おうちにようじょがやってきた17


「タイガー,おしえてくだサイ!」

「何を?」

「サッカーはなんにんでやるスポーツなのデスか?」

「11人だが…相手チームも入れると22人だな」

「Why?どうしてそんなにいっぱい?」


キラキラをした目を俺に向けて,質問をしてくるシェリア.

なんだサッカーのことか,と安堵していればいきなり解答に詰まった.

イメージではわかるんだが,言葉に出来ない.

つまり,説明してやれない.


「…タイガー?」

「サッカーは,なんで11人なんだろうな.いや,でもそれぞれポジションがあって必要な数にはなってるんだろうけど」

「ぽじしょん?」

「フォワードとか,ミッドフィルダーとか,ゴールキーパーとか」

「タイガーは?」

「俺は,フォワード…か?いや,今は別にどこって決まってるわけじゃない」

「じゃあ,フィールドでなにしてマスか?」

「臨機応変…えーっと,その時の状況に合わせて動いてる」

「oh…サッカーとはおくがフカイのデスネ」

「はは,まぁな」


なんとか誤魔化せたのだろうか,これ以上答えられない質問が続いてほしくない.

答えられなかったら,かっこ悪いだろ.


「シェリアはサッカーに興味があるのか?」

「ナイデス」

「ないのか」

「ナイデスよ」

「…じゃあ何で今の質問をしたんだ?」

「ワタシ,きづいた!おにいちゃんたちのコト,なにもしらないデス」

「ほぉ」

「ダカラ,いっぱいきいて,いっぱいしる!」

「そうかそうか,それでサッカーなわけか」

「Yes!でも,サッカーにきょうみはナイから…たぶんわすれてしまいマス」


そこまで興味がないのを言い切られるとなかなか心が痛い.

俺達のことを知ろうとしてくれるのは有難いが,なんで今更なんだろう.

子供の思いつきにしては,内容が偏っている.


「メモするデス」

「インタビューみたいなもんか」

「じゃあ,ワタシはインタビュアー!もっと,いっぱいきかせて!」


俺には読めない文字で,シェリアは必死に何かを書きとめていた.

英語と日本語の混ざった異形文字みたいな…本当に読めなかったんだ.






「…ってことだぞ」

「ワカリマシタ,じゃあ,ラストデス」


結構な質問が来たが,サッカーだけじゃなくいろんな分野にもその手が伸びていた.

好きな食べ物,好きな本,得意な科目,好きな動物,好きな音楽とかいろいろ…でも基本好きなものばっか.

自分で考えたにしては,凝ってるというか…なんでそんなことまでって内容もあったぞ.

次で最後というからには,何か嫌な予感がした.


「タイガーのナンバーワンってなんデスか?」

「ナンバーワン?」

「ハイ」

「俺にとって,一番なものって意味か?」

「なんでもイイデスよ?フェイバリットなものなら!」

「一番か…」


とても,回答範囲が広いので,なかなか思い付くものが少ない.

少し考えていたら,シェリアはあっさり引き下がって明日でいいと言った.

一応,猶予をくれたんだろう.


「よる,かんがえてみて,おしえてクダサイネ」


読めないメモを片手に,今度は凰壮を追いかけていった.

次はアイツが質問攻めにされるんだろう.

竜持はもう聞かれた後だろうか?

二人にも何て答えたか聞いてみよう.







「あぁ,質問ですか.されましたよ?」

「好きなもんとかすっげー聞かれた」


やっぱり二人も同じ質問をされたようだった.


「お前らもか.いや,突然にしては凝った内容だったから気になって」

「あれ,たぶんシェリアさんだけじゃないですよ.お父さんも一枚噛んでる気がしますね」

「父さんがか?」

「お母さんがそういう入れ知恵するとは思えませんから.それに,データ収拾はお父さんがよくしています」

「…まぁ,別に気にしなくてもいいだろ?父さんが犯人でもさ」

「それもそうですね,身内ですし…知られて困ることも聞かれてませんから」


竜持の推測は,たぶん合ってる.

