おうちにようじょがやってきた03


「イヤデス!!!!!!」



シェリアが初めて俺達の前で泣いた.

大きな瞳からボロッボロ涙が落ちて,カーペットに染みていく.

あー…なんで泣くんだよ.



「ぜったいにイヤ!おそとキライデス!」

「っても…たまには家から出ないと…」

「そうですよ,服とか靴とか買いにいきましょう?」



シェリアは大きく首を振って,動こうとしない.

なんでそんなにインドアなんだよ.

女って普通は買い物とか好きなんじゃなかったか?

…それとも,こんな幼い女の子にはまだわかんねーか.



「おそと,イヤです.コワイからヤ!」

「怖くねーって!俺らも一緒に行くんだぞ」

「うぇ…うぇぇええええん!!!!!Don't touch me!Go to hell!」



ぎょっとした,シェリアの声と内容に.

英語だったけど聞き取れた,かろうじて.



「コラ!シェリアさん,そんな言葉を使ってはいけません!」



竜持が注意するも,シェリアは泣きやまないし,聞き入れる様子もない.

困ったぜ…ったく.

触るな,地獄に堕ちろ…そんなに出かけるのが嫌なのかよ.

俺だって,傷つくんだからな!




「シェリア,わかった.とりあえず泣きやめ!無理矢理外に出そうとしないから」

「っく…えっぐ…ぐずっ…Really?」

「おう,だからほら…こっちこい.顔拭いてやる」



たじたじしながら寄ってくるあたり,まだ警戒されてるんだろうか.

こういうのは竜持の方が向いてる気がするんだがなぁ.

シェリアは,そっとハンカチで顔を拭けば,大人しくしていた.

とりあえず,落ち着くまで何も言わず,すんすんと鼻をならすシェリアを眺めている.



「…僕はちょっと席を外しますから,あとは虎太くんと凰壮くんで頼みます」

「俺も,今日は西園寺の練習に付き合う約束があるから,ちょっと出かけてくる」



あれ,それって要するに俺にシェリアをなんとかしろってか.

無茶ぶりだろ….



「凰壮くん,後を頼みましたよ?」

「早く戻るようにはする」

「…わかった」



任されたはいいものの,俺は女の機嫌を伺えるようなタイプじゃないし,この後どうしていいのかもわからない.

シェリアは座って俯いたまんま.









「…バード」

「あ?」

「ごめんなサイデス…」

「ん?」



どうしようもなく沈黙して,お互いに座りこんでいれば,いつのまにかシェリアが目の前にしゃがんでいた.

おまっ,パンツ見えてる!

目のやり場に困る…俺はロリコンじゃない!

たまたま目に入っただけだし,事故だからな!?



「イッパイ,ひどいこといいマシタ」

「気にすんな」

「ン,Thanks…」

「もう大丈夫か?」



こくんと頷いたシェリアが,俺にもたれかかるように座りなおす.

ちいさいくせに余計な心配してんじゃねーっての.

そんな小さいことでウジウジ言ったりしねーよ.



「おそと,コワイデス.ワタシ,おそといくとシラナイひといっぱい」

「おー」

「ワタシのまえのパパ,ママはもういないデス.てんごくにいくって」

「…」



一体何を言い出したんだ?

嘘を付いてるようでもなければ,有り得た話でもない.

妙に暗い面持ちで,ゆっくりとちぐはぐな言葉が飛び出してくる.



「もうすこし,わかりやすく言えるか?」

「ワタシは,こじデス.パパとママ,わるいひとにナイフで…」

「!」

「レッドになって,ワタシもレッド,トテモいたい」

「シェリア…」

「ねむっておきたら,ワタシだけおいてけぼり,パパもママもてんごくにいきマシタ」

「わかった,もういい.ごめん」



シェリアの生まれや両親のことは全く聞いた事がなかったし,俺の両親も教えてくれたことはなかった.

初めて聞いた衝撃に,思わず俺が泣きそうになる.

こんな重いモン背負ってんのかよ…こんな小さい体で.

シェリアはとても,申し訳なさそうな顔をしていた.



「…フラッシュバック…しマス」

「うん」

「コワイデス」

「そうだな」

「また,ワタシをおいててんごくいっちゃっタラ…イヤデス…サミシイ」



泣きやんだはずの目に,涙が溜っていく.

指で掬っても,抑えられそうにない勢いだ.

自分がどんな表情をしてるのかもわからないまま,シェリアを抱き締める.



「今の話,二人にもしてもいいか?」

「きいたラ,タイガーもドラゴンも…カナシイ?」

「悲しくないさ」

「だって,バード…ないてるデス」

「これは,前髪が目に入ったから違うんだって」

「ウソツキよくないデスよ」

「お前最近,言葉遣いが竜持っぽい」



なにやってんだか,俺達.

今の話をしたシェリアは相当辛かっただろう.

知らないとはいえ,悪い事をしてしまった後悔が押し寄せる.



「ワタシ,そとキライ.でも…ガンバル…?」

「無理しなくていい」

「でも,オニイチャンたちこまるのダメ…!」

「バーカ,そんなのどうでもいいんだよ.ちょっとずつやってけばさ」

「?」

「ほら,最初は庭とか…近所とかで,徐々に慣れればいいさ」



ぽんっと,シェリアの頭を撫でる.

自分がこの歳のころ,こんなに気の回る子供だったっけ.

妙に大人びてるっていうか…遠慮してんだよなぁ.

もっとフランクになってもいいのに,とは思ってるけど言えない.

チキンだからな,どーせ俺はチキンだ!






―事実はやがて,きっかけになると信じて―





「あのよ,ちょっと二人に聞いてほしいんだが」


その晩俺は,二人にシェリアとのことを話した.

全て聞き終えたとき,俺達の考えは3人とも一緒だった.


「「「シェリア(さん)を俺(僕)たちで守りろう(ましょう)!」」」


明日もシェリアと遊ぼう.

それが俺たちに出来る唯一のこと.



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