おうちにようじょがやってきた15


「もうすぐ夏休みだな」

「そうですねぇ」

「どーせサッカーの練習ばっかで,ほとんど予定埋まってるだろ」

「練習があったとしても,午前か午後だけでしょう」


もうすぐ夏休みがやってきます.

僕達小学生としての最後夏休みです.






「なぁ,夏休みはさ,皆で一緒に遊ぼうよ!」

「遊ぶって,何して遊ぶん?まさかサッカーとか言わんといてや!」

「違うよーエリカちゃん!」


今日は,サッカーの練習が早く終わって,コーチのおごりでお昼を食べに行くことになりました.

声の大きい翔君には,若干煩わしさを感じましたが,話題は夏休みで持ちきりでした.


「三つ子は何する予定なん?やっぱ,バカンス?」

「発想がチープなんだよ,別に予定なんかまだ決めてねぇよ」

「なんやて!庶民なめんな!」

「はいはい,喧嘩はやめてください.せっかくの食事なんですから」


凰壮くんの言い方がちょっとまずかったのか,エリカさんと口論になってしまいました.

仲裁したけど,こういうのってやっぱり家庭それぞれに予定があるでしょうしね.

いちいち気にしてたらしょうがないことだと思います.


「エリカちゃんは何か予定はあるの?」

「うちは,やっぱ海行きたいねん.泳ぎたいわぁ」

「わ,私…今年の夏は海の近くにある別荘に行くよ…」

「えぇな!玲華ちゃん,めっちゃ羨ましい!」

「俺も海行きたいなー!」

「じゃあ,皆で行こうよ…!私,ママに聞いてみる」

「ホンマ!?せやったら,全員で行きたいな!」

「いやいや,俺達まだ行くって言ってない」

「そんな堅い事言わないで,とりあえずプランだけ立ててみようよ!」


こんなにがやがや騒ぐのも今年限りだと思うと,少し悲しくなりますね.

不覚にも,楽しんでる三つ子がいるわけですから.

…最も,ここにシェリアさんがいたらもっと楽しいんですけどね.





「ごちそうさまでした!」

「お腹一杯や〜」

「エリカちゃん,いっぱい食べたもんね」

「西園寺も負けてない」

「ひぁっ虎太くん!!」

「おいおい,虎太…あんま西園寺苛めるなよ」

「そういうつもりはないんだが」

「結果として傷つけるような事を言ってはいけません」

「…悪かった」

「ひぃぃ!いいの!ごめんなさい〜!」


この夏もこのメンバーでなら,どんな強敵でも乗りきれそうな気がします.

昼食を終えて,僕達は皆と別れて帰宅しました.







「あっちー」

「こんなに暑いとクーラーが恋しいですよね」

「…シェリアが,迎えてくれると思えば玄関まで全力で走れる」

「俺も」

「僕だって」


そう言って,僕達は自転車を止めた後に一斉に玄関に向かって走り出しました.

もはやゴールは同時です.

だってたった数メートルですから.


「「「ただいまー!!!」」」


勢い良く玄関を開ければ,そこには…誰もいませんでした.


「なんだ?」

「いないのか」

「お昼寝ですかね」


いつもなら迎えてくれるシェリアさんが,今日は出てきませんでした.

リビングに行っても,自室に行っても,家自体に誰の気配もありません.

不審に思って,いろいろ探したのですが,結局何処に行ったのか手がかりも分からずでした.


「…父さんか母さんと,どっか出てるのかもな」

「可能性アリだ」

「電話してみます?」

「いや,たまにはいいんじゃね」

「そうだな,ここ数日俺達がシェリア独占だったし」

「わかりました.じゃあせめて,帰宅したとメールだけしておきましょう」


シェリアさんが来てからというもの,僕達三人だけで家にいるというのは初めての気がしました.

ずっと,べったりくっついた状態でしたからね.

いや…半ば僕達が引っ付きまわっていたとも言えますが.




「今お前らが思ってること,当ててやるよ」

「なんですいきなり」

「…?」

「こうやって,3人だけで過ごすのって久々だな〜って思ってただろ」

「「!」」


凰壮くんの言ったことは実に的を得ていました.

恐らく虎太くんも,同じ事を考えていたんでしょうね.

驚いた表情,隠しきれてませんし.

最も,僕だって驚きましたが.


