竜持04
竜持くんとの再会は,思いも寄らぬところからだった.
合コン,そう呼ぶにはちゃっちい身内のお食事会.
大学の友達と企画して,メンバーを集めたら,そこにたまたま竜持くんがいただけである.
「あ,シェリアさん…お久しぶりですね」
「竜持くん…だよね?お久しぶりだね!」
「えぇ,もう6年前ですっけ」
「そうそう,小学生のとき以来」
竜持くんは,小学時代一緒だった.
卒業後,私は私立の中学校に行ってしまったので,それから会う事はなく今に至る.
あの時と違って,竜持くんは背も高くなって,雰囲気がなんとなく違う.
場が盛り上がってきたところで,各々が会話を始めたのをきっかけに,私と竜持くんの再会となったのだ.
正直,気付いていたが話しかけるのもアレだったので,そのまま再会の挨拶なしで解散するかと思っていた.
「シェリアさん,飲まないんですか?」
「弱いんだ,私」
「へぇ…」
「竜持くんは?」
「僕はこの後,運転なので」
「そっか.じゃあノンアルで乾杯」
「はい」
コツンとグラスを当てて,アルコールの入っていないお酒を空けた.
元々本当に下戸で飲めないから,ノンアルコールも苦手だが.
空気を読んで,一杯くらいはしょうがないのだ.
「…今,○○大学なんですね」
「そうだよ,竜持くんは▲▲大だっけ?」
「聞きましたよ,語学専攻クラストップらしいじゃないですか」
「トップって言っても,人数少ないんだから大したことじゃないよ」
「いやでも,相変わらず外国語がお好きなんですね」
「うん」
「どんな勉強してるんです?」
「…英語と,ドイツ語と中国語,あとは最近ハングルも,かな」
「うわー…どこに行っても言葉で困りそうにないですね」
他愛ない大学の話も弾んで,緊張は解れていた.
竜持くんも大学でトップクラスの成績を残す,相変わらずのエリートのようだった.
竜持くんってこんなに丸かっただろうか.
あ,勿論性格のことね.
「竜持くん,相変わらずもててそうだね」
「そうですか?」
「うん,彼女はいないの?」
「いませんよ,残念ながら」
「意外だなぁ」
「そういうシェリアさんは?」
「いないなぁ…なかなか出会いもないので」
彼氏というものには縁がない.
出来るのは男友達ばっかりだ.
竜持くんもそうらしい.
もてそうなのに,意外だったな.
「そろそろお開きにしよー」
「「「はーい」」」
皆が片付け始めて,どうやらこれで食事会はおしまい.
帰りは,もう終電がないのでタクシーかお泊りが無難だろう.
流石に歩ける距離じゃないもんで.
一旦,全員と別れてから携帯を開いた.
「…誰かこの辺に泊めてくれそうな友達いたかなー」
「シェリアさん!」
後ろから車が来て私の横に止まった.
竜持くんだ.
窓を開けて,私に話しかけてきた.
「こっちなんですか?」
「うーん,まぁ一応」
「一人で?」
「終電ないから,泊めてもらえる友達探そうかなって」
「送りましょうか,僕もこっちなんで」
「いやいや,悪いよ.結構遠いし」
「何言ってるんです.こんなところで女性一人置き去りにする方が悪いですよ」
紳士だなぁ….
高級車に似合ったイケメンなせいで,多少フィルターが掛かってるのかもしれないけど.
すごい剣幕で言われたので,素直に厚意を受け取った.
正直夏の夜とは言え,夜は寒かったので助かった!
「シェリアさん,夜の一人歩きは危険ですからね」
「うん」
「最近ここらへん,不審者目撃ありますし」
「えっそうなの!」
「…ってさっき張り紙が」
「も〜なにそれ!竜持くんったら」
冗談を言いながらも,車を運転する横顔が,ものすごく綺麗だ.
しつこいくらいに寒くないかと聞いてくるのも,なんだか笑えた.
あぁ…こんな彼氏がいたら良かったのにな.
「そういえば,シェリアさんは彼氏がいらっしゃらないと言ってましたよね?」
「うぇっ…あ,うん」
変な声が出てしまった.
慌てて返事をするが,聞かれていた様で…竜持くんは笑っていた.
恥ずかしい….
「笑わないでよ〜」
「すいません,あんまりにも可愛い声でしたから」
「なっ!もう…そういうの勘違いしちゃうからやめてよね」
「そうですか?勘違いされてもいいんですけど」
「はぁあ!?流石にそれは…竜持くんからかいすぎ」
「…からかってないんですけど」
「それはそれでなんの冗談なの」
「……はぁ」
ちょっとむきになったところで,思いっきりため息を吐かれた.
