ただの暇つぶしにツタヤを練り歩いていると、たまたま見えた18禁のアダルトコーナーから宮地清志くんが出てきた。ビックリ。まさにこの言葉につきる。そして驚きのあまりわたしの脳みそが止まる。そのままピタリと足も止め彼から視線を外せずに居ると、暖簾から出てきたあと辺りをキョロキョロとせわしなく見回していた宮地くんと視線が交わった。なんとも云えない顔。お互いに。わたしがすっと宮地くんの手元に視線が移るのと、宮地くんが右手をすっと背中の後ろに隠したのはほぼ同時であった。「あ〜名字もなんか映画借りにきたの?」この沈黙に耐えきれないといったように、先に口を開いたのは宮地くんであった。「あ、ウン」わたしはそれだけしか返せなかった。せっかく宮地くんがこの気まずい沈黙を破ってくれたのに。また先程と同じ、気まず〜い沈黙がわたし達の間に流れた。「なんか、びっくりした」どうしょうどうしょうと思っていたら、なんか勝手にわたしの口が動き始めた。「宮地くんてアイドルばっかり好きでこういう事に興味が無いのかと」なに云ってんだとわたし自身思ったし、目の前に立っている宮地くんもなに云ってんだという顔をしている。「あ、もしかしてアイドル系のあれなの?それ」やってしまった。正確には云ってしまった。先程より重い沈黙にわたしは宮地くんの背中に隠れた、たぶんアダルトビデオを透視する勢いでじっと見つめる。この空気怖すぎてもう顔あげられない。「いや、なんかほら、俺今日誕生日で」「あ、そうなの?」話しがやっと逸れたヨカッターと思って顔をあげる。「おめでとう」「おお、…」で、と宮地くんが目を泳がせながら続ける。「十八になったから、ほら、部のなんかほらあれ」「?」「先輩とか大坪もやったし、木村も十八になったらやるっていうか」「?」「伝統つうわけじゃないけど、バスケ部は毎年その」「……十八になったらAV借りにくるの?」わたしの更に後ろを眺めながら、宮地くんは頷いた。どうしよう、話し戻った。なんていうか、宮地くんて生真面目っていうか…別にお誕生日オメデトーありがとーじゃあねで会話終わって去っても良いのに。わざわざ律儀にこの状況を説明してくる辺り、なんていうかA型ぽい。いや宮地くんの血液型知らないけど。「そんで全員で笑うっていうか」女子でいう、彼氏ともうヤッたかヤッてないかみたいな、そういう盛り上がりなのかなあ。と、わたしはぼんやり考えながらなんていうか罰ゲームみたいだねと言葉を返した。誕生日なのに。「あ、じゃあ宮地くん誕生日だし、わたしお金だそっか…」いやいやこれAVじゃんと思ったのと宮地くんが顔を赤くしたのは同時だった。「ごめん!今の無し!無し!!」「あったりまえだアホか轢くぞ!!」「ジュース!ジュース奢る!」「いや別に無理になんか奢らなくても…」「いやでも今日会ったのもなにかの縁っていうか、運が無いっていうか」ぶはっと宮地くんが吹き出した。「まあ確かに俺からしたら不運だよ」「ごめんね〜出会ってしまって」「あー…名字も一緒行く?」「?どこに」「大坪んち」きっとケーキあると云いながら宮地くんが左手で頭をかいた。右手は相変わらず背中の後ろである。「わたし邪魔じゃない?」「いやべつに」「だって宮地くんがどういうAV好きなのかっていう話しで盛り上がるんじゃないの?」「盛り上がらねえよ埋めるぞ」なんつうか、と宮地くんが頬を赤くしたまま唇を尖らせて続ける。「笑い話しにでもしなきゃ、恥ずかしくてこのまま帰れねよ」キョトンとした顔で宮地くんを見つめるが、彼は一向にわたしを見ようとしない。「なるほど、わたしにも一緒に笑い者になれと」わたしと二人で大坪くん達の前に帰って笑われれば、今わたしと宮地くんの間にあるこのビッミョ〜な恥ずかしい〜〜空気も笑い飛ばされて無くなると、宮地くんは思っているらしい。「悪いかよ」「お誕生日様のお願いだからなあ」ふふ、と笑えば、宮地くんは照れくさそうにわたしを見下ろした。「さっさと借りて帰るぞ」「宮地くん結局なに借りたの?アイドル?ナース?教師?素人?」「うっるせえな黙ってろ刺すぞ!!!」「ヒエ〜相変わらず物騒!」ケラケラとわたしが笑えば、もう宮地くんとわたしの間にあるなんとも云えない空気は吹っ飛んだ気がした。でも耳まで赤くした宮地くんを見上げて、彼は未だに気にしていると、わたしはもっと可笑しくなる。散々な誕生日にしちゃってごめんね宮地くん。

20131125