おうちにようじょがやってきた25


虎太も竜持も,お互いに険しい表情をしてる.

きっと俺も.

なんたって,家族の危機.



「…シェリアさん,また眠りました」

「そっか,じゃあ竜持も夕飯済ませて来いよ」

「次は俺が変わるから,虎太が風呂な」



あれから,目を覚ましたシェリアはやっぱり泣き出した.

落ち着かせる方法はぎゅっとしてやること.

寝かせるしかシェリアの気を紛らわせてやる方法がわからないからだ.



「なんか言ってたか?」

「いえ,ただずっと抱っこしてて欲しいって」

「…今日は一緒に寝るか」

「そうだな」

「僕らの部屋にシェリアさんの枕持ってきましょうね」



とりあえず,三人で分担してシェリアの傍を離れないようにすることにした.

ちょうど三人だと効率が良く回る.

俺は,今からシェリアの所に行く.

寝たばっかりだから,寝顔を見守るだけになりそうだけど.





「…入るぞ」


返事はないだろうけど,シェリアの部屋に入る前にノックする.

前はこんなことなかったんだぜ?

ほら,シェリアの着替え事件以来は気を付けてるんだ.

怒られるから.


「寝てるか,やっぱ」


壁に身体を向けて寝るシェリアの顔はよく見えないが,また泣いた跡が残ってる.

髪の毛を払うように,額をなぞった.



「おーぞにー…?」

「あ…」

「くすぐったいデス」

「起きてたのかよ」

「ハイ」

「竜持が寝たって言ってたのに」

「いっぱいねんねしたから,すぐおきちゃったデス…」

「そっか,どうする?晩ご飯食べに降りるか?」

「ううん…イラナイ」



くるりと向きを変えたシェリアは,ぱっちり目を開けていた.

そりゃ,あれだけ寝れば寝たくても寝れないよな.



「食欲ない?」

「…うん」

「まぁ無理しなくていいよ」

「…おーぞに,おててさわって」

「ん」



小さな手を布団から差し出して,俺の方に寄せる.

俺の手と比べると,ちっちゃい.

色も白くて,ぷにっと柔らかくて,温かい.



「…おはなし,イイ?」

「どうした?」

「ワタシ,もういっしょいられない?バイバイ?」

「そんなことねーよ!!」

「…でも,パパのレターにかいてあったデス」

「あんな奴の言う事なんて気にすんな.お前はずーーーっとうちの家族!俺の妹なの」

「かぞく…」

「そうだぜ?俺達は家族!絶対離れ離れにはならないんだ」

「ほんと?」

「あったりまえ!」


にかっと笑うと,シェリアは安心したように目を細める.

俺の手を握る力が,少し緩まった.


「あのね,おにーちゃんスキだからね…バイバイやなの」

「俺だって嫌だ」

「でもね…こじいんなくなっちゃうの,ダメ」

「…そりゃそうだけど」

「わたしがね,おじいさんのトコロいくと,こじいんなくならないって」


シェリアは全部知ってるみたいだった.

あの英文,全文の内容は分かってるってか.


「シェリアが嫌なら,嫌だと言わなきゃ駄目だぞ.確かに孤児院がなくなったら困るけど,シェリアが居なくなったら俺達が困る」

「サミシイ?」

「寂しいよ」


だって,俺には孤児院なんてどうでもいい.

シェリアが居てくれれば.

口が裂けても言えない一言だけど,きっと虎太も竜持も同じ事思ってる.

家族を優先して何が悪いんだ?



「おーぞにーのおかし,まだいっぱいたべたい…」

「そうだな,まだまだあんまり上手じゃねーけど…もっとたくさん練習して美味しいもん作ってやるよ」

「ねりきりがたべたいデス」

「ねりきり!?」

「テレビで,にゅ〜ってやってたデス」

「アレは家で出来るもんじゃないぞ」

「むぅぅ…じゃあ,アンミツ!」

「あんみつか…あんみつなら作れるかな」

「たべたいデス」

「明日材料買いに行こうな」

「はーい!」


シェリアは,無理して笑ってる.

元気なフリをしたその姿に,胸が痛んだ.

でも,きっとそれはこれ以上触れないでっていうシェリアの気持ちだろう.

頭をぽんぽんっと撫でて,それ以上は喋るのをやめた.



「…パパは,おきてマスか?」

「ん?起きてると思う」

「おうちイル?」

「いるよ」

「いくデス」

「父さんのとこに?」

「パパのとこ,いくデス」


シェリアは,起き上がって俺の手を放した.

父さんか…書斎に篭ってまだいろいろ考えてるころだろうか.

俺は,シェリアを抱えて階段を降りる.

なんとなく,くっついてたいから…抱っこ.

おかしいだろ,シェリアが寂しいんじゃなくて俺が寂しいの.



「おーぞにいは,ついてきちゃめなの!」

「へいへい」

「Thank you,My brother」

「あー…ユアウェルカムー?」

「いいかたがへたっぴデス」

「うっせ」



階段降りて,リビングに下ろしてやれば,きゃっきゃと喜ぶシェリア.

だけど,パタパタ走っていくシェリアに付いてくるなと言われたので,仕方なく退散した.

今から俺がすることは,至高のあんみつレシピを探すこと.

だって,約束したもんな,作ってやるってさ.






―笑う天使ともがれた翼―





シェリアに聞いても,父さんと何を話したのかは教えてもらえなかった.

その晩は,俺達三つ子とシェリアは一緒に寝ることになり,腫れ物扱いになっていたシェリアがけろっと空元気を見せるから,俺達も一緒にはしゃいで.

最終的には川の字+1になって,並んで布団に入った.

俺の横が良かったのに,兄の特権とかわけわかんねー権利が発動.

俺,竜持,シェリア,虎太とかいう並び.

並びにはふざけんなと思ったけど,一緒に寝るっていうのはいいな.

横並びに感じる家族の幸せを感じて,俺は目を閉じた.




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