わんこも捨てがたい
私が勉強してきたことが正しければ、人類はサルから進化したはず…
霊長類だもんね。
そう、だから人間はサルなのよ、サル、サル…
「ブッ、ククックク」
「うるさいな!さっきからLは笑いすぎよ!」
「グッ・・・クク。すいません。あまりにも貴重な光景ですから。」
今朝からLはこんな感じ。
彼の言う貴重な光景とは、私のお尻から生えた尻尾と頭から生えた垂れた耳。
今朝起きたらこんなものが生えていてLはずっと大笑い。
ワタリさんにも原因はわからず、ただハッキリしているのは犬種はゴールデンレトリバーだそう。
正直、どうでもいい報告。
治るのかどうかも分からないし、あぁなんでこんなことになったんだろう。
犬種だってせめて警察犬で有名なシェパードみたいに耳がピンとしていたらかっこいいのに…
私に生えた耳は金色の長毛が美しい立派な垂れ耳。
ポピュラーなネコミミはよく聞くけど、犬って…
「病院で治るものかもわかりかねますので今日一日は家で大人しくなさってください。明日までにワタシも調べてみます。」
そういいながらワタリさんが優しく微笑んで白いワンピースを差し出す。
「あの、ワタリさん。これは?」
「今のレミの服だと尻尾が窮屈かと思いまして、すこしゆったりめのワンピースの方が楽でしょう。」
「そう、ですね」
そういう問題じゃないんだけどなぁ。
着替えてくるとLはもう指定席に座って捜査報告書のファイルを眺めている。
「レミ、ミルクティーをいれてください。」
私の一大事にだってお構いなし。
ほんと、腹が立つ。
ミルクティーに溶けきらないほどのお砂糖をぶち込んでLの元へ
一口すするとLは少し目を丸くした。
アレだけ入れたらさすがにまずいんだろう、ざまーみろだ。
「レミ」
「何?文句言うなら自分で作ってよ」
「まさか、とてもおいしいです。あなたが今まで作った何よりも。これなら、何杯でもいけます。」
明らかに底の方でザリザリしているミルクティーを一気に飲み干してまたカップを差し出す。
はいはい、おかわりね。
キッチンへ向かう私の後ろでまたLの笑い声がする。
「もう、Lもしつこいっ!」
「レミ、怒ってるんですか?」
「当たり前!ぶち切れ、激おこなんとか丸よ!!」
「嘘つかないでください、私に褒められて嬉しいんでしょう」
笑いをこらえるLが震える指で私の足元を指差す。
足元のフサフサの尻尾が散歩に行く前の犬みたいに大きくブンブン振っている。
「なっ!?」
「その尻尾は分かりやすくて便利ですね。レミの考えてることがすぐに分かります。」
「ち、違うのっ!これは私の意志とは関係ないの」
ひょいっとソファから飛び降りるとひょこひょこと私のもとへ歩いてくるL。
「なぜそんなに意地をはるんですか。」
「意地じゃない、これが事実!」
「体は正直ですのに」
「うわぁ、そのセリフなんかいやらしい…!」
Lが近づくたびに激しく揺れる私の尻尾。
本能に忠実すぎでしょ。
目の前のLが私を見下ろす。
スッと伸ばしてきた手にびくっとおびえるも彼の手はそのまま垂れ耳を優しく撫でる。
「私、自分では猫派だと思っていましたが、犬もなかなか捨てがたいです。正直で嘘がつけなくて、レミみたいです。」
「…喧嘩うってんの?」
「いいえ?」
そのまま頭をグイッと引き寄せて垂れ耳にキスをする。
「とても可愛らしいです。この耳も、そこの元気な尻尾も。」
そういって激しくブンブンと暴れる私の尻尾を軽く掴んだ。
「ひゃっ、」
出すつもりが無かった甘い声に自分でも驚く。
この尻尾、すごい敏感だ…
おずおずとLを見上げると、あぁ、いい事思いついたって顔してる。
「そうですか、尻尾って敏感で弱いんですね。」
「ちょっと待って、今のは事故っ」
そういっても無駄だった。
まるで子犬のように抱きかかえられた私はなすすべも無くベッドに連行される。
依然 尻尾は嬉しそうに振られ、
こんな状況なのに嬉しいと思ってしまうのは私の尻尾も同じのようだ。
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