「…シェリアが来てから,俺達変わった気がする」

「だよなー!自分で言うのもなんだけど,なんか調子良いんだよな」

「事実だと思いますよ.ここ数ヶ月,僕達が真面目に学校に行って帰って,サッカーの練習もしてるだなんて,信じられます?」

「家で,シェリアが待ってると思えば…今までみたいに遊んでる時間が勿体ない」

「俺もそれだぜ,待ってくれる存在がいるっていいよな!」

「あと,虎太くんがすごく笑うようになりましたよね」

「あー!それめっちゃわかる!」

「そうか?」


無自覚だったんですか,と僕の質問に難しい顔をする虎太くん.

凰壮くんは勿論気付いてましたけど,最近の虎太くんは本当に優しそうな笑みを見せるんです.

言ったら照れて否定しそうですけどね.


「凰壮くんは,あんまり変わってないですね」

「だな」

「おいおい」

「しいて言えば,率先して身の回りの事に動くようになったことですかね」

「…掃除とか,料理とか,こまめになった」

「そりゃ部屋が汚かったらシェリアが嫌がるし,料理っていうか…菓子とかはシェリアが作ってくれっていうからだろ」

「結局として,全部シェリアさんの為じゃないですか」

「いいんだよ」


凰壮くんは,愛想はあるものの,横柄な態度が丸くなった気がします.

前は掃除や家事手伝いなんてほとんどしなかったくせに,最近は自分からするんです.

今までやらなかったことも問題ではありますが,それがこんなに改善されてるなんて不思議でたまりませんよね.






「でもよ,一番は竜持だろ」

「はい?」

「…インテリ臭が消えたよな」

「なんですか…インテリ臭って」

「前はすっげー嫌味ったらしくて,しかも言葉が刺刺しかったけど,最近は物腰柔らかになった」

「さりげなく人を陥れるような奴だったのに,すっかり改心していい兄貴になっちゃってさ」

「凰壮もやっぱりそう思ってたのか」

「いやぁ,だってどうみたってあの竜持が,あんな小さい子の相手してるんなんて考えらんねーよ」

「一番えげつないもんな」

「…………」


この二人は,僕を褒めてるんですかね.

ものすごく皮肉を言われた気がしてなりませんよ.

というか,もう悪口ですよね.

僕は褒めたつもりで二人の変化を語ったつもりだったんですよ?

酷いじゃないですか?


「…なんやかんや言って,竜持が一番シェリアに肩入れしてるぜ」

「俺にロリコンなんて言っといて,自分が重度のシスコンだって認めないのはどうかと思う」

「お前のロリコンはともかく,シスコンに限っては3人とも否定できないだろ」

「いや,ロリコンも訂正しろよ」

「いやいや,それはできない.竜持も,何か言ってやれよ」

「待てよ,俺はロリコンじゃないって言ってるだろ!シスコンは認めるけどさ」






「……お二人とも,散々言ってくれましたが,そろそろ僕のターンでいいんですか?」

「えっ」

「あっ」

「ふふ,二人が僕の事を似非インテリ,人を陥れて喜び,一番えげつない性格で,重度のシスコンだと思っていたなんて知りませんでしたよ」

「「…」」

「なるほどなるほど,よーく分かりました」

「えっと…その」

「いや…あの」

「未だに無表情で怖がられ,遊びに誘ってもらえない虎太くんも,事故と言えど唇を奪い,シェリアさんに一番格下だと思われているな凰壮くんがそんなことを考えていただなんて…いやぁ,本音が聞けて何よりです」

「「…」」


一言って十言い返すのが僕ですよ,口で勝とうなんて思わないでほしいですね.

第一,これくらいじゃまだ十も言ってないんですから,黙らないで下さいよ.

僕だって人間なんですから怒るときは怒ります.

勿論,二人だって例外じゃないんですよ.


「さて,まだ今日は時間も許すことですし,じっくり話しましょうか.僕には負けるこのシスコン共」

「「ぎゃああああごめんなさいいい!」」






―幼女の居ぬ間に,鬼降臨―






「タダイマー!あれ,ドラゴン?」

「おかえりなさい,シェリアさん.どこに行ってたんですか?」

「パパとね,いっしょでおさんぽ!ワタシ,…がんばって,おそとであそべマシタ」

「それは良かったですね,よく頑張りました」

「バードと,タイガーは?」

「さぁ…気分が良くないようでしたから,部屋で寝てるんじゃないですかね.夕飯になればまた元に戻りますよ」

「ワカリマシタ,じゃあディナーまでは,ドラゴン,いっしょにあそぼデス!」

「えぇ,喜んでお付き合いしましょう」


兄弟にトラウマの種を植えつけた鬼は,何も知らない幼女と戯れる.



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