おうちにようじょがやってきた08


凰壮のキス事件…もとい,一応誤解だったと丸く治めたあれ以来は,何事もなくまた日常を過ごしていた.

俺は,シェリアのことが気に入ってはいるが,恋愛感情を抱いたことはない.

竜持や凰壮はどうだか知らないがな.



「タイガー,おにわ…いくデス」

「どうした?」

「ダッテ…リビングのフラワーが,かれてマシタ…」

「俺が採って来た方がいいか?」

「ううん,いっしょ.ワタシもいく…」



シェリアは花瓶を抱えて,俺に差し出した.

生けられた花は枯れてしまって,茶色くなり始めている.

とりあえず,これは洗って綺麗にした方が良さそうだ.

枯れた花がボロボロと床に散っていけば,確実に掃除させられるだろう.



「おにわには,フラワーがありマスか?」

「たしか,あったと思う」



花瓶を洗って,枯れた花は新聞紙に来るんで捨てた.

しかし,俺は花なんて生けたことがないのでどうしていいのか正直わからない.

竜持に頼ろうとも,きっと知識としては知っているだろうが,実際にやったことはないだろう.



「…外に出ても平気か?」

「て,つないでてもイイ?」

「あぁ」



小さな手を握り返して,窓から庭に出る.

意外に,庭にはたくさんの花があった.

母さんが植えたのか,知らない名前の花ばっかりだ.



「タイガー」



名前を呼ばれて,繋がれた手に少し力が加わるのがわかった.

シェリアは,うちに来てから初めて外に出る.

前にシェリアの両親の話を聞いてから,俺達は無理に外に出そうとはしなかった.

そんなシェリアが自ら外に出ると言ったのには驚いたが,その顔色はあまり良くない.



「大丈夫か?」

「…あんまり,ダイジョブ,ナイ」

「戻るか?」

「ううん,フラワーが…まだデス」

「辛くなったら言うんだぞ」


ゆっくりと一歩一歩花壇に近づく.

震える手から,不安が拭えるように俺もしっかりと握り返す.


「これがイイデス」

「…ふーん,じゃあこれにするか」

「タイガーは,どのフラワーがスキ?」

「俺は…花はよくわからない」

「Oh…,もったいナイデス.こんなにキュートなのに」

「お前の方がかわいいと思うぞ」


不意をついて口から出た言葉に,自分が一番驚いた.

こんなの,二人に聞かれたらまた事件になりかねない.

一瞬ぽかんとしたシェリアが笑う.



「タイガーも,ジョークいうのデスね」

「…いや,今のは」



本気に受け止めていないのは幸いだった.

しかし,なんで俺…あんなこと….

いや,断じて俺はシェリアに邪な感情はないんだ.

ないったらないんだからな.



「タイガーは,フラワーよりもサッカーがスキ?」

「おう」

「ドラゴンも,いってマシタ.おなじこと,きいたデス」

「ふーん…」

「おにいちゃんたちは,みんなサッカースキ」

「そうだな,俺もあいつらもサッカーは好きだ」

「ワタシも,おにいちゃんたちサッカーしてるとこ,みたイな…」

「見に来ればいいだろ」

「ん,いつか!」

「いつでもいい.見たくなったら連れてってやるよ」



無理強いは出来ないが,シェリアの心が決まったときにはちゃんと外の世界を見せてやりたい.

…コイツの願いが叶うまでは,意地でもサッカーやめられねぇな.



「そろそろ,おうち,はいりマショウ」

「わかった」

「…ワタシ,がんばった?」

「そうだな,すごく頑張ったよ」

「Really?」

「ホントだぞ」



家に入るまで,シェリアは俺の手を放さなかった.

花は俺が抱えて,キッチンの流しに置く.



「で,これからどうすれば…」

「ワタシできるデス!」


身を乗り出したシェリアは流しの前に椅子を持ってきた.

倒れないように,俺が傍に立って,その様子を見守る.

慣れたような手付きで,シェリアは花の茎に付いた下の方の葉を取り始める.


「タイガー,おみずをいれてクダサイ」

「わかった」

「ハサミ…つかってもイイ?」

「あぁ,手を切らないように気を付けろよ」

「OK!」


パパッと茎を整えて,シェリアは花瓶に花を生けていく.

こうやってやるのか…初めて見た.

女ってやっぱ,こういうのが普通に出来るもんなのか?





シェリアはその後,疲れて眠ってしまった.

外に出た不安や緊張,それから疲れもあったんだろう.

シェリアを寝かしつけた頃,ちょうど竜持がリビングに降りてきた.


「へぇ,新しい花ですか.綺麗に生けましたね」

「シェリアが全部やったんだ.…手際良くて,ちょっと見直した」

「でも,よく花なんてありましたね?虎太くんが買いに行ったんですか?」

「いや,シェリアが自分から外に採りに行きたいって」

「自分からそう言ったんですか!」

「あぁ,少し緊張気味だったけどな」


竜持は,俺の話を聞いて驚いた様子だった.

シェリアの傍に腰を下ろして,髪を撫でる仕草はまるで母親にでもなったかのようだ.

…本人には決して言えないがな.


「それから,俺達のサッカーしてる姿もいつか見たいって言ってたぞ」

「シェリアさんが,そんなことを言ったんですね…」

「これってさ,やっぱ,少しずつシェリアの心境も変わって来てんじゃないかと思うんだ」

「そうですね,彼女はここに来てから少しずつ僕たちに心を開いてくれてるんじゃないでしょうか」

「だといいよな」

「ですね」


俺達はそんなことを言い合って笑った.

なんやかんやで,俺も甘やかしすぎかもしれない.

そう漏らせば,自分ほどじゃないと張り合ってきた竜持と気まずくなったのは言うまでもない.





―少女が踏み出した一歩は,俺達の一歩―




「(外に出たことは嬉しいですが,…少し妬けますよね)」

「竜持,顔が怖いんだが」

「僕にも思うことはたくさんあるんですよ,虎太くん」


やっぱり俺は竜持に勝てないかも.


「ただいま〜」

「あ,空気の読めない三男が帰ってきましたね」

「…いつも間が悪いな」

「お,二人とも一緒かよ…って,なにこの疎外感」




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