なんだなんだ…ため息がいくら色っぽくたって騙されないぞ.
私はある意味鉄壁なので,イケメンの誘惑に負けない!
「ちょっと,失礼します」
「えっ?」
竜持くんは,大きな駐車場に入った.
真夜中は,トラックが数台に,車もほとんどいない.
「りゅう「僕,本当は今日だって暇じゃないんですよ」…ん?」
私は,なんで停まったのか聞こうとしたが,その前に竜持くんが話出してしまった.
「僕に友達がいると思います?この僕に」
「いや…その質問もどうなの」
「おまけに,あんな馬鹿騒ぎするところに自ら来ると思います?」
「…正直意外だったよ?」
「なんで,僕の言葉信じてくれないんですか」
「信じるって,何のこと?」
「…ついさっきの記憶までないんですか,この馬鹿!」
「馬鹿ってなによ馬鹿って!いくらなんでも,竜持くんそれはないでしょー!」
「シェリアちゃんがそういう態度だからです!!」
「…シェリア,ちゃん?」
「!!」
竜持くんの,しまったというような顔が見えた.
すぐに消えてしまったけど.
ちょっと何かひっかかるものを抱えて,私は怪訝な顔をする.
竜持くんは,それを皮切りにしおらしくなってしまった.
「…すいません,ちょっと動揺してたみたいです」
「そうだね,落ち着こうね」
「…すいません」
「いいから,ちょっと黙ろう」
言われたこっちとしては,顔から火が出そうな勢いだった.
いや…ちゃん付けなんてされるとは思ってなかったのだ.
「シェリアさん」
「うん」
「ハッキリ言いますけど,僕,貴女のこと好きなんですよ」
「うん?」
「昔から好きだって言ってるのに,貴女全然信じてくれませんよね」
「イケメンの戯言に騙されたら最後だと母に教わったので」
「小学生のころからそんな教訓持ってたんですか」
「…はは,つい最近母に頂いたお言葉です.申し訳ない」
「やっぱり気付いてなかったんですね…」
「いや,今になってやっと状況が飲み込めましたほんっとうに申し訳ないですごめんなさい」
「いいですから,顔上げてください.こっちが恥ずかしいです」
何をやってるだと思いながらも,なんでこうなったのかわからない.
竜持くんが私に好意を寄せてくれていたなんて微塵も知らなかった.
なんだか微妙な空気になってしまった.
「とりあえず,お返事は急ぎませんけど…なんかもう告白のムードブチ壊しですね」
「そうだね,どっからやり直せばいいのかもわかんないや」
「まぁ…貴女らしくていいです.なんとなくムードを求めていたのが間違いでした」
「ムードもなにも,普通に昔の友達を再会出来た!ってくらいにしか思ってなかったよ」
「…でしょうね」
「いやほんと,ごめんね!」
「謝らないでください,虚しいので」
告白されたのに,こんなに落ち着いているのもなんだかなぁ.
さっきのパニックもなかったかのように,心は穏やかだ.
竜持くんの顔になら騙されても後悔しない気がしていた.
ごめんねお母さん…私結局イケメン好きです.
「今なんかすごく失礼なこと考えませんでした?」
「いや…うん,なんでもない」
「否定しかけてそれをやめないでくださいよ.シェリアさんって,なんでホント変わってないんですか」
「いやいや,変わったよ?」
「どこがですか…真っ平らですよ」
「こらこらこら,どこを見て言った今」
「……最も成長してなさそうな部分ですね」
「うわぁりゅーじくんさいってー…事実なだけにくやしー」
自分の胸を撫でながら,ぷっと笑い出してしまった.
竜持くんもクスクスと笑うので,ちょっと殺意が芽生えたけど.
いや,あるからね?
まな板とかじゃなくてね,あるんだから.
それから,また車を走らせて家の近くまで送ってもらった.
内容なんてない,世間話に華を咲かせて.
「…あ,この辺でしたっけ」
「うん,ここで大丈夫.ありがとね,送ってくれて」
「いえいえ,当然のことをしただけですから」
「今日は楽しかったなぁ〜じゃあまた!」
「返事,考えておいてくださいね」
「うん,前向きに検討します」
「それは楽しみです.それじゃあ」
「またね」
さて,これからメールの文面を考えようか.
家に着いて,ベッドにダイブしながら画面と睨めっこ.
答えは考える間もなく決まっている.
安らげた気持ちを思い出しながら,送信ボタンを押した.