おうちにようじょがやってきた22


「エリー!」

「あー!シェリアちゃんっ」

「エリーこんにちはー」

「こんにちは!どしたん,こんなところで…一人なん?」

「バー…おーぞにいもいっしょデス!」

「どこ行ったん?」

「おトイレ!」

「あ…なるほど」



今日は,シェリアがめずらしく外に出たがったので公園に連れて行くことにした.

家を出て公園に着く頃,突然の尿意に襲われた俺はトイレなう.

シェリアを一緒にトイレに連れていくわけにも行かないので,そこで待っててくれと伝えて急いだ.

出てきて見れば,シェリアは居ない.

なんてこった!



「…あそこで百面相してんのって…」

「おーぞにー!こっちこっち!」

「あっ!」


シェリアは近くに居た.

高遠が一緒だ.

なんだ…ビックリさせるなよ…竜持に殺されるところだった.



「シェリアちゃん,何して遊ぶん?」

「あそぶ…あそぶ?ううん,おさんぽ!」

「散歩かぁ…えぇなぁ!お兄ちゃんとお散歩」

「おーぞにいは,いじわるデス!はしってさきいく!」

「そら可哀想に…うちがしばいとったる」

「しばい…?」

「叩くってことや」

「No!おーぞにいたたいたらめなのー!」


高遠はしゃがんでシェリアの目線で会話をしていた.

こういうところが,子供に好かれる理由なんだろうな.

というか…今の聞いたか?

俺を庇うシェリアちょーかわいい.


「お兄ちゃんのことめっちゃ好きなんやね」

「すき!すごく!えっと…このくらい」


シェリアは身振り手振りで円を描いた.

ぴょんぴょんと跳ねて,とりあえず大きいという事を表したかったようだ.

くっそ可愛い…高遠の羨ましげな視線に,思わずドヤ顔になってしまう.


「凰壮くん,めっちゃ腹立つわ〜」

「はらたつわ〜」

「うちの真似?」

「まねっこデスー!ワタシまねっことくいデス!」

「へぇぇ…!」


シェリアは,徐にものまねを始めた.

俺と高遠はベンチに座って観客と化す.

一体何を真似するんだろうか,やっぱ竜持?



「まずは,こたにー!」

「虎太の真似って…何か特徴あったっけ」

「…”おうぞおは,ろりこんだからしんぱいダ…おまえヘンなコトされてなイカ?だいじょぶなのカ?”」

「げふぉっ!!」

「…シェリアちゃん,それガチなん?」


シェリアの口からとんでもない言葉が出てきた.

俺は絶句,高遠も唖然.

シェリアは,どう?という視線を投げかけてきている.

どうもなにも…なぁ.


「こたにいとね,ねんねのときおはなしして,こたにいがいったデス!」

「ほー…虎太がか.…虎太が言ったんだな」

「Yes!」

「…ロリコンて…自分も大概な言われようやんな」

「うるせー」

「つぎ,るーじにいデス!」

「竜持の真似って…いい予感がしない」


俺の予感は当たる.

シェリアは,えへんと竜持のように胸を張って咳払いをした.


「”しんぱいしなくテモ,えりかさんより,シェリアさんのむねのほうがおおきくなりマスよ?”」

「ぶっ」

「ぶはっ」

「にてた?にてた?」

「ちょ,ちょっと待って…今のいつ言うたん?」

「おふろのときに,るーじにいがおしえてくれマシタ」

「…竜持くんサイテーやん…そもそも人の気にしとることを…!!!」

「事実だもんな」

「殺すぞ」

「すいません」


高遠が俺の首を掴んでガッとしてきたので,怖かった.

目がマジだった.

そもそも竜持は一体何をシェリアに吹き込んでんだ!

いたいけな少女になんつーことを…!


「…竜持くんに会ったら殴らへん自信がない…」

「るーじにい,いたいいたいスル?」

「あれは竜持が悪いんだから,ほっとけ」

「?」


帰ったら竜持に教えてやろう.

せめてもの温情というか…シェリアのうるっとした表情に負けたから.

だが,殴られるのは俺には止められない.

例えそれが,高遠の胸がないということが事実だったとしても!


「…凰壮くん,今めっちゃ失礼なこと考えへんかった?」

「ひっ!滅相もない」


やっぱり告げ口もやめとこうかな.

うん.


「おーぞにいのまねはね,えっと」

「俺か?」

「なんやろなー」

「”なんでおればっか,こんなめにアウんだろーな…シェリア,なぐさめてくれヨ…”」

「「…」」


シェリアが言った瞬間に,高遠が俺から数メートル離れた.

それはもう勢い良く,シェリアを抱えて.

そして俺を指差して言う.


「このロリコン!変態!」

「いやいやいや…ないだろ,どこがだよ」

「凰壮くん…ガチで引いたわ…あかん…なんかあかんやろ」

「あかんって…別におかしくないだろ?」

「今めっちゃゾワワってなったわ!ごめんな…どう聞いても,変態の台詞やねん」

「そういう解釈するお前の方が変態だろ」

「…シェリアちゃん,いつ言われたん?」


俺が一歩寄れば,高遠は一歩下がる.

一進一退の攻防である.

いや,別に俺ヘンなこと言ってないよな?


「おーぞにいがね,こたにーとるーじにいにやっつけられたら,ワタシがとめマス」

「うん」

「そのときに,ワタシがダメよっていったら,ぎゅーってしながらいう」

「…そっかー…そっか……それはアウトやん」

「アウトじゃねーだろ!同情を買ってるんだよ」

「言ってて虚しならん?」

「なるに決まってんだろ!!」


別にいつもの光景じゃねーか.

俺が二人に精神的にいじめられると,シェリアが止めてくれるからその時にこう…ぎゅってしながらシェリアは俺の味方だってアピールしてるだけで….

あいつらひでぇんだし…いいだろこれくらい.

むしろ,高遠がアウトっていう理由がわかんねぇ.



「とりあえずな,そういう時はおもっきし蹴って逃げるんやで」

「oh…ランナウェイ!」

「そやで!男は狼やねん…例え兄弟でも油断したらあかん!」

「おーぞにいはwolf…」

「おい高遠!妙な知恵を付けさせるなよ!」

「妙やあらへん!自分で自分の身を守るためのアドバイスやん」


いや,だからって俺らが嫌われるようなこと言わないでほしいんだけど.

妹襲うとか有り得ない.

むしろ襲ってくる奴から守る方だから.


「おーぞにい,ワンっていってー」

「はぁ?」

「ワンってゆってー?」

「……………わん」

「So cute!もいっかい!」

「ダメだ」

「…おーぞにー」

「……ックショーそんな目で俺を見るなぁああ!ワンワンワン!!これで満足かよ!」


なんだよ断れるわけないだろ!

チクショー,こういう無邪気な顔に弱いんだよ俺は!!

お願いなんてされたら聞かないなんて有り得ないだろ!!!

そんな方向の定まらない怒りは,小さなシャッター音と共に散っていく.



「…え」

「いやぁ…ええもん,見れたわ」

「おまっ消せよ」


つい癖でやってしまったが,ここは公の場所…そう,公園.

後悔なんてもはや何の役にも立たない.


「これはものすごい弱みを握ってしもたんやない?」

「…高遠」

「これは保護っとくから.シェリアちゃん,狼男はもうええから,うちと遊ぼう!」

「ハーイ!」


恥よりも恐ろしさが勝る.

しばらく高遠に逆らえそうにない.

なんとしても消してもらわないと.

そう考えた俺は,遊んでいる二人を追いかけた.






―鬼か,悪魔か,高遠か―






「おかえりなさい,凰壮くん」

「ただいま」

「…へーわんって鳴かないんですねー」

「な,なんでお前がそれ…」

「さぁどうしてでしょう」

「まさか…もう出回ってるのか…俺の醜態が」

「おーぞにーわんってないてー?(裏声)」


クスクス笑う竜持の携帯には,俺とシェリアの映った動画.

あぁ,終わったな,俺.




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