トラブルキャンセラー06


「…はぁ,マジかよ」



俺,騙されてんのかな.

そう思ったのは,竜持と虎太の会話を聞いちまってから.



「シェリア先輩,顔良し頭良しに機械にもつえーとかチートじゃねーか」



今日はめずらしく,屋上に来ても誰もいない.

先輩が授業に出てるようなキャラじゃないのは知ってるから,自主休校だろうか.



「凰壮くーん」

「あ,シェリア.どうしたんだ?」



俺が屋上にいるのをどうやって知ったのか,シェリアが訪れる.

そういえば,シェリアはちょくちょく俺の行く先をよく当てるよなぁ.



「あのね,ちょっと聞きたいことがあるんだけど…」

「何?」

「2組の桜井さんって知ってる?」

「いや」

「…そう?ならいいんだけど」

「どうしたんだ?その桜井ってのが何かあるