竜持02
「竜持くん,英語辞典持ってない?」
「はい,持ってますよ」
「今日忘れちゃってさ…貸してくれないかな」
「いいですよ,キスしてくれたら貸してあげましょう」
「うん…ってぇええ!」
「うんって言ったんだから早くしてください.それとも,授業始まるまで粘ります?」
「あ,あぅ…そ,それは…えっと…」
僕の友人,シェリアはとても面白い人です.
色恋にまっっっったく耐性がないんですよ.
でも僕に片思いしてるんです,可愛いでしょう?
あ,僕は勿論彼女の事好きですけどね.
告白はまだお互いにしてませんけど,シェリアはわかりやすいので僕の事が好きだときっと多くの人にばれているでしょう.
「どうしたんですか?固まってますけど」
「き,ききキスなんて…無理ーごめんなさああああい!」
全力疾走で逃げていくんですが,他に辞書借りる宛てでもあるんですかね.
彼女,見事なまでに友達いませんからね.
いやまぁ,僕とつるんでる時点で当たり前ですけど.
「おい竜持,あんまからかってやるなよ」
ケラケラと笑いながら,凰壮くんの登場です.
モブ臭を醸し出す登場はあれほどやめろと言うのに,本当にクズですね.
「可愛いでしょう?ああやってからかえばからかうほど,彼女は可愛い行動をしてくれるんですよ」
「単純に楽しんでないか,お前」
「いけませんか?」
「いけなくはないけど,勘違いされるぞ」
「どうしてですか?」
「お前はシェリアにとって少なくとも信じてる友達なんだから,嫌われるとか思い詰めてるんじゃ…」
「それはありませんよ,だって…シェリアは絶対戻ってきますって」
「その根拠はどこから来るんだよ…」
「キスする度胸はないと思いますけど,土下座くらいはするかもしれませんねぇ」
「おま…サディスティックな笑み浮かべてんじゃねーよ」
凰壮くんは行儀が悪いです,机に座るんですから.
僕は読書をしてるんですけど,そろそろ来るころじゃないですかね.
バタバタバタバタ,この足音.
「りゅりゅりゅ竜持くんっ」
「ほら,来たでしょう」
「シェリアも期待を裏切らない奴だよな」
「どうしたんですか,そんなに息を切らし…むぐっ」
「お,おま…ここ教室!!!」
僕は,再びからかうつもりで口を開きました.
ですが,言葉を発するその前に,塞がれてしまっているのです.
シェリアに,口を.
間違いなく,キスされています.
「りゅーじくぅん…ご,ごめんなさあああああい!いやあああはずかしくて死ぬ!!でも辞書貨してください!あと好きです!!!」
「…なっ!?」
ポカン,という言葉が似合いそうな表情してそうですね僕.
今何を言われたのかさっぱり理解できませんでした.
詰め込みすぎじゃないですか?
「辞書…」
「どどどどうぞ,おおお使いくださ,い」
「あああありがとう,ああああとで返しにくっる,ねぇ」
「い,いえ,どどどういたしましして…」
「お前らどもり過ぎて会話にならないから落ち着けよ!」
「じゃあ,わ,私戻るから…」
いや,逃げ出したいのは僕の方なんですけどね.
ていうか,ホント状況に付いていけないですよ僕.
凰壮くんめちゃくちゃ笑ってますし.
「何処で間違ったか,アイツ,予想を裏切ったな」
「……どどどうしましょう凰壮くん」
「お前案外打たれ弱いのな.どうするって,どうするんだ」
「可愛すぎました!見ました今の!あの焦った顔に困った顔に,泣きそうな顔!」
「…アイツの表情がお前の心に何か刺激を与えたことはよーく分かった」
「好きって!言われましたよ!!」
「そうだな,おめでとう」
「辞書貨してしまいました!!」
「うん」
「好きって言われました!!!」
「それ二回目だから」
だって,シェリアがあんな大胆なことするなんて…!
しかもファーストキス…ですよ?
いつもならあんな反撃してこないのに…!!!
可愛いのと嬉しいのと,あとちょっと恥ずかしいので動揺が隠せません!
「き,決めました僕」
「ん?」
「責任とってちょっと嫁に貰ってきます」
「いやいやいや!ぶっとびすぎてる!嫁もらうとか,ちょっとってレベルじゃねーよ」
「だってキスしたし,辞書貨しました」
「お前その理論だと世の中カオスになっちゃうから!辞書貨したの関係ないから!」
「もう,手遅れになってしまいますから凰壮くんは邪魔しないでください!!」
「うわぁっちょ,やめっ」
僕は凰壮くんを突き飛ばして,机から落とし,シェリアを追って教室を飛び出しました.
転げる凰壮くんの文句なんて知りませんよ!
だって今は,とにかく急がなくては….
結婚は18になってからすぐでいいんですかね,和装と洋装はどっちがいいでしょう,あ,披露宴で着るドレスだって…!!!
「シェリア!!」
「ひいいいい竜持くん!!」
「何で逃げるんですか」
「だってだってだって竜持くんが追いかけるから!!」
「止まれば追いかけませんってば!」
「止まったら捕まるじゃない!」
「捕まえたいんだから仕方ないじゃないですか!」
「怖いよー!竜持くん怖いよー!助けてー虎太くんに凰壮くーん!」
「なんでそこで二人を呼ぶんですか!ちょっと,止まってくださいってば!」
「いやああー!」
「虎太,どうしたんだ」
「シェリアの相談に乗った」
「へー」
「竜持がキスしなきゃ辞書貨してくれないって言うから,すればいいだろって言った」
「お前が犯人か!今すぐアイツらを止めてこい!」
「どういうことだ?」
今日も次男と未来の嫁(仮)は平和なようです.