アンハッピーコンデンサ02


「降矢くん,あの…」

「まずは,いろいろ試すぞ」

「いろいろ…って?」

「仕組みとか,実際どんなもんか知りたい」


それからの降矢くんの行動は早かった.

放課後,保健室にての打ち合わせ.

保健の先生は好きに使って構わないと言って,会議に行ってしまった.

今からここで不幸を作る実験をしようというのに.


「えっと…お前自身の不幸はカウントしないんだよな?」

「うん….第一こんなことに巻きこまれた時点で不幸だし…」

「それもそうだな.じゃあ,俺の不幸はカウントされるのか?」

「た,たぶん…」

「よし,じゃあ俺を殴ってみろ」

「ええっ!?な,殴るの?」


男らしい提案に,流石に戸惑った.

な,殴れって…そんなこと….

おどおどしていると,降矢くんはイラッとした様子を見せた.


「いいから,早くしろよ」

「ごごご,ごめんなさあい!!」


ぱしんっと軽い平手を加えた.

本当に,かるーいビンタだ.

痛いかどうか分からないけれど,目一杯謝る.


「…手加減したら意味ないと思う」

「そ,そうなんだけど…どうしても…」

「わかった,殴るのが駄目なら他に俺が嫌だと思うことをすればいいんだろ.これ踏め」

「い,いいの?」

「…構わない」


降矢くんは,自分のパスケースを床に放った.

それでも踏むのには抵抗があったが,これ以上迷惑を掛けるわけにもいかないよね.


「失礼します…」


これだって,降矢くんの大切なものかもしれないのに!

目を瞑って,思いっきりそれを踏んだ.

ぐりぐりっと,罪悪感に少し悪意を込めて.


「あっ」

「どうした」

「メール…来たかも」


携帯が振るえて,メールが一件.

恐る恐る開いてみれば,アプリから転送されてきたものだ.

コンデンサが,3%になっている.

今ので,1%増えたのかな…?


「なるほど,どっかで見張られてるんだな」

「うう…怖いなぁ」

「じゃあ次試すぞ.お前鋏持ってるか?」

「ソーイング用の小さいやつなら…」


ポケットから,ソーイングセットを出して,小さな鋏を手渡した.

何するんだろう…そんな小さな鋏で.

降矢くんは徐に鋏を開いては閉じるのを繰り返す.


「ふ,降矢くん!?」

「うるさい」


何をする気か,降矢くんは自分のパスケースを切り刻んでいった.

ズタズタになっていく,布のケース.

勿論中身も酷い有様に.


「な,何やって…えっあっ…メールがまた!」

「コンデンサの中,増えてるか?」

「3.5%になってる!」

「…お前の所有物で人が不幸になっても,カウントするみたいだな」

「知らなかった…」



降矢くん検証のもと,いろんな方法を試した.

その結果,きょうだけで7%まで溜めることに成功.

嘘みたいだ…!



「わかったことは,だいたい4つだな」



私が他人に直接不幸を与えるとケージが加算.

私の物が他人に不幸を与えると直接に比べて少ないものの,加算.

不幸のケージが多く増えるには,より不幸なことをすればいい.

同じ人間に何回でも行える.

ざっとこれくらいは,今日だけでわかった.


「…あの,ケースと定期…ごめんなさい」

「今日で期限切れるから平気だ」

「でも…今日の帰りは…!私,運賃出すから」

「いいよ.それより,対策が分かったんだからさっさとこんなの終わらせようぜ」

「…そう,だね,ありがとう…」


刻まれたパスケースをゴミ箱に集めて捨てた.

降矢くんは何を言っても,構わない,別にいいと返すばかり.

そっけない,けれどとても頼もしい.

こんなことがなければ今頃私は,一人どうしていいかわからないままだったもん.


「今日は帰ろう.明日からまた少しずつ溜めていく」

「わかった…」

「とりあえず,昼休みにここに集合」

「うん!絶対来るから」

「俺も飯食ったら急いで来る」


指切り,とまではいかなかかったけれど,約束を取り付ける.

私にとって,明日を憂鬱にさせない約束.

一人は嫌だ,でも二人なら少し安心する.

巻き込んでおいて,本当に酷い言い草ではあるけれど.


「じゃあな」

「うん,また明日」




タイムリミットまで,あと26日.



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