トラブルキャンセラー12


「お前の彼女は,先輩を殺すつもりなんだな」



仕切りなおしたところで,虎太はまとめた.

情けない事に,俺が報告した事実は俺が負けを認めてるようなもの.



「でも,殺したいっていう割りには…なまっちょろい気もするんだ」

「といいますと?」

「俺に先輩を殺すって宣言したのに,俺から先輩のアドレスを盗もうとするわけでもない.無理に俺をプレイヤーにしようとするわけでもない.よくわかんねぇ」

「彼女は,凰壮くんを支配したいんじゃないですか?」

「なんだそりゃ」

「支配って,俺を意のままにしたいってこと?」



支配,そう言われればそうかもしれない.

過剰な嫉妬なのか,過激な愛情なのかは別として.

俺に近づくヤツを殺したい,って言ったよな.



「つまり,凰壮くんが先輩に近づくと危険ってことですよね」

「でも,まずは凰壮と彼女が切れることが最優先じゃないか?」

「切れないでしょう.逆に,別れるなんて口にしたら先輩を手に掛けてくれって言ったも同然ですよ」

「…なんかそれって,カップルじゃないよな」

「そうだな」

「でも,カップルでいないと先輩が危険な目にあうんですよね」



堂々巡りになる展開が目に見える.

もとはと言えば,俺の火遊びが原因だろうな.



「少なくとも,暫く凰壮は彼女サイドだな」

「えっ…」

「当たり前でしょう.先輩に繋ぎをとるのは僕が引き受けます」

「でも…」

「でももクソもあるか.お前は今は彼女に対して全力で尽くせ.それで,来るべきときに真実を話して彼女に赦してもらえ」



最もな意見には頷くより他ない.

ただ,それが通じる相手なのか.

今のシェリアは,俺が知ってるようなふんわりしたあのシェリアじゃない.

手入れされていた可愛いピンクローズだった彼女も,今や蔦が棘だらけのレッド…いやブラックローズ.



「凰壮くんの彼女のことですけど,先輩には伝えてもいいんですか?」

「できれば,先輩には自分で言いたい」

「…はぁ,わかりましたよ.余計な事は伏せておきましょう」

「ありがとな」

「先輩はたぶん先輩で機械に強いですから,何か掴んでるでしょうし…ぼちぼち様子を見てみますね」

「その先輩を,こっちの味方にするわけにはいかないのか?」

「…無理,じゃね?」

「たぶん無理でしょうね」

「なんでだ」

「そういうのが好きな人じゃないんですよ.だから,変に刺激すると今以上に取っ付き難くなりそうです」

「なんか,竜持は詳しいな.その先輩のこと」

「…お,俺の方が!」

「凰壮,嫉妬してる場合じゃないだろ.第一,お前が嫉妬できる立場か」

「そ,そうだけど…あーもう!くっそ!!!」



だって,俺のが先輩好きだし.

確かに過去の人間関係とか付き合いとかは敵わないにしてもだな.

俺だって,この何年か…ずっと思い続けて,影武者まで作ったんだぞ.

それが間違った方向だとしてもだ,つまりはそれくらい好き.



「竜持」

「なんです?」

「先輩の事,盗ったりしないよな?」

「いくら馬鹿でも,考えればそのくらいわかると思ってましたよ」

「ど,どういう意味だそれ!」



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