おうちにようじょがやってきた23


「う,うぇぇえええん」


大きく響いた鳴き声は,我が家の可愛い妹君のものだった.

聞きつけた俺達は、揃いも揃って三人とも何が起こっているのかわからない.


「ど,どうしたシェリア!」

「なんだなんだ!?」

「何があったんです?!」


パニック三兄弟になった俺達は,慌ててバタバタしている.

そんな俺達を無視して泣き続けるシェリア.

冷静になるのを忘れて,四人で騒げば出てくる父さん.

父さんは何やら暗い顔をしていた.


「すいません…ちょっとやらかしてしまったようで」

「父さん,どうしたんだよ!」

「とりあえず,話はシェリアちゃんを泣きやませてからにしましょう」


父さんが,原因なのだろうか.

だが,それにして尋常じゃない泣き方だ.

まるで外に出たがるのを嫌がっていたあの時のように.

金切り声に近い,悲痛な鳴き声だった.



「シェリアさん,遊びましょうよ?ほら,この間の絵本の続き読みませんか?」

「わぁああああああん」

「シェリア,ほら…おやつだぞ!お前の食べたがってたの作ったんだぜ!」

「びええええええん」



竜持も凰壮も,物で釣ってみる作戦は失敗.

その後もあれよこれよと出しては来るものの,結局自体が悪化.

俺だけ何もしていない状況に,二人の視線が助けてと言っているように見えた.

だが,俺は物とかで釣れないし,何か笑わせる一発芸もない.



「…シェリア」



何も出来ない俺は,近くにまで寄って,名前読んで,シェリアをぎゅっと抱き締めた.


「ごだにぃぃいいいっ」

「よしよし」


シェリアは,俺の胸に飛びついて一層声を上げて泣く.

俺のシャツをぎゅうっと握って,顔を埋めていた.

涙が染み込んでくるのがわかる.

ぽんぽんっと頭を撫でて,落ち着くまで背中を擦る.


「…アンビリーバボー」

「虎太くん,やりますね…」


10分も経たないうちに,声は小さくなっていく.

もう声も出ないのだろうか.

少しは,楽になったかな.

完全に静まったときには,小さな寝息が聞えてきた.

泣き疲れてしまったんだろう.



「…寝た」

「そのまま寝室に連れて行きましょう」

「行って来る」



俺は,シェリアを抱っこして部屋のベッドに寝かせようとしたが,シャツを掴んでいる手が離れない.

無理矢理引き剥がせば,起してしまうかもしれない.

困った.

とりあえず,このままでは体勢が苦しそうだったので,掴まれたシャツごと俺も一緒にベッドで横になってみる.

空いた片手で,頭を撫でていれば,目尻に涙が浮かんでいるのがわかった.


「おに,ちゃ…」

「ん?」

「いっちゃ,やぁ…」


シェリアの寝言.

俺達が離れて行く夢でも見たんだろうか.

ふっと,シェリアの腕から力が抜けたので,その隙に脱出する.

ごめんな,傍にいてやりたいんだけど.

おでこにキスをして,静かに部屋を出た.








「…どうでした?」

「よく眠ってたからしばらくは大丈夫だと思う」

「すいません,私の不注意でして」


父さんと対面するように,俺達は並んで座った.

机には,封筒が一つ.

宛名も差出人も,英語で書かれてある.

一目で外国から送られてきたものだとわかった.


「これは?」

「昨日,届いたものです」

「…全部英語じゃん,読めねぇ」

「君達はそうでしょう,ですがシェリアちゃんは読めたんでしょうね」

「なんて書いてあるんだ?そもそも誰から誰に?」

「…シェリアちゃんのいた孤児院から,私宛てにです」

「ふーん」

「ざっくり言うと,シェリアちゃんを欲しがっている人いて,その人が多額のお金を孤児院に納めてくれるので,シェリアちゃんを引き渡してほしいと書いてあります」

「っ,なんだよそれ!」

「意味がわからないんですけど!!」

「…ふざけんなよ」


父さんの言葉に,俺達は立ち上がった.

そんな理不尽なこと,受け入れろって?

無理だ,無理に決まってる.

だって俺達はもう家族だ,今更引き離す?

ふざけんじゃねーよ!



「シェリアさん,それであんなに大泣きしたんですか?」

「私が書斎の机に置いたままにしてしまっていたので…見てしまったんだと思います」



項垂れる父さんなんて,初めてだ.

ざっくり話されたせいで,細かいことはわからないが.

小さい子が読んで,ましてや自分が家族と引き離されるだなんて…信じがたいし受け入れがたいことだろう.

俺は,ダンっと机を蹴って,そのまま座った.

足は痛いが,シェリアのことに比べたらなんてことない.






―家族の危機は突然に―






シェリアを,絶対に渡したくない.

俺がシェリアを守ってやる.

シェリアを虐げる奴なんか,大ッ嫌いだ!


「とりあえず,原文をちゃんと聞かせてください」

「そうだな,そのままを読んでくれよ」

「…わかりました」


父さんは,手紙を音読し始める.

静かなリビングに反して,父さんの声を聞けば聞くほど俺の心は酷く鳴っていった.

激しい怒りと,憎しみの音で.




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