おうちにようじょがやってきた27


今日は,シェリアが帰ってくる.

たった1泊じゃ,飛行機に乗ってた時間の方が長いかもな.

それでも,一緒にいられなかった時間は寂しかった.



「シェリアさん,上手く話が出来てますかね」

「さーな,連絡が来ないしわかんねーよ」

「心配ですねぇ」

「そのままあっちの残るなんてことないよな?」


後ろで,二人の会話が聞えてきた.

そわそわしてるのは,三人とも一緒.


「凰壮,お前今から菓子作れ」

「は?」

「シェリア,帰ってきたら喜ぶだろ」

「お,おう」

「竜持は,掃除.部屋が汚いと嫌がるかもしれない」

「はーい」

「ん,虎太は?」


落ち着かないので,とりあえず動こうと思って指示を出す.

連係プレーはお手の物だ.


「花,採ってくる」

「花?」

「シェリアが好きな花は知ってるし,生け方も教えてもらったからな」

「お花ですか…シェリアさんきっと嬉しいでしょうね」

「だから,採ってくる.とりあえず,そわそわしててもしょうがない.やるぞ」


俺だけハードル高い,と凰壮が呟いていた.

知るか.

庭に出て,シェリアの好きな花を探す.

あんまり雑に花壇を荒らすと怒られるので,あくまで慎重に.



「…ない」



いくら探しても,あの花がない.

おかしい,どこだ.

このとき俺には,季節という概念が全くなかった.

後で竜持に思いっきり笑われたが.



「…しょうがない,これでいいか」



諦めて違う花を手に取った.

まぁ…問題はこっからだと思う,ちゃんと生けられるか.

教えてもらったんだから出来るといいな.

このとき,俺は未だ花を生けることを一度もやった事がなかったということを失念していた.

あとで凰壮にテーブルを汚して散々怒られたが.





それから夕方になって,シェリアと父さんが帰宅した.

約2日ぶりになるだろうか.


「タダイマデス」

「シェリア!!」

「おかえりなさい,シェリアさん!」

「よく帰ってきた!!」


わああっと父さんをスルーして,シェリアを囲む.

表情から察するに,話し合いは上手くいったんだな?

じゃなきゃこんな笑顔で帰ってこないよな.


「とりあえず,話聞かせてくれよ」

「そうですね…一体どうなったんですか?」

「あのね,Mr.ジョセフとおともだちになったヨ」

「「「おともだち?」」」

「そう,だから,ここにいられマス!ばんじかいけつ!」


にぱーっとした顔をするシェリアは,俺達三人を捕まえるように飛びついた.

どっちかと言うと,三人で飛びついたようにも見える.

じゃれるように騒ぐ俺達を,父さんと母さんは目を細めて見ていた.

…一緒に入ればいいのに.


「グッドスメル…」

「あ,今ちょうど生地焼いてたんだ.シェリアの為に,俺特製カステラを作ったんだぜー!」

「カステラ!!!!」

「おやつの時間は過ぎてますから,夕飯の後のデザートに食べましょうね」

「うん!」


廊下に立ち込める良い匂い.

凰壮は本当に日に日に料理レベルが上がっている.

竜持はなんでもできるし,シェリアの教育係みたいなもんだ.

…このままじゃ俺だけ,損な役になってしまう.




「わぁ…かわいいっ」




リビングに入って,シェリアが歓声をあげた.

ん,リビング?


「それ,虎太くんがやったんですよ」

「こたにーが?すごい,グレート!」

「手こずりながら頑張ってたぜ」

「…ッチ,余計なこと言うなよ」

「またまた,照れちゃって」

「こたにい,ありがとう!すごく,じょーずデス」

「…そ,そうか?」


くっ…可愛いのはお前の方だ!!!

シェリアのセンスには負けるが,結構頑張ったんだ.

正直褒められてめちゃくちゃ嬉しい.


「…やっぱりおうちが,イチバンデス」

「ジョセフんちは,どんなだった?」

「そりゃもう宮殿並でしたよ,すごく広いし,庭もすごかったですよ」

「「父さんには聞いてない」」

「ですよ」

「デスヨ」


凰壮,ジョセフんちって…もっと言い方があるだろう.

しかも父さんが答えるとか…なぁ.

シェリアが竜持の後について言うもんだから,家族全員で爆笑.

あぁ,これが癒しとか和みっつーのかな.




夕飯を済ませ,食後のデザートに取り掛かる.

均等に切り分けたつもりでも,なかなか上手くいかない.

必然的にシェリアに一番大きい部分が渡された.

しばらくはその美味しさに沈黙が続いて,皆黙々と食べていた.



「…っ」

「シェリア!?どうした,不味いのか!」

「ちがっ…なみだ,でてクル…」

「ど,どうしたんです?何か悲しいことでも思い出しましたか?」

「ううん…ちがいマス.うれし,デス」

「嬉し涙?」

「…おうち,かえってこれたのしあわせデス.みんな,すき.おにちゃんだいすき!」

「「「!」」」


えぐえぐっとすすり泣くシェリアは,最後の一口を大事そうに口にしまった.

ボロボロの泣き顔に,俺達も瞼が熱くなっている.

あ,やばい,泣きそう.

シェリアは立ち上がって,俺の元に来る.


「すき,こたにい.おはな,ありがとうデス」


そう告げると,俺のほっぺにキスをした.

えっ…とざわめいたのも束の間,次は竜持の傍に行く.

そして同じようにキスをする.


「るーじにいも,すき.おそうじ,ありがとうデス」


キスされた頬を手で押さえた竜持は放心状態.

凰壮の元にも言って,一言言ってキス.


「おーぞにいも,すき.カステラ,とってもおいしかったデス」


ちゅっというリップ音で,唇がくっつく.

そんな軽いキスだったが,俺達三人の心を解き放つには十分だった.

久々に,声を上げて三人共泣いた.

父さんも母さんも何事かと走ってきたが,状況を見て理解してた.






―ようじょがおうちにかえってきた!―






「…おにいちゃん」

「っ…ぐずっ…どうじだ,シェリア…ずびびっ」

「あのね,ただいまデス…」


ふにゃっと笑ったシェリアに,三人揃って同じことを言う.


「「「おかえり,シェリア(さん)」」」





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