるかと思って…」
「今は誰もいないから大丈夫じゃないかな」
「そう?それじゃあ、もうちょっと居てもいい?」
「う、うん!」

実は暇だったから話し相手が欲しかったんだ、とルカは嬉しそうに笑う。
エミルは安静にしててね、という言葉を思い出してベッドに腰をおろした。




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