ある昼下がり
風が穏やかに流れ、草木がなびく
自分の髪も翻弄され、動く度に頬を撫でるからくすぐったくてしょうがない
晴天、うららかな日射し、程よい暖かさが眠気を誘う
これ以上に心地いい日があるだろうか?
目に見える全ての草木が風に合わせて気持ち良さそうに踊っている
木々も、若葉も、蕾も、華も
目の前の白い布も皆舞うように・・・?
白い・・・布・・・?
「っわだああぁぁぁぁっ!!!」
「!?」
昼下がりの並木道、エリオットの叫び声はひどく響いた
「どっ、どうしたんですかエリオ?!
わだ・・・って、“和田”さんって誰ですか!?」
彼の前を歩いていたリケルは叫び声に驚き変なことを言う
「ツッコミ処がかなりずれてらっしゃいますよお嬢さん・・・」
そんな彼女の目の前にはおかしなポーズで地面にうつ伏せているエリオット
声のトーンが若干低い
どうやら落ち込んでいるらしい
「???
そういえばエリオ、貴方は何故地面に挨拶をしてらっしゃるのですか?」
「凄いですねお嬢様、これを挨拶と言い張るだなんて・・・」
「???凄いですか?
褒められると照れちゃいます///」
「ははは・・・ぁ・・・」
彼女との謎会話に、もしくは体勢に疲れたのか彼は顔を横にずらしリケルでいう『地面に挨拶』状態を解除する
ここで解説
今のエリオットの体勢は地面に全身が付くほど低い姿勢
対しリケルは立ったまま
しかも彼女は突然奇声を上げたエリオットを心配しかなり近くまでよっている
つまり彼が顔を動かしてまず見えるのは彼女のブーツ
そこから視線を上げてしまえば・・・
という解説の先を悟ったエリオットは
「ちょわああぁぁぁぁっっ!?!!」
と本日二度目の叫びと共に今度はリケルから距離をとるように後退った
「はわわ、今度はどうしたんですか?!エリオ」
「み、みみみみ見てない!見えてない!見てませんから!見てないとオレは誓えますから!」
「?????」
顔を真っ赤にして言い訳をするエリオットだが当の本人に意味は通じていなかった
「・・・落ち着きましたか?エリオ」
「ご、ごめんなさい、迷惑かけて・・・」
「いえいえ、お互い様ですよ」
そう言ってにっこりと微笑むリケル
いつも見ている笑顔なのにエリオットは思わず息を飲んだ
白い肌、朱色の頬、緩んだ唇、水晶の瞳
そして白に映える桃色の髪
何度見ても見とれてしまう美しさを持つ少女
更に彼女は王族の人間
自分のような平民の人間にとって雲の上の上の神に等しいくらいかけ離れた絶対の存在なのだ
そんな上の者に対する畏敬と彼女自身の年相応の愛らしさがなんとも言えない魅力を醸し出す
見とれるなんて日常茶飯事
しかも彼女は自分が見つめられることに気まずさを感じないのでエリオットが気づかない限りずっとこのまま・・・だが
幸い今日は早めに気付き直ぐ様リケルから顔を逸らす
「あぁ、うん!そうお互い様だよね!お互い様・・・」
「はい!」
「・・・///」
正直な少女の素直な返事にエリオットは視線を逸らして耐える
彼が自らに暗示を掛けるよう「冷静に、冷静になれ自分、冷静に」と呟き続ける苦悩をリケルは知らない
「それにしても、今日はとても気持ちがいいですね」
「本当だね、眠くなるくらい」
「お昼寝しますか?」
「いや、ここではやめといた方がいいかも・・・、道だし」
「そうですね」と笑うリケル
エリオットもつられて笑った
町での日常からは考えられぬ穏やかさ
働きづめだったあの日々よりもゆっくり流れてく毎日
平和で、新鮮な彼女の付き添い
「私、今とても幸せです」
「そうなの?」
「はい!城で知り得なかったことを沢山見て学べて、毎日が楽しくて!
それに・・・」
「・・・それに?」
リケルとエリオットの視線が重なる
彼の耳には少女からの、夢のような言葉
「こうやって時間を分かち合える人が居る・・・寄り添い歩いてくれる人がいてくれるなんてすごく素敵なことです」
微笑むリケル
エリオットは頬が熱くなるのを感じた
心臓がうるさいほどにバクバクと脈打つ
「そ・・・んな・・・オレだって・・・すごく光栄に、思う・・・思います」
「光栄だなんて、ふふふ
私の方こそ光栄です、貴方と・・・エリオット・タクトと一緒に居られることをリケル・ソティアはとても光栄に思います」
笑顔で
無垢な返事の衝撃の強さにエリオットは下を向いてしまう
それでもリケルはそんな彼を笑顔で見ていた
「さぁ、そろそろ参りましょうか?」
「う、うん!」
穏やかな風
花の香り
踊るように歩く少女
晴天、柔らかな日射しの昼下がり
少年にとってその日は何より心地良かった
++++++
エリオット君はムッツリです(笑)
二人の出会いを書きたいなぁ(遠い目)
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