トラブルキャンセラー13


「ここでしたか,シェリア先輩.こんにちは」

「…お前もよくもまぁ飽きないな」

「しぶといでしょう?」

「んー…まぁその性根は嫌いじゃないけどね」



最近,竜持がアタシによく会いに来る.

一時は凰壮がべったりだったけど,何の心境の変化やら.

もうメールも暫くしてないっけ.

とは言っても用事はないんだけど.



「先輩,トラブルキャンセラーのこと教えてください」

「直球すぎ.てか,んなもん知らないっつーの」

「取り引きしましょうよ,先輩の知ってる情報と僕の知ってる情報トレードしましょう」

「えー…?んで,優秀な竜持クンは何を知ってるのかな」

「先に僕が喋ると,後ではぐらかされても困るんですよね」

「そーだな,だからって先に喋るほどアタシも馬鹿じゃないぜ」

「だから,ギリギリのヒントをお伝えするので…もし知りえない情報だったら先輩の情報で買ってください」



情報を情報でっても,アタシは知らなくてもいいんだけど.

でもまぁ,面白そうだから乗ってもいいか.

そんな安易な考えでやっていけんのかなとか思うけど,案外いけるよね.

つーか,アタシは絶対死なないし.



「いいよ,んで何?」

「先輩以外にゲームをしてるプレイヤー」

「ふーん…それは別に今知らなくてもいいかな」

「では,先輩を狙ってるプレイヤーがいるってことは?」

「プレイヤーごり押しじゃん.別にアタシは他人なんてどうでもいいんだけどねぇ」

「そうですか?敵が分かってれば少しは警戒もしやすいかと」

「死なない自信あるから,誰が敵でも困んないの.まさかそれだけ?」

「…なら,プレイヤーになる方法,とかはもう知ってますか?」



プレイヤーになる方法,それは確かに知ってるけれども.

それはあくまで,表側の列記としたルートを辿る方法のみ.



「んー…私の知ってる方法と,竜持の知ってる方法が違えば興味深い」

「てことは,シェリア先輩は1つしか方法を知らないということですね?」

「ってことは,まだ他に方法があるわけね」

「少なくとも,僕は2つ知っています.どちらかを先輩が知っていても,もう1つは知らないのでは?」

「…そうなるかな.じゃあ,それを知るために,竜持は何が知りたいわけ?」

「ゲームの元になってるプログラムが知りたいです」

「そりゃ等価じゃねーだろ」

「ってことは知ってるんですね.なるほど,先輩は意外にノリやすいタイプなんですねぇ」

「あ,きたねー,ハメやがったなお前」



つい,口が滑ったけれども.

プログラムは,まだアタシも解読中.

だから,知ってることは少ないし,第一,今手に原本を持ってるわけじゃない.



「でも,先に喋れよ.それに見合っただけはこっちも喋るし」

「わかりました.プレイヤーになる方法は,まず表と呼ばれる他人からの紹介メール.これです」

「それは知ってる.で,表があるなら裏もあるって?」

「えぇ.裏と呼ばれる方法,これは他人から携帯を奪うことです」

「…名義的な意味で?それとも,物理的に?」

「後者ですよ」

「ふーん…実例あんの?」

「ありますよ.その手で自らプレイヤーになった人が先輩を狙ってるんです」

「…それ,たぶんそんだけじゃねーだろ」

「え?」



なるほど,物理的に奪う,ね.

それは興味深いけど,そんなことしてまでこんなゲームやりたいやついんの?

…まぁ,いるから世界は広いんだって分かるよなぁ.



「仮説1,もし物理的に携帯の持ち主が変わっただけだとすると,ほれ竜持」

「えっ!?えっ!?」

「落とすなよ」



私は,自分の携帯を竜持に投げ渡した.

綺麗な放物線を描いた携帯が,竜持の手の平に落っこちる.



「これでアンタがプレイヤーってわけ?」

「そ,それは…」

「単純に奪う奪われるだけことならあたしはこれで晴れてゲーム卒業ってことか?違うだろ」

「確かに…」

「仮説2,プレイヤーの携帯電話を手に入れたとしてだ,攻撃をしかけた相手はどうやってそれを識別する?」

「…持ち主,ですか」

「そうだな,その持ち主と持ってる携帯が一致してるかなんてわからない.少なからず,面識のあるもの同士じゃないと実行できない」

「な,なるほど」

「以上のことから,その情報は半分ホントだけど半分は嘘ってとこだな」



竜持は,おずおずと携帯を返してくれた.

そのまま,返して貰った携帯を無理矢理ポケットに突っ込む.



「…凄いですね,たったそれだけでそこまで推理するなんて」

「凄くねーよ,命掛けてんだからお前らとは気の入れようが違うんだよ」

「そ,そうですね…失言でした」

「んで,あたしはプログラムについて話せばいいんだっけ」

「教えてくれるんですか?」

「そりゃ,教えてもらったことに対してはお礼くらいするよ.ホント信用ねーな」

「そういうわけじゃないんです!ただ,ガセネタを教えておいて情報交換もなにもないと思って」

「律儀だねぇ,ってもプログラムについては私は原本を持ってるわけじゃない」

「というと?」

「作った」

「えっ」

「人畜無害の劣化したコピー版みたいなもんかな.まぁ言って見れば全く別物っちゃ別物.ただ,画面情の動作はほぼゲームと同じように動くぜ」

「それを…自分で作ったん,ですか」

「他に作ってくれるやついねーし?」



唖然とする竜持に,乾いた笑いをぶつければもっと間抜けな顔をされてしまう.

いや,優等生な竜持が珍しい表情してれば可愛いなーって思って.



「これごとやるよ」

「あっ,ちょっと!?」

「言っとくけど,これ以上は面倒見切れないぜ.忙しいんだよ」

「あの,シェリア先輩!」

「…そろそろ5時か,アタシは帰るけど,竜持は?」

「か,帰ります」

「あそ,じゃあな」

「はい,あの,さよなら!」



アタシの後を追ってくるような足音は聞えなかった.

たぶん,アタシが完全に帰るのを待ったのか,何か考え事をして間が空いたとかそんなんだと思う.

…でも,アタシは竜持たちの内情を全く知らないからこんな酷い仕打ちを竜持にしちゃったんだろうな.




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