滲んで汚れて洗い流して アフターエピソード


―拝啓,5年前の私達へ


あれからの私達は,ものすごく幸せな日々を送っています.

そして,これからもそれは続く予定です.

だから今でも温かく見守ってくれた皆に,感謝してます.

次は結婚報告かな?なんて.

貴方達は,未来を楽しみに待ってて下さい.

きっと幸せだと思うから,お互いを信じ合って未来へ進んでください.


5年後のシェリアと多義より―






「多義くーん!ごめんね,お待たせ」

「あ,シェリア!」


交際から5年目,多義くんは高校生に,私は社会人になった.

専門学校を卒業後,スポーツジムのインストラクター兼トレーナーとして,就職を果たす.

ぶっちゃけ成人しちゃったのは,どうしようもない事実で.


「今日も可愛いくお洒落してくれてるんだな!プレゼントしたネックレス付けてくれてる」

「早速気付いてくれたんだ!」

「気付かないわけないさ」


多義くんは,敬語を辞めた.

これは,3年前の私の誕生日にこっそりお願いしたから.

すんなり多義くんは受け入れてくれて,名前だってフランクに呼んでくれる.

結構生活が変わったせいか,お互いに変化もあった.


「今日は映画,すっごく楽しみにしてたんだよ」

「前からずっと言ってたもんな.えっと,あの…話題のやつだよな…?」

「そうそう,満員かもしれないね,良い席取れるといいんだけど」

「あの…これ…」


差し出された,二枚の紙.

それは確かに見たかった映画のペアチケット.

驚く私に,サプライズをしてやったという顔をする多義くん.


「どうしたのこれ!」

「ちょっと早く着きすぎたから…せっかくだし良い席で見たいなと思って」

「わぁ…ありがとう…嬉しい」

「その言葉だけで,並んだ甲斐があったよ」


本当に多義くんはかっこよくなった.

背も少し伸びて,顔も身体も男の人らしくたくましく.

元々イケメンだったのに,更に魅力のましたイケメンになったのだ.

クラっとこない方がおかしい.


「じゃあ,行こう」


さり気なく手を繋いだり,積極的になったのも事実.

でも,私達は未だにプラトニックを貫いている.

私が5年前に提示した約束は未だ破られていない.






ジムの同僚は比較的年が上の人ばっかり.

話題になるのは,私生活くらいしかない.

この年…まぁ私世代の人が突かれるは,恋愛や結婚.

お客さんにも彼氏はいるのか?なんてしょっちゅう聞かれてしまう.


「すごい…感動した…」

「シェリア,こういうの好きなんだな」

「面白くなかった?」

「ううん,面白かった.シェリアが,いろんな表情見せてくれたし」

「私の顔じゃなくて映画見てよ,もう〜!」


年下の彼氏がいる,と言うと周りの偏見もある.

でも,深く答える必要もないと思ってあんまり喋らないようにはしてる.

あくまで,私達二人は世間の目を誤魔化そうとしているから.



「多義くん,今日どっか行きたいとこある?」

「そうだなぁ…せっかく久しぶりに会えたし,シェリアの家,とか…」

「うち?いいよ」

「いいのか?」

「うちでゆっくりしたいんでしょ?」

「じゃあ決定だな.あのベットにダイブしたい」

「こらこら,せっかく布団畳んでるんだからぐちゃぐちゃにしたら駄目だからね」

「ちゃんと直すから,一回だけ」

「…一回だけだよ」


社会人スタートとして,職場の位置の都合上,一人暮らしを始めた.

狭いアパートだけど,安い上に,条件のいい立地,結構住み心地が良くて助かる.

実は多義くんも,もう数回遊びに来ているのだ.

高校生になった途端,親御さんは泊まりもデートも何も言わずに自由にさせてくれている.

勿論,プラトニックな私達だからだろうけど.



「やっぱり相変わらず綺麗にしてるんだな」

「昨日掃除したばっかりだからよ」

「晩ご飯食べてく?あ…泊まる?」

「泊まりたい!いいのか,シェリアは?」

「別にいいよ?」

「じゃあ家に連絡しなきゃ.着替えは,置いてあったっけ」

「あるよ,確か前に来た時…えーっとここら辺に…」

「あ,ベッド!」


ぼふんっと飛び乗る多義くんは,楽しそう.

布団はめちゃくちゃだけど,最後はきちんと律儀に直してくれるから目を瞑る.

さて,私はご飯でも作ろうか.


「何か手伝うことはある?」

「そうだなぁ…今特にはないかな」

「あ,お風呂掃除するよ.一緒に入ろう」

「えっ…本気で言ってる?」

「本気だけど」

「…じゃあ,お湯は少し少なめに張っといて」

「わかった」


プラトニックとは言ったけれど,一緒にお風呂に入るのは一回目じゃない.

勿論,行為はしてないから,本当に一緒に入るだけ.


「何作ろうかなー」


冷蔵庫を開ければ,あんまり大層なものはない.

なので簡単なものだけど,愛情を込めておく.

言い訳とも言えるのに,これで結構丸く収まる彼氏様なの.


「オムライス…くらいしか出来ないな,材料ないや」


オムライス1択で,料理開始.

こう見えて家事は得意だったりするんだよ.

一人暮らしも板についてきて,最近は冒険だってしちゃうんだから.





「お風呂,準備出来たぞ.…いい匂いがする」

「ジャストタイミングだね.こっちも今出来上がったとこ」

「オムライスか,美味しそうだ」

「ふふ,こっちの少し量が多いのが多義くんね」


ケチャップでデコ…は,どうしようかな.

なんて考えてたら,多義くんは私からケチャップを奪って勝手に書き初めてしまった.

あら,大胆.


「える,おー,ぶい,いー」

「ラブの完成!」

「じゃあ,多義くんには大きいハートマークね.どう?」

「おお〜!」


食卓テーブルに運んで,落書きされたオムライスを見て笑う.

私の小さなオムライスにはLOVE,多義くんにはハートマーク.

何このバカップル…って思われてるだろうな.

でも私達,本当に幸せなんだ.




「美味い!」

「簡単なものしか出来なかったんだけど,喜んで貰えてよかった」

「十分手が込んでると思うが…」

「愛だけは込めたから」

「美味しいはずだよ,最高」

「あはは,絶賛してもらえて嬉しいなぁ」


軽く談笑しながら,ご飯を終えて.

お風呂の支度.

バスタオルと,着替えの用意.



「シェリア,先に入って待ってるよ」

「じゃあ,後から入るね」


恥ずかしいけど,まぁ…それは今更といえば今更.

また多義くん筋肉付いたんだろうか…狭い浴室に入ると多義くんの身体は嫌でも目に付くものだし.

むしろ嫌じゃないけど,ほら…はしたなく思われたくないから.


「お待たせ」

「待ってないよ」

「久々だね,お風呂一緒に入るの」

「狭いけど,ぴったりくっつける」

「…あんまりじっと見られると…なんていうか…」

「どうして?こんなに綺麗なのに」


髪の毛を掬って,キスを落とす多義くん.

ひゃわわわ!なんでこの人は,こうやってキザなんだろう!

恥ずかしくて顔から火を吹きそう.


「シェリア柔らかい〜」

「ひゃあ」

「…ぎゅうってすると,すっごい心臓の音聞える」

「…あの,私ばっかり恥ずかしいんだけど」

「じゃあシェリアも聞いてみる?」


胸に顔を当てられて,ホント何やってるんだろう私達.

あの日,まさかこんなことをするようなカップルになるとは誰も思わなかっただろう.

私の心音も多義くんの心音も早めになっていた.


「シェリアを抱き閉めてると,幸せになれる」


ぎゅうっと力の篭った抱擁は,満たされるような気持ちになってくる.

実際に抱擁によるリラックス効果で,ストレスが軽減するのは実証されてはいるけれど.

きっとそれとは違う,心の癒され.


「私も,多義くんに抱き閉められるのは好きだなぁ.抱き閉めたくなるときもあるけど」


かっこよくなった多義くんにだって,前と変わらない幼さや可愛いところはある.

それを見てしまうと,きゅうんと胸がときめいてしまう.

ギャップという奴なんだろうか.

本当に,彼には心臓が付いていくのも一苦労だろう.



「やばい…のぼせる前にあがらないと」

「じゃあ,私が先に出てもいい?」

「うん」



ひっつきすぎるとクラクラするのはお互い様.

お風呂から上がって,急いで服を着る.

私の方が時間掛かっちゃうの分かってるから.

洗濯だってしたいし.



「髪の毛,湿ってる」

「自然乾燥でいいかなって」

「良くないだろう.痛むから,ちゃんと乾かさないと」

「うー…」

「ドライヤー貨して?」



多義くんは,私を座らせて髪の毛を梳いた.

どこまでべったりなんだろうね,私達.

会う時間が前に比べて大分減ってしまったからかな.

少しでも一緒にいたいと思うのはお互いに同じだから,こうやって並んで過ごせる時間を確保するしかないんだよ.



「いつものことながらベットには入れないから,下に布団敷いたぞ」

「はは…多義くんの身長じゃ,私のベッドは少し小さめだもんね」

「なんか,こうやってると同棲してるみたいだな」

「そうだよね…お泊りしてるときって,まるで新婚生活してるみたいだと思ってる」

「結婚したら,こんな感じになるんだろうか」

「嫌?」

「まさか!毎日が幸せだと思うぞ.家から出たくなくなりそうだけれど」

「しっかりしてよね,旦那様」

「ごめんなさい,奥様」


寝るには少し早いので,電気を小さくしておしゃべり.

結婚,そんなことを考える年にもなってしまった.

だからといって,急ぐ気持ちは微塵もない.

きっと多義くんだって,早く卒業したいとか,結婚したいとかは考えてないんだろうな.


「おやすみのキス」

「えっ」

「だって,今日全然してない」

「そういえば,そうだねぇ.…目,瞑って?」

「ん」


軽いリップ音と,触れるだけの唇.

それで満足したのか,多義くんはふにゃっとして枕に飛びついた.


「可愛い,シェリア可愛い」


バタバタもだもだする多義くんは,一体どうしちゃったんだろう.

しばらく何か言っていたけれど,おやすみと言って完全に電気を消した.

静かになって,お互いに眠る.

最愛の人が隣で寝てるんだから,いい夢が見れるかな…例え悪夢でも,多義くんが助けてくれそう.

そして,目が覚めたら一番に言うの,「おはよう」って.

笑顔と共に迎える幸せな朝まであともう少し.



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