トラブルキャンセラー08


驚愕の事実が,目の前にあった.

昨日,シェリアから告げられた”ゲーム”の存在.

俺は,その言葉に思考回路が全てショートし,受け答えを放棄してしまった.

傘を投げ出して,1人で走って帰ってしまったのだ.

当然ずぶ濡れになって,虎太と竜持に散々小言を貰った.



「全く,何してるんですかね.風邪引くなんて目に見えてたでしょう」

「どいつもこいつもトラブルキャンセラーって…」

「は?」

「俺の彼女,プレイヤーって言ってた.自分で,そう言ったんだ」

「どういうことです?」



俺の看病を嫌々してくれていた竜持が,濡れタオルを頭に乗っけてくれる.

だが,トラブルキャンセラーと聞いた瞬間にその動きを止めた.

座って雑誌を読んでいた虎太までもが,こちらを凝視.



「とにかく,意味わかんなくて,俺動揺しちゃってさ」

「まさかそれで走って帰ってきたんですか」

「彼女はどうしたんだ」

「どうもこうも,置いてけぼり.もしかしたら,メールでも来てるかもな」

「携帯見ろよ」

「昨日制服に入れて,そのまんまだ」

「しょうがないですねぇ」



重い腰を上げた竜持が,俺の制服から携帯を取って寄越す.

チカチカ点滅したライトの色から,着信とメールが両方来ていることが分かった.

どちらもシェリアから.



「なんて?」

「何の当たり障りないメールだ」

「トラブルキャンセラーについては何も?」

「書かれてない」



メールは,本当に俺を心配したであろう内容.

大丈夫?だの,どうしたの?だの.



「でも,確かにアイツは言ったんだ.それは,間違いない」

「なら,直接聞けばいいだろ」

「どういう会話の流れでトラブルキャンセラーに繋がったのかはわかりませんが,それは熱が下がってからです」

「それもそうだな」

「今は,彼女に返事をしておいてあげてはどうですか?当たり障りのないように,ね」

「…わーったよ」



確かに,あれはメールで話す内容じゃない.

それに,シェリアが先輩に抱いていた感情が確かなら…その本意も聞いてみたいから.

どういう意味で,全てを俺に告げたんだろうか.




「凰壮は?」

「眠ってしまいました」

「そうか」

「はぁ…それにしても,なんだか雲行きが怪しいですよねぇ」

「凰壮の彼女と,先輩…プレイヤーと呼ばれる存在か」

「どう考えても,今回も嫌な予感ばっかりするんですよ」

「凰壮もいよいよ逃げ場がないからな」

「やっぱり,凰壮くんよりも先に僕達が動くべきなのではないかと思うんですが」

「…でもなぁ」

「幸いにも,僕とシェリア先輩には面識がありますから.一度,真面目に話しをさせて貰いたいんですよね」

「大丈夫なのか?」

「どういう意味でです?」

「その先輩ってのは,不良なんだろ?」

「それは心配に及ばないと思います.シェリア先輩は,話し合いで解決できることをわざわざ暴力に訴えるような人じゃないですから」

「凰壮にバレたら…どうするんだよ」

「それはしょうがないですよ.また僕が殴られればいいことです」

「とんだマゾだな」

「ふふ,虎太くん?今の言葉,絶対に忘れないように」

「撤回する!!お前は真性のサドだ!」



俺の知らないところで,竜持と虎太は動き出した.

寝てる場合じゃないのに,今はただただ何も知らないまま.

また勝手に事が進んで,俺は追いかけることになるんだろうか.







「シェリア先輩!」

「きたか…って…おー…,お?なんだ,お前かよ」

「酷いですねぇ」

「一瞬凰壮かと思ったよ」

「…まぁ,声とか髪型で判別してくださいよ」

「はいはい,それで何用かい?アタシ忙しいんだけど…」

「少し話をするお時間が欲しいんですが」

「なら後でもいいか?ちょっと立て込んでんの」

「トラブルキャンセラーのことですか?」

「まっ,そういうことだね.時間ないから,生きてたらまた後で」

「あ!ちょ,先輩!」



俺が目が覚めるころ,先輩は何かと戦っていて,兄弟達は俺の為に走っている.

うなされながらも願うのはひとつ.

誰も死ぬことがないように,それだけ.



「なんで,追いかけてきてんのアンタ!」

「意外としぶといんです僕」

「そういう問題じゃないっつーの!避けて!」

「えっ…ッ!?な,なんですか!?誰です貴女!」

「アンタがアンタがアンタがァァアアアア!!!!死ねよ!!!アンタが死ねば,桜井は…!!!」

「ちょ,落ち着いてください!シェリア先輩,誰なんですか彼女は!?」

「知らねーよ,コイツもおおかたプレイヤーってとこだろ」

「プレイヤー…まさか!」

「てわけで,今アタシ狙われてんの.殺す気でやってるっぽいからアンタ逃げなよ」

「あれ,彫刻刀じゃないですか!殺すって…」

「流石にマズイかなァー…アタシ,アクションは苦手なんだけど」

「とにかく屋上じゃ不利ですから,僕に付いてきてください」

「は?」

「逃げますよ,ここから!」

「おいっ」



それなのにまたひとつ,俺の知らないことが増えていく.



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