おうちにようじょがやってきた13


「そろそろか」

「バード,じょうず!」

「当たり前だろ,こんなの朝飯前だって」


今日はシェリアにホットケーキを焼いた.

綺麗に狐色になったところでひっくり返せば,シェリアの歓声が上がった.


「もう3じデス.ブレックファーストももうたべたデスよ?」

「朝飯前っていうのはそういう意味じゃなくてだな」

「あー…イイデス.わからないノデ,おはなしいいデス」

「お前なぁ,虎太みたいなこと言うなよ」

「タイガー?」

「平たく言えば,めんどくさがり…みたいな」

「メンド…クサ?」

「嫌いだからやらないとか,苦手だからしないとか,面倒だからってやり過ごそうとするような駄目人間になったら父さんとか悲しむぞ」

「oh…じゃあ,タイガーにもおしえてアゲるデス」

「それはやめて」


こんなことチクられたら俺絶対締められる.

焼けたホットケーキを皿に乗せ,バターと蜂蜜を添えてやる.

見栄えも味も,俺の手作りだから,最高だと思うぜ?


「じゃあ,これ持ってって食べな」

「ハーイ」


父さんに言われて,極力自分で出来る事は自分でさせるように言われていた.

そりゃ最もなことだと思うぜ.

…ただ,それがいつもできれば俺は,最高の兄になれただろうに.

いや,今でも最高の兄ではあるよな.




「んー!ベリーベリーヤミー!」

「そうか,美味いか」

「トッテモ!バード,パティシエになれるデス」

「大袈裟だな.美味いなら良かったよ」

「バードは,センスがあるデスねー」


褒められて悪い気はしない.

美味そうに食う姿に,思わず笑みがこぼれてしまう.

口の周りが蜂蜜だらけだが,今は目を瞑ろう.


「シェリアはどんな菓子が好きなんだ?」

「クッキー!ケーキ!プリン!マカロン!」

「マカロンってなんだ」

「バードはマカロンしらないデスか?」

「うん」

「oh…じぶんでしらべるとイイデス」

「なんだよ教えてくれないのかよ」

「みため,とってもキュート!」

「ふーん」


マカロンってなんだ,聞いた事ないんだが.

しかも自分で調べろなんて竜持みたいなこと言うし,シェリアも結構薄情だな.




「バード,こんどマカロンつくって!」

「簡単にできるもんなのか?」

「しらないデス.でもおいしいデス」

「…今度作り方調べて,できそうだったらやってやる」

「わーい!!とっても,たのしみデス!」

「まぁ…別に作るのは嫌いじゃないし,気が向いたら色々作ってみるか」

「シュークリーム!」

「あれってシューが上手に膨らまないから難しいんだろ」

「モナカ!」

「和菓子は流石に無理だろ…いや,どうなんだろ.それも調べとく」

「ロールケーキ!」

「それなら案外出来そうな気もする」

「マンジュー!」

「あれって家で作れるもんなのか?いや,案外いけるのかもな」


よくもまぁ,それだけ次々と菓子が出てくるな.

どれも既製品はよく買うが,作ったことはない.

そりゃまぁ,俺男だし普段あんま菓子作りしないからしょうがないよな.




「バードのホットケーキたべると,ベリーハッピーなりマス」

「そんだけ気に入ったんなら,また作ってやるから」

「ないしょだケド,ママよりおいしいデスよ」



ぽそっと呟いた,シェリアは既に半分以上を平らげている.

それにしても女って菓子とか甘いもんが好きだよなぁ….

俺去年バレンタインでチョコ貰ったけど,そんなに食えなかった気がする.

そもそも,あんまり菓子食わないしな.

シェリアが来てから,ちょいちょい摘むようになった程度だ.



「ごちそさまデス!」

「口の周り蜂蜜付いてる」

「ん〜」


俺がティッシュで拭いてやる間は,じっとしてくれている.

そして,皿を持って自分で片付ければ,シェリアは褒めろと言わんばかりにこっちを見てきた.

あーもう可愛すぎて褒めないわけないだろ.


「ミッションコンプリート!」

「うんうん,えらかったぞ」

「おやつのあとは,ねんねデスー」

「食ってすぐ寝るなよ」

「ハーイ!おへやから,タオルケットとってキマス」


子供って寝るとか食うとかわかりやすいサイクルだよな.

いやまぁ,育ち盛りには大切な事だと思うぜ.

…小6の俺が言うのもおかしいけど.



「凰壮,シェリアの靴下知らないか?」

「洗濯干したときにはあったと思うけど」

「そうか,なら取り込んだときに紛れたのかもな」

「どうしたんだ?」

「俺のに1個だけ混じってたから,もう1個はどこにあるんだろうと思って」

「まぁ,また探しとく」

「おう」



虎太がぬっと現れて,シェリアの靴下を片方抱えていた.

今日の洗濯当番は,俺だ.

さっき取り込んだときは,確かにあったと思ったんだけど.



「何か,作ってたのか?」

「おやつだよ.ホットケーキ焼いた」

「ふーん,俺のは」

「あるかよ」

「なんでいっぱい作らないんだよ…ケチだな」

「自分で作れよ,作れるだろ」

「…そこまでして食べたくないし」

「……そーかよ.お前ホントめんどくさがりだな」

「また焼いたときにもらうからいい」


あながちシェリアに言ったことは事実のようだ.

昼下がり,今から少し眠ろうか.

シェリアの昼寝に付き合って.






―スパイスは俺の愛情と君のエゴ―





その晩.


「おー…これがマカロンか」

「すいません,凰壮くん.そろそろiPad返してくれませんか」

「悪い,今忙しいから無理だ」

「……一体なんだっていうんですか,さっきからお菓子ばっかり調べて」

「マカロンとかどうでもいいから,ホットケーキ焼けよ」

「虎太引っ張りすぎだろ!ていうか,邪魔すんなよ」

「…じゃあ,iPad貸出料ということで,僕達にも何か作ってください」

「竜持ナイス」

「はぁ?!」


…ものっすごい不本意だが,いろんな試作品をコイツらでしっかり試してから,シェリアにあげようと決めた夜だった.




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