幼子のまま見続ける夢を
朝、ご飯を食べる時のエスは何だかフラフラしていた。
エスの前で首を横に倒しみたら「痛いよ」と言われた。よく分からない。
その後、昨日の夜に指切り?約束したパンをエスが作ると言ったからついていく。
エスの手は不思議。
最初はサラサラなのに、エスが手を動かすと丸くなる。その後ギュッギュッと押すようにして、小さい形に分ける。
これがどうして食べれるものになるのか不思議。
粉は舐めてもザラザラするだけだし、固めたものを食べようとしたらエスに「体に悪いから食べちゃダメだよ!」と全力で止められた。
「あとは焼くだけだね」
エスが笑って言う。
あのちょっと潰れた塊が、出来るとぷっくり膨らんでるのが、不思議。
出来上がりをエスと食べた。あったかくて美味しかった。
エスの使う剣は細い。一番最初は僕のと似た剣を使ってたけど、僕がそれを折ってからエスは剣を替えた。
ジルディアがくれたとエスは言ってた。
「せやっ!」
エスの細い剣は動きが早い。押し合いをすればすぐにポッキリ折れてしまうから、エスもなるべく動かしてそうならないようにしてるらしい。
その剣の動きの間間に肘とか足も使う。そうしなきゃ隙ができてしまうから。
最近はその流れもすごく上手くなって、この前は「○○さんに勝ったんだ!」と喜んでた。
エスは強くなった。最初よりずっとずっと。
だけどまだまだ隙がいっぱいで、たまに大きくずれるところができるから。
「いたっ!?」
僕はそこでエスの剣を遠くに飛ばす。
一番最初、エスとやったときにエスはぶるぶると体を震わせてた。
ジルディアが言った「手加減をしろ」と。
その頃の僕には分からなかった。手加減が分からなかった。
ジルディアがお手本を見せてくれて、手加減は力を抜くことだって分かった。
だけどエスは体を震わせて剣を持たなかったから、僕は何もしなかった。
皆同じだったから。
ジルディア以外はみんな僕に剣を落とされると、泣いたり怒ったりした。分からなかった。
でもエスは違って。ご飯を食べてるときに傍に来た。
これをしろと言われて、でも分からないときに一緒にやって教えてくれた。
エスはジルディアと一緒。僕に近づいてくる人。悪くない人。
だから僕はエスが強くなりたいと思ってるから、強くなってほしいと思う。
エスはいい人だから。
悪い人は斬らなきゃいけないから、みんなみんな斬らなきゃいけないから。
だからエスの剣は壊さない、落とすだけ。
エスが僕が弾いた剣を拾って悩むようにしながら笑う。
エスはいい人。悪い人と全然違う。
少しだけ話をする。眠い。今日は早く起きたから眠い。
「ライド?」
目がうとうとする。エスにべったりと体を預けたら「眠いの?」って言って頭を撫でてくれた。
ぎゅっとエスの服を握って目を閉じると懐かしい感じがした。
「お休みライド」
エスが笑う気配がする。
そういえば、笑うってどうやってやるんだっけ?お母さんが教えてくれたけど忘れちゃった。
夢を見る。
お母さんが言う「ライドの髪はお父さんにそっくりね」と。
お母さんが髪の毛を撫でてくれる。あったかく撫でてくれる。
エスはちょっとだけ、お母さんに似てると思った。あったかい。優しい。違うけど似てると思った。
夢の中でお母さんが優しく笑う。小さい僕も嬉しくて笑った。
幼子のまま見続ける夢。
ああ、でも。
またいつものように夢は赤くなって終わってしまったけど。
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ライドの精神年齢はものすごく低いので書いてて新鮮。彼には彼なりの判断基準。
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