おうちにようじょがやってきた33


めずらしく,俺は暇だった.

いつもはシェリアと遊んだり,練習があるのに.

今日はシェリアは買い物でいないし,サッカーの練習も休み.



「…どうすっかな」



絨毯でごろんとして,ぼんやり天井を見つめた.

シェリアがいないととにかくつまらない.



「…冷蔵庫」



趣味になりつつある菓子作りも,なんだか気が乗らない.

しょうがねぇ,走るか….

こういうときは,虎太に習ってランニングだな.

着替えて,玄関を出た.



「あー!凰壮くん!!!!」

「…っせー」

「何やってるの?練習?ランニングしてたところ?」

「翔…声…デカイって」


我らがキャプテン,太田翔は相変わらず声が大きい.

周りの注目を集めてしまった.

恥ずかしいんだけど.


「あ,ごめんごめん!」

「何やってるんだ,こんなところで」

「紗の迎えだよ.ちょっと早すぎちゃって」

「紗ってーと,お前の妹だっけ?」

「そうだよ!あ,凰壮くんにも妹がいるんだよね」

「まーな」


俺にも可愛い妹がいるぞ.

翔にも居たよな,あの変わった妹.


「今日は一緒じゃないんだね?」

「別にいつも一緒なわけじゃないぞ」

「そうなんだ!ちょっと意外だったなぁ」

「なんで」

「だって,降矢家はシスコン集団だってエリカちゃんが…」

「ほー……高遠がそんなことを」

「あっ」


コイツは阿呆だ.

しかも高遠も,余計なことを言いやがって.

シスコンじゃない,純粋な家族愛だってのに.


「なぁ翔」

「ん?どうしたの?」

「時間あるのか?」

「うん,紗の迎えって言っても時間早すぎちゃってさ.ぶらぶらしてたんだ」

「立ち話もなんだし,公園行こうぜ」

「凰壮くんはランニングいかないの?」

「気が変わった」


ま,せっかくだし翔相手に練習してやってもいいかな.

というのは名目だけで,実は妹というものについてちょっと語ってみたかっただけだ.

一応,強調するが一応,翔は俺より兄歴も長いしな.





「シェリアちゃんって,やっぱり英語堪能なの?」

「おー…ぺらっぺらだな.ガチで英語使われると何言ってるのかわかんねー」

「すごいなぁ」

「日本語がまだたまにおかしいけどな」


ボールを軽く蹴りながら,翔と話す.

翔,結構上手くなったよな.

前ならこんな真っ直ぐにパスできなかったのによ.


「お前んちの妹,あれって天然なんだよな?」

「天然?」

「…あの変な呼び名考えたり,ちょっと失礼だったりするところ」

「うーん,たぶんそうだと思うけどなぁ.どこで覚えてくるんだか」

「俺も,知らないうちにいろんな言葉覚えててたまにショック受けるんだよ」

「凰壮くんって傷つくの?」

「いや,お前…俺はその切り返しに傷つくぞ」


こいつも天然だよなぁ…そういえば.

この兄にしてあの妹だと納得だ.

うちも世間じゃそう思われてるんだろうか.



「シェリアちゃんって来年一年生なんだよね!楽しみじゃない?」

「そりゃまぁ」

「三つ子の妹って聞くと,何でも出来そうなイメージだね」

「っても,不安でもあるんだぜ.俺らがこんなだからよ」

「どうして?」

「どうしてってそりゃ…三つ子の妹ってレッテルが貼られるんだぞ」

「あー…そっか,凰壮くんって心配症なんだね」

「ま,俺だけに限ったことでもねぇよ」


シェリアのことが気になってるのは,俺も虎太も竜持もだろうしな.

そもそも,あの二人はシェリアを特別な感情を持って見てるみたいだ.

俺が気付かないとでも思ってたか?


「妹って,難しいよね.心配だけど,心配しすぎると怒るし」

「最近兄離れかなんかしらねーけどさ,結構冷たいんだよ」

「あるある!そういう時期あるよ!」

「やっぱどこのうちも一緒か」

「でも,寂しいと引っ付いてくるから結局は可愛くって」

「お前も大概シスコンだろ」

「ロリコンよりマシだよー,エリカちゃんに聞いたけどさー」


おい,俺はロリコンじゃないぞ!

前々から念を押すように言ってはいたが,俺にそんな気はないぞ.

シェリアとのハプニングは,本当に事故なんだって言い訳が通じないのがおかしい.

俺はシェリアの兄として,恋愛感情なんか持てねぇよ.


「高遠のやつ…」

「でも,実際の感じだと凰壮くんは面倒見がいいの間違いだよね」

「は?」

「シェリアちゃんのこと話してるとき,すっごく優しそうな顔してるから」

「そうか?」

「本当に大切に想ってるんだなーってわかるよ」


そんな顔してんのか,俺.

知らなかったな,知りたかったわけでもないが.

まぁ,シェリアのことは大切だし,好きだよ.

目に入れても惜しくないほど可愛い妹だ.


「きっと,家でも良いお兄ちゃんしてるんだね」

「…だといいな」

「見たことないけど,絶対そうだよ」

「説得力うっす」


ケラケラと笑うなんて,めずらしいといえばめずらしい.

兄同士で会話って,案外面白い.

人に見えるくらいの変化って,やっぱすげぇことなんだろうな.


「あ,そろそろ時間だ」

「そっか.気を付けて迎えにいけよ」

「ありがとう」

「じゃあな」

「バイバイ!」


翔は遠くに行っても尚,大きい声でバイバイって言うもんだからちょっと恥ずかしかったけど.

仲睦まじい兄妹って言われるように,いつか俺はなってみせる.

勿論,努力は惜しまないぜ?





―自分さえも知らない成長―





「おーぞにい!おかえりデス」

「ただいま.帰ってたのか」

「さっき!」

「そうかそうか.じゃあ急いでおやつの準備だな」

「おてつらいデス!」

「お手伝い,だよ」

「おてつだい!おさらと,フォーク!ホットケーキ!」

「ちゃっかりオーダーか?よし,今日はココア味のホットケーキだな」

「わーい!」


いつか俺の元を離れる日が来ても,俺はずっと見守ってやるからな.

遠くても心は側に,だぞ.



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -