竜持05
「どうしたんだ,竜持」
「…なんでもないですよ」
「そういう態度ってことは大抵シェリアと喧嘩したときだよな」
「そうなのか?」
「うるさいですよ,凰壮くん」
そうですよ,僕は昨日シェリアさんと喧嘩をしました.
…でも,あれはシェリアさんが悪いんです.
「虎太くん,凰壮くん,少し聞いてくれませんか?」
「「…?」」
二人は一瞬顔を見合わせてから,頷いてくれました.
こうやって相談するのは初めてじゃないんですけどね.
「それで,原因は?」
「シェリアさんが…」
「?」
「シェリアさんが,僕に向かって…」
***
「ねぇ,竜持さぁ…毎日部活頑張ってるよね」
「そうですね」
「楽しい?」
「まぁ」
「皆とは上手くやってるの?」
「一応」
「でも,まとめ役って大変そうよね.辛くないの?」
「別に」
「そっか,それならいいんだけどね」
「…」
下校中のことでした.
僕とシェリアさんはは楽しく下校していた,はずだったんです.
「竜持,最近怪我多いから気になってたの」
「そうですか」
「今日もほら怪我してる…!ホントに生傷耐えないじゃない」
「そうですね」
「ねぇ,竜持,聞いてる?」
「聞いてますけど」
「……ホント?」
「何言ってるんですか」
「…………………」
「どうしましたか」
「竜持ってさ,スタメンだっけ?」
「そうですけど」
「人数多いのにすごいよね」
「僕なら当然です」
「でも,実際は割りと活躍少ないし,結構ミスも多いよね.特に最近は戦績も酷いし」
「!!」
「おまけに上級生と上手くいってないみたいだし.選抜代表入りも落ちてるし」
「シェリアさん!」
「余裕ないよね」
「どういうつもりですか,なんでそんなこと言うんです」
「だって本当のことじゃない!」
「それ以上言うなら,流石に怒りますよ」
僕が気にして居ることを…!
グザグサと突き刺さった言葉に胸が痛みました.
「もういいです.今日は一人で帰ってください」
「は?」
「そんなこと言う人なんかといっしょに帰りたくないので」
「…ふーん,いいわよ.じゃあ一人で帰るわよ!馬鹿!」
「さようなら,馬鹿シェリアさん」
***
「っていうわけでそのまま喧嘩別れしたまんまなんです」
「…それで機嫌が悪いのか」
「だってシェリアさんがあんなこと言うから…」
「それは…まぁ…」
あんなこと言われて気分がいい奴なんかいませんよね!
僕はまた腹が立ってきました.
あそこまで言われる理由がわかりませんし.
「ちょっと失礼!凰壮くん,いいかな」
「「シェリア!」」
「…シェリアさん…」
「おはよう!虎太くん,凰壮くん!」
「「お,おはよう…」」
見事に俺だけスルーですか.
わざとですね.
絶対わざとですよね。
「あのさ,監督から…これ渡しといてって」
「あぁ,サンキュ」
「ついでだったからいいのよ,じゃあね」
シェリアさんは去り際に僕をキッと一瞬睨んで.帰っていきました.
……ムカつきますね.
「あ,あからさまに…怒ってるじゃん」
「知りませんよ,俺は悪くないでしょう」
「でも,俺が思うことを言っていいか?」
「なんです,虎太くん」
「どうしたんだ,虎太?」
めずらしく虎太くんがこういう話に意見をくれます.
大抵は聞くだけで,凰壮くんが意見をくれるんですけど.
「俺は竜持も悪いと思う」
「なんでだ?」
「さっきの会話,お前がそっけなさすぎるんじゃないか?あれじゃあ,話しても気分が良くないはずだ」
「でも…」
「シェリアはお前を心配していろいろ話しかけてくれてるんだ.それをそっけなく返されたら拗ねるだろう」
「そういや,心配してくれてる相手に対してお前の返事もどうかと思うな」
「相槌打ってるだけで…僕だって…シェリアさんのこと…」
そんなこと気にもしてなかったですよ.
「だからシェリアが拗ねてあんなこと言っちゃったんじゃないか?」
「……それをお前が真に受けて怒ったから,シェリアも引けなくなったんだろ」
「…だとしたら僕は謝るべきですか…?」
「「当たり前だろ」」
「ちょっと……行って来ます.ありがとうございます、二人とも」
「早く言ってやれ」
「世話が焼けるなー…まったく…」
僕は教室を飛び出しました.
シェリアさんを探しに.
今ならまだ間に合うかもしれないと,願って.
「シェリアさん!!」
「…竜持」
教室,廊下,図書室,ようやく探し回って屋上でシェリアさんを見つけました.
僕に気付いたはシェリアさんは屋上を出て行こうとします.
「ま,待ってください!」
「さ,触らないでよ!」
手を伸ばしてみれば,思いっきり弾かれました.
結構痛いです….
「シェリアさんっ聞いてください!!」
帰ろうとしたシェリアさんを後ろから抱きしめました.
一瞬シェリアさんは暴れたましたが,小さい声で「何よ…」と答えてくれました.
…良かった,ここでも拒まれたら僕はもう….
「ごめんなさい.僕が悪かったです」
「………」
「僕がそっけない態度だったから…機嫌損ねちゃったんですよね.ごめんなさい」
「どうせ…私の話なんかどうでもいいんでしょ……」
「違います!そんなことないですよ!!」
「だって今までだってそうじゃない….いつも話すのは私ばっかり」
後ろ側からで顔は見えませんでしたが,シェリアさんの声は悲しそうでした.
いつもこんな思いをさせていたんでしょうか.
「僕はシェリアさんと一緒にいれるだけでよかったから…そんなの気にしたことありませんでした.でも,貴女にそんな思いさせてたのなら,本当にすいません」
「竜持…」
「これからはもう貴女にそんな思いをさせません…だから,僕を許してください」
「私,あんな酷い事言ったんだよ?怒らないの?」
「それは僕が貴女の好意を踏みにじったからですよね.…本当の事を言われて,言い返せない自分が悔しかったんです」
「ごめんね…私の方こそ,ごめんなさい」
「シェリアさん…!」
シェリアさんは声を震わせて,謝ってくれました.
謝るのは僕の方なのに.
僕はシェリアさんをこっちに向かせて,ぎゅうっと抱きしめました.
シェリアさんもぎゅっと腕を添えて,抱きしめ返してくれます.
「僕,もっと強くなってみせます…頑張りますから」
「うん…」
「その,えっと…こういうとき上手く言えなくてすいません……愛してます」
「ううん,竜持らしいなぁ.私もだよ,愛してる」
抱きしめあって,キスしました.
こうして,僕達は仲直りできたわけです.
「で,これは一体どういうことだ?」
「いやぁ…それがシェリアさんが僕のために専属マネージャーになってくれるっていうので」
「お邪魔してます」
「それは構わいが,今はミーティング中だぞ」
「だからこうして座ってるんですよ」
そうなんです,あれからシェリアさんは僕専属マネになったんです.
ふふ,いいでしょう?
「だからって,なんで膝の上なんだ!」
「椅子が足りないからですよ」
「目に毒だ!竜持なんか爆発しろ!!」
凰壮くん,目がマジですよ.
虎太くんも何回もホワイトボードを書いたり消したりしてるんですかね.
チラチラ見すぎですって!
「爆発しても私が手当てしたげるから」
「そうですね!シェリアさんがいるから安心ですよ」
「マジ滅べ,リア充竜持なんか滅んでしまえ!」
「やってられないな,この馬鹿ップル!」
二人はグランドに飛び出していきました.
シェリアさんと僕は笑い合いました.
「いってらっしゃい」
「いってきます」
シェリアさんに見送られて,僕もグランドに飛び出していくのでした.