よく考えてみれば,父さん以外に有り得なかった.

目的こそわからないけど,それほど気に留めることでもないしな.

シェリアにとっても,俺達のことを知りたいと思ったのならそれはそれでいいと思う.


「あ,でも最後の質問はちょっと困ったな」

「ナンバーワンは何かってやつですか?」

「それそれ,何て答えたんだ?」

「僕はシェリアさんと一緒に遊ぶことと答えましたね」

「模範的解答だな」

「そういう凰壮くんは何て言ったんですか?」

「俺は,お菓子作りって言っといた.事実,マカロン頑張って研究してんだし」

「まぁ,当り障りのない解答ですね」

「いいだろ,別に.んで,虎太は?」


そうか,そういう答えで良かったのかと耳を傾けていた.

なのに話を振られたもんだから,言葉が出てこない.



「どうした?」

「すぐに思いつかなかったから,黙ってた.そしたら明日でいいって」

「なんだよ,答えてなかったのか」

「本当に思いつかなくて,焦ったんだ」

「まぁ…何のナンバーワンかを言われなかったんですから,誰だって一瞬迷いますよ」


それでもお前らちゃんと答えてたじゃん….

心の中で呟いたが,声には出さずに仕舞っておく.

ここで声にしてしまえば部が悪い,二対一になってしまう.


「とりあえず,何かいい答えを見つけてさっさと答えればいいんですよ」

「それでも思いつかなきゃサッカーとかでいいんじゃね」

「あはは,虎太くんらしいって感じがしますよ」

「サッカー馬鹿だしな」

「…言ってろ」


ふいっと背を向けて,そのまま眠りに着く.

とは言っても,まぶたを閉じたまま思考を巡らせる.






「Good morrning!」

「おはようございます…」

「おはよ」

「おはよう,シェリア」

「タイガー!こたえ,おしえてください!」

「うおっ」


起きて,リビングに向かえばシェリアが既に待ちうけていた.

その手にはあの読めないメモを抱えて.


「きのうの,しつもんのこたえデス」

「あれか…」


ちらっと二人を見てみれば,こっちを見てニヤニヤ.

なんとなく聞かれるのが恥ずかしくなって,シェリアにだけ聞えるように耳元で呟く.


「俺の一番は…………」

「………So…Wonderful!タイガー…かっこいいー!」

「内緒だぞ」

「やくそくシマス!アンサーありがとデシタ!」


メモに書き殴って,シェリアは階段を駆け上がっていった.

部屋に戻って,一体何するつもりなんだ.

いろいろ考えたが,朝ご飯を急かされたので,そこで中断.

行ってきますと家を出た頃には,小さな疑問はもう忘れていた.






―俺の一番は,家族が笑ってられること.シェリアも竜持も凰壮も笑顔だったらそれでいい―






「パパ!かだいクリアデスか?」

「ほぅ…これは見事なレポートですねぇ」


その昼下がり,幼い娘が父に渡した3枚の画用紙には,大好きな兄のことがびっしり.

目を細めながらそれを読み,父は微笑んだ.

クレヨンで書かれてあるそれは,父が娘に出した課題.


「どうでしたか,課題は難しかったかな?」

「Don't worry!とっても,たのしかったデス!」

「それなら出して良かった.それに,よくまとめられましたね」

「おにいちゃんたちのコト,いっぱい,しるコトできマシタ」

「虎太も竜持も凰壮も,私には話せなくてもシェリアちゃんには素直に話せるようですから…こんな風に本音が聞けると私も嬉しいんです」

「タイガーが,みんながスマイルならいいっていったデス.ワタシも,いっしょ!」

「えぇ,皆笑顔が一番ですね」


父は,娘の頭を撫でて,その髪の毛に指を滑らせた.

気持ち良さそうにふにゃっと微笑む娘.

あっという間に丸くなって意識を飛ばし,父の横で眠ってしまった.


「でもきっと,あの3人を笑顔にした一番の理由は貴女ですよ,シェリアちゃん」


眠る娘を見守る,優しい眼差しがそこにあった.



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