おうちにようじょがやってきた34


秋,それはまぁ俺達にとって別にどうでもいいことだった.

精々美味い食べ物が増えたり,涼しいから運動しやすくなったくらい.

ぶっちゃければ,これといってメインがない.


「もう紅葉のシーズンですか…」

「庭の掃除面倒だよな」

「落ち葉ばっかりは勝手に落ちてくるんだ,どうしようもないだろ」


学校も始まってしまった.

宿題は分担してやっておかげで,早めに済んでた.


「シェリアはどうしたんだ?」

「さぁ…見てませんけど」

「部屋じゃないのか?俺も見てない」


のんびりリビングで過ごす俺達に欠けた存在.

いつもなら川の字にうまい具合に入ってくるのに.

寂しいな.


「朝ご飯のときはいたのに」

「着替えじゃないですか?」

「俺,見て来る」


重い腰を上げて,シェリアの部屋に向かう.

未だにシェリアの部屋は,入り口以降あんまり入れてもらえない.

のでノック.


「シェリアー」

「こたにい!」

「なんだ,何してるんだ?」

「おべんきょ」

「勉強?だったら俺達が教えてやるのに…」

「No!ダメ!」


部屋の戸が開いても,俺が入る事は許されない.

気になる中身も,この隙間じゃほとんど見えず.


「ひとりでやるデス」

「…お前,最近なんでもかんでも一人でやるって言うけど,何かあるのか?」

「ワタシ,じぶんでがんばる.おてつだい,いらナイ」

「何の勉強してるんだ?」

「んー…イロイロ」


どうやら俺には言えないようだ.

気になるのに,深く追究できないこのもどかしさ.

うーん.

シェリアは,もういいかと戸を閉め掛けている.


「バイバイ」

「わからないことがあったら,教えてやるからな」

「わかったデス,だからあっちいって」


あっちいって,あっちいって,あっちいって…頭の中に響く声.

結構堪えるぞ…なんで俺がこんな目に….

しょんぼりしながらリビングに向かう.

転がった弟達は,どうだったかと口々に聞いた.


「勉強してた」

「へー」

「何の?」

「教えてくれない」

「最近そんなのばっかだよな」

「見栄を張りたい年頃じゃないですか?放っておきましょうよ」

「でも,気にならないか?」

「それはそうですけど.シェリアさんが言いたくないなら,無理強いしないほうがいいですよ」

「俺だったら強行突破してたな.それか餌付け」

「シェリアが悲しむぞ」

「そうですよ,凰壮くん」


シェリアのことで意見が分かれるのは少ない事じゃない.

しかし,俺はあんまり意見させてもらえないからな.

竜持対凰壮の行方を見守るだけだ.

俺だっていろいろ言いたいのに.


「シェリアさんにだって,秘密のひとつやふたつはあって当然です」

「でも,教えてくれたっていいだろ」

「無理に聞いたって無駄です」

「知ったら手伝えるかもしれないじゃねーか」

「それを勝手にやったとしても,シェリアさんの為にならないって言ってるんですよ」

「なんだと!じゃあお前はずっと黙って見てるってのかよ!」


なんだか今日は二人が熱くなっていた.

止めるべきか,否,見守るべきか.

ちなみに俺としては,シェリアが話すまで待つ派だ.


「もういいです,凰壮くんとは分かりあえそうにありませんよ」

「こっちこそ!お前なんかと分かりあえるか」

「…虎太くんは,僕に賛同ですよね?」

「俺だよな?そう思わないか?」


矛先が急に俺に向くとか予想外.

いやだぞ,こういう展開は.


「俺は,どっちの味方もしない.好きにすればいいだろ,お前の思うように」

「…なんですか,いい子ちゃんぶってるつもりですか」

「どっちでもないとか,俺と竜持との決着が付かないじゃねーか.はっきりしろっつーの」

「なんだと!お前らが勝手に始めた喧嘩だろ!」

「ですから,虎太くんの意見を聞きたいんですよ.わからずやですね!」

「虎太がはっきりすればいいんだよ!そうすれば多数決で決まるんだし!」


俺も段々腹が立って,しまには三人での取っ組み合い.

ランダムに殴る蹴るの喧嘩.

どったんばったん騒いでいると,シェリアが部屋から飛び出てきた.

そして俺達に一言言う.


「おにいちゃん!」


ぴたっと止まる俺達.

ドスドスっと足音を立ててやってきたシェリアは,目を吊り上げていた.


「うるさい!」

「「「ごめんなさい」」」

「しずかにするデス!めいわく!だめ!」

「でも…」

「ですけど…」

「だって…」


言い訳が被る前に,シェリアは俺達を座らせた.

まるで母さんのように,俺達を叱る.


「なんでけんか?」

「…それは,その,シェリアさんが部屋で何してるのかなって…」

「Oh…ワタシ?」

「それで,確かめようって俺が言って,竜持は駄目だって.んで,どっちがいいかって俺に聞いてきたから…どっちでもないって言ったら喧嘩になった」


反省気味に伝えると,シェリアは少し考えたような素振りを見せた.

そして,部屋に戻って何かを手にとってきた.

紙,カードだろうか.


「ホントは,ないしょ.でも,けんかするなら,ないしょおしえマス」

「これは?」

「…Dear…father,mother…?」

「パパと,ママにletterをつくってたデス.めいにち,もうすぐ」

「「「!」」」

「まいとし,おはかにいく.でも,にほんイルといけないデス.だから,letterでとどけてもらう」

「…シェリア」

「こじいんのいんちょセンセイにおくる」


シェリアは,ちょっとだけ申し訳なさそうだった.

俺達が怒るとでも思ったんだろうか?

知られたくなかった理由までは聞かない方がいいのかもしれないな.

内緒,と本人が言ってるんだから.


「だから,ひとりでかんがえる.ないしょのletter」

「そんな大切なもん,見せてくれてありがとな」

「ごめん,くだらないことで喧嘩なんかしてさ」

「全くですね…お兄ちゃんなのに情けない限りです」


反省気味から,ガッツリ反省させられて.

俺達の喧嘩は終わって…いや,終わらされてしまった.

これじゃあ,シェリアの方がだいぶ大人だな.






―内緒の手紙を知ってるか―




日々,シェリアにとって,俺達も家族だと思ってくれてるということを実感する.

でもシェリアには,俺達の知らない思い出がたくさんある.

それを俺達が知っていくのは,悪いことなのか?

聞くに聞けない,深い根底を見た.

誰に宛てて,この疑問をぶつければいいんだろうな.



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