おうちにようじょがやってきた14


シェリアがソワソワしていたので,俺もなんだかソワソワしていた.

そしたら,竜持が鬱陶しいと言ったので辞めた.

ちょっと口論っぽくなって,それを眺めていたシェリアが言ったのだ.



「タイガーとドラゴンは,どっちがストロンガーなのデスか?」


お互いに振り返って,同じ事を言う.


「僕に決まってるでしょう?」

「俺の方が強いに決まってるだろ」


こうして,俺と竜持のバトルが始まった.

勿論,理屈で勝てる相手じゃない.

思いっきり不利だ.


「いいですか,シェリアさん.三兄弟の中で僕が一番強いんです」

「違うぞ,一番強いのは俺で,その次に竜持だ」

「…うーん」

「だって,俺は長男で,エースストライカーだぞ」

「それを言うなら,フォワードで,成績優秀な僕でもいいでしょう」

「じゃあ,バードは?」

「…まぁ,僕よりは下ですね」

「俺の方が上だな」

「OK!」


こうしてシェリアの中に凰壮の位置付けが刷り込まれただろう.

不在を狙った卑怯な戦法だが,ここは兄の威厳を見せるべきだと判断した.


「サッカーは俺の方が得意だ」

「勉強は僕の方ができます」

「背も俺の方が高い」

「僕は機械に強いですよ」

「それは機械がいいだけで,使ってるお前は別にすごくない」

「それをいうなら,ちゃんとフォワードになってからエースと名乗ってほしいものですね」


バチバチと火花が散る攻防だ.

いつもながらに,妹の前でいい所を見せたい俺達は言い合いを続ける.


「この間,理科のテストで俺の方が点が良かった」

「あとは全部僕が上でしたね」

「体育は俺の方が成績がいい」

「実技はそうですけど,筆記は僕の方がいい.それに,今期の体力テストでは僕の方が点が上でした」


ああ言えばこう言うことが続いて,キリがない.

いつの間にか,痺れを切らしたシェリアは,どこかに行ってしまった.

俺と竜持も,本人がいなくなったのでその場はにらみ合って別れた.






「バード!」

「どうした,何かあったのか?」

「タイガーとドラゴンがファイトしてマス」

「喧嘩…か?」

「Yes!」

「なんで喧嘩してるのかわかるか?」

「…どっちがつよいか,きいたデス」

「はぁ…なるほど」


シェリアと凰壮が仲良く部屋に入ってきた.

手なんか繋いで…別に羨ましくないぞ.


「おかえりなさい,凰壮くん」

「ただいま,…なんだ停戦したのか?」

「停戦って…別に喧嘩してたわけじゃ」

「ふーん」

「バード,おやつ!」

「わかったわかった.まぁとりあえず,揉めてんならさっさと和解しとけよ」


凰壮のくせに生意気なこと言うな…,とは言えなかった.


「さて,虎太くん.決着をつけましょう」

「…だから,俺の方が強いって」

「根拠がありませんよ」

「お前もだろ」

「「…」」


言葉での解決は無理そうだ,となればあとは取っ組み合いだが….

正直これには気が引ける.

恐らく向こうもそうだと思う.


「では,いっそシェリアさんに決めてもらいましょうか」

「ん,それならいい.文句ナシだ」

「ただ,どちらが強いかと聞いてもたぶんわからないと言われるので,別の質問にしないと勝敗が決まりませんよ」

「なら,単純にどっちが好きかでいいだろ」

「わかりました,そうしましょう」


きっとにらみ合って,二人が向かったリビングに向かう.

シェリアはスプーンを持って,おやつ待ちをしていた.

凰壮が準備しているんだろう.



「シェリアさん,質問です」

「What?」

「俺達の中で,一番好きなのは誰だ?」

「いちばん…すき?」

「えぇ,率直な意見を聞かせてほしいんです.一番,好きなお兄さんは誰ですか?」



シェリアは,少し考えるような素振りを見せたまま動かない.

しばらく沈黙したところで,プリンを抱えた凰壮が現れた.

こいつ,よくもまぁ飽きずにお菓子作りに励んでるようだ.



「シェリア,ミルクプリンだぞ.ちゃんと固まってたから,食べてみろ」

「わぁぁ!おいしそーデス!」

「ちょっと,凰壮くん!邪魔しないでくださいよ!」

「今大事なところなんだよ」

「は?」

「シェリア,結局誰が一番なんだ?」

「みんなスキデス」

「そうじゃなくて…だな」


なんとも模範的な解答をする辺り,頭の良さが覗えた.

きっとシェリアは,世渡りの上手い子になるだろう.

…まぁ親馬鹿ならぬ,兄馬鹿だとわかってはいる.




「パパにするならタイガー!」

「パパ?!」

「ハズバンドはドラゴン!」

「夫ですか…」

「デモ,バードのスイーツがいちばんデス!バードがいちばんブラザー!」

「お,俺?」

「「…」」

「睨むなよ!ていうか,俺の知らないところで話が進みすぎててついていけない」

「そのまま立ち尽くせばいいのに」

「餌付けして,勝てたくせに生意気だ」

「はぁぁあ!?」


なんてことだ…まさかの,まさかの凰壮か.

俺も竜持も,悔しいを通り越して殺意を放っていた.

いつも美味しいところを持って行く弟に嫉妬しまくった.


「いや,俺関係ないから…」

「虎太くん,まず倒すべきがわかりましたね」

「あぁ,それまでは一時休戦だ」

「…覚悟しといてくださいね,凰壮くん?」

「竜持と協力して,お前を兄の座から引き摺り下ろす」

「おいおいおい!」

「みんななかよし,イイコトデスねー」


竜持と手を組んで,凰壮から兄の座奪還を狙う.

青白い凰壮が,呆れたように遠くを見つめていた.

そして,何も知らないシェリアだけが無邪気な笑顔でおやつを頬張る.






―兄ポジ奪還,ミッション開始―





「おーい,シェリア!今日ちょっとここで寝てもいいか」

「いいデスよ.こわいゆめみたデスか?」

「いや…まぁ,そんなところだ」

「タイガーとドラゴンに,イッテキマスした?」

「したした!すっげーしたから平気だ」

「それならOKデス.いっしょにねんね!」


そして翌朝,逃げた弟に追撃の如く奇襲をかけるのは,また別の話.



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -