虎太07


馬鹿だ馬鹿だと思っていたけれど,本当に馬鹿だった.



「なんで,泣くんだよ」

「っ…知らないわよ…」



俺は,急に海外へいくことになった.

流石にシェリアを連れていくわけにもいかず,別れを告げてみれば,この様.

勿論,遠距離恋愛も考えたのだ.

だけど,俺達には距離が一番大事だった.

俺達は本当に相性が悪い.



「勝手に,涙が出てくるんだもの…」

「ごめん」

「謝らないでよ,決めたことなんでしょ」



そうだ,俺はもうすぐ旅立つ.

勝手に決めて,勝手に捨てて,勝手に旅立つ.



「…もう一緒にはいられない」

「…ホント,相性悪いね私達」

「でも,それでも2年も一緒だった」

「…うん」



よく考えてみれば付き合って2年,相性が悪いのによくこんなに長く続いたもんだ.

悪いのは,気持ち的な相性じゃない.

それぞれの生活とその身体.

すれ違う中で,お互いに想い合っていたのは事実.

でも,世間から見える関係は最悪だった.



「で,いつ行くの?」

「来週」

「身辺整理は早いほうがいいものね」

「…そういうつもりじゃ」

「泣いたってどうせ行くんだから,泣かせてよ」

「…あぁ」


シェリアは強い女だった.

いくら相性が悪くても,俺に合わせては耐えて我慢して.

これほどに良い女はそうそういないだろう.

この腕に抱いたあの細い線は,もう二度と触れられないものになってしまう.


「電話,あとアドレス,消してね」

「…それは」

「未練は持ちたくないから」

「わかった」



直視できないその綺麗な泣き顔と,涙.

触れることは敵わない.

今触れることは,シェリアも俺もの決心を揺らがせる.

だからこそ,笑顔で別れたい.


「2年間ありがとう.楽しかったよ」

「あり,がとう…ごめん」

「謝るなって言ってるのに.じゃあ,これで本当にさよならだよ」

「あぁ」


翻した長いスカートが,俺から遠ざかる.

手を伸ばしたところで届かないくらいの,心の距離.

そして今,直線距離さえも開いていくのだ.


「さよなら,か」


相性が悪いのは,知っていた.

それでも好きだった.

俺達は,1%の永遠を信じただけだ.

99%の別れを知っていながら.



所詮俺達は,出会いこそが過ちであり,愛し合えたことが奇跡となって,別れは運命だったのだ.



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