トラブルキャンセラー11
「竜持,凰壮?」
いつになく,気まずい部屋の中.
今,凰壮に起こっている悲劇はかつての俺が受けたものと同じだろう.
だけど,俺にはわからないことだらけだ.
「陰気くさいから,言いたい事ははっきり言えよ」
「…別に,いい」
「何もないですよ」
「俺は確かに関わりたくはないって言ったけど,もうそういう問題じゃないんだろ?だったら,俺にも手伝わせてくれ」
「手伝うもなにも,何もできることはないんですけどね」
「そうだぜ?俺らじゃなんもできねーよ」
そうだな,ってそれで諦めるのか?
そんな根性で,最後まで生き抜けるとでも?
最も,コイツらはゲーム参加してるわけじゃねーけど.
「情報交換会をするぞ」
「「はい?」」
「お前らのその様子だと,何か知ってるから塞ぎこんでんだろ.全部吐け」
「吐けったって…なぁ」
「僕はゲームについて調べてただけなので…別に塞ぎこんではないんですけど」
「うるせーな,だったらそれを報告しろよ」
「いいですけど,あ,でも…」
「気なんか遣わなくていいんじゃね.竜持の知ってること俺も知りたいしな」
「凰壮くん…」
竜持が気にしてることっていうと,やっぱり凰壮の彼女のことなんだろうか.
凰壮からしてみれば,先輩に彼女の両方だもんな.
そりゃ,失うものが近すぎるし大きすぎる.
「僕の知っていることは,具体的な話ではないんですが…」
竜持は,先輩から直に聞いたということを話しだした.
ついでに巻き込まれで危険な目にもあって,鬼ごっこをしたことも.
「俺も,シェリアから…あ,俺の彼女な.シェリアって」
「…っ凰壮くん…それって」
「竜持の言いたい事はわかるけど,その説明は後でな」
なんだ,俺の知らない共通の何かがあるってか?
凰壮の口から彼女の名前が出た途端に,竜持は声をあげた.
「シェリアは,ゲームのことをちゃんと理解してて参加してた」
「つまり,殺し合いを楽しんでるってか」
「そういうことだな」
「おい,なんで止めないんだよ!!」
「虎太くん,落ち着いてください!」
「っ,俺だって止めたい.でも,怖かった.体が動かなかったんだよ」
「自分の彼女が悪いことしてるのに,止めないって…!?お前それでも…!」
かっとなる自分に,竜持は無理矢理押さえつけてくる.
凰壮がバツの悪そうに,続きをつなげる.
「お前らには理解できねーかもしれないけど,俺だっていろいろあるんだよ」
「理解できないね!お前のしてることは最低なことだ!」
「じゃあ…!じゃあ虎太は,なんでもかんでも選べるってのかよ!同じくらい好きなモンってねーのかよ!」
「ねえよ!順位なんて簡単に付けられるだろうが!天秤に掛けて釣り合ったなら,あとはお前の気持ちを乗せるだけだろ!そうすりゃ絶対どっちかに傾くに決まってるじゃねーか!」
長い息を吐きながら,俺は興奮気味に叫んだ.
荒いでしまったものの,俺は自分の彼女より大切なもんはない.
今は何よりも,俺は俺の彼女が大切だ.
弟よりも,な.
「…大切なのは,本当に2人なんでしょうか」
「「は?」」
「凰壮くんに改めて聞きます.貴方の彼女と,先輩の名前が同じということはただの偶然ですか?」
「それはホントなのか,凰壮?」
「あぁ」
なるほど,それで竜持がビックリしたのか.
「偶然じゃない」
「…話が見えてこないな.同じのが偶然じゃないなら,なんだよ」
「俺,先輩が好き」
凰壮は,そこにだけ揺ぎ無い自信を込めて言った.
嘘じゃないにしても,その真実が何を示すのか.
カッとなるのを抑えて,俺は長い溜息を零す.
竜持もまた,目を伏せて溜息.
「最低なのは知ってるさ」
「…お前の彼女は,知ってるのか?」
「先輩は,知ってるんですか?」
「どっちも知らないと思う」
「そうか…じゃあ,お前は先輩の代わりに今の彼女と付き合ってるんだな」
「あぁ」
「虎太くん?」
すっと立ち上がった俺に,竜持は目を丸くする.
ぐっと手に力を込めて,俺は凰壮の鳩尾に一発くれてやった.
呻く凰壮が,自分を嘲笑うように震えながら俺を見る.
前にも殴りあうような喧嘩をしたことはあった.
だが,今度はまるで殴られても仕方ないと認めてるような様子に,俺の怒りのボルテージは更に高まって行く.
このままだと,抑えきれる自信がないので黙って部屋を出た.
「大丈夫ですか?」
「あぁ,わるい.…ははっ,やっぱ俺ってあんま賢くねーな」
「…凰壮くん,違いますよ.虎太くんは凰壮くんに腹を立ててるわけじゃないと思います」
「なんだよ」
「とにかく今の僕達には時間がない,焦ってるんですよ.きっと,こんなゲームの最中じゃなければこんなもんじゃ済まなかったでしょう」
「…じゃあ,俺の為ってか?」
「自惚れてもらっても困りますよ.今は凰壮くんの修羅場を解決するよりも先にすることがある.虎太くんがそれを一番分かってるはずですからね.おそらく頭を冷やしに行ったんでしょう」
「マジでかっこわりィな,俺」
「本当にその通りですよ.…虎太くんが戻ってきたら,君がするべきことは謝罪でも仕返しでもない.目の前の大切な人を助ける術を考えることです」
「竜持…」
「しっかりしてください.凰壮くんが動かない限り,両方失うことになりますよ」