アンハッピーコンデンサ03
女を泣かせてしまった!
めんどうだ!
そう思ってしまった数日前,シェリアとの出会いは廊下だ.
クラスメイトだったのかすらも若干記憶にない.
失礼だとは思うけど,いちいち覚えていられない.
「シェリア,あれから増えたか?」
「ううん…駄目みたい」
アンハッピーコンデンサとかいう謎のゲームに,付き合うことになった.
なんでも,奇妙なゲームで,人の不幸を集めなきゃ自分が死ぬらしい.
くだらねぇ.
そう思えたのは,数分.
シェリアに見せられたメールは,そのプレイヤーの死を写したものが添付されていた.
ぞっとした,死体というものを見て.
「死なない程度に…地道にやってくか」
「あと26日しかないよ」
「単純に計算すれば,まぁ…1日3%くらいを目安に行けばなんとかなるよな?」
「…たぶん」
「とりあえず,今日はこれを鋏で裂け」
「それ,降矢くんの教科書じゃない!しかも,こんなにたくさん…」
俺に差し出せるもので,尚且つなくなって困るもの.
思い付くのは,学校の授業や部活で必要な私物.
驚いたシェリアは,無理無理とか言ってるけど,状況分かってんのか?
やらなきゃお前が死ぬんだぞ.
「いい,やれ」
「でも…」
「やらないなら俺がやるぞ.少なくても稼げるならやった方がマシだ」
「ええっ!ちょ,ちょっと待ってよ〜…」
グダグダとうるさいな.
やれって言うのに,なんでコイツは泣きそうな顔する.
女が泣くのは本当に嫌だ.
どうしていいのか,検討も付かない.
「…はぁ」
「ごめんね,でも…流石にこれは駄目だよ.まだ使うものなんだし」
「そんなこと言ってたら,お前死ぬぞ」
「そ,そうだけど」
「腹をくくれ.俺の目の前で出来ないなら,持って帰ってやればいいから」
「…本当に,いいの?」
「いいって言ってるだろ」
無理矢理に近い形で,シェリアに教科書を押しつけた.
手に溢れんばかりの量がある.
しぶしぶシェリアは鞄に収めている.
最初っからそうすりゃいいのに.
全部つめたら,鞄のチャックが閉まらなくなってしまった.
帰れないことはないだろ…うと思う.
「とりあえず,今日はこれでクリアってとこか.ちゃんと今晩刻んどけよ」
「…そんなキャベツみたいに言わないでよ」
「いちいちごちゃごちゃ言うな.死にたくないんだろーが」
「…はい」
「明日のことは,また考えとく」
「あの…降矢くん」
「どうした?」
「ありがとう,本当に」
「!」
「これが無事に終わったら,絶対お礼するから!何でもするから…!」
「べ,別にそういうのが目当てじゃねぇからいいって」
「駄目!私がしたいの!」
女は怖い.
昨日会ったばっかのくせに,なんでそんなに俺に気を遣えるんだ.
実害はありまくりだが…,俺がいいって言ってるのに.
このシェリアという女は,大層難儀な性格と見た.
「まぁ,重いだろうから玄関まで持ってやるよ」
「いいよ!流石にそこまでお世話になれない!」
「…意外に力あるんだな」
ひょいっと抱えた鞄は,中身ぎっしりなのに軽そうに見える.
これだから女はわからない.
あんな細い腕で,小さな体のくせに,俺よりよっぽど強そうに見えた.
「じゃあな,気を付けて帰れよ」
「うん!ありがとう!また明日」
「おう」
鞄を肩に掛けた方と,反対の手を大きく振って走っていくシェリア.
あいつが笑うと,ちょっと気分がいい.
泣き顔より笑った顔のがよっぽどマシだ.
さて,俺も帰ろう.
「ぎゃっ!」
「っ,すいません」
だが,思ったように事は運ばない.
それを思い知ることになる.
「ごめんなさい!怪我はない?」
「えぇ,大丈夫ですよ.手伝います」
「わぁあすいません!!…ありがとうございます!」
不運だったのか,それが必然だったのか.
「ぶつかってすいませんでした,荷物まで拾ってくださってありがとうございます」
「いや,お気になさらず.こちらも不注意でしたので」
「じゃあ,私はこっちなので…失礼します」
「はい,さようなら」
不信を与えた女に,不信を与えられた俺の弟.
この事故がこの先にどう転ぶか,今の俺はまだ知らない.
「(今の教科書…降矢,虎太って書いてありましたね….一体どういうことでしょうか…)」
タイムリミットまで,あと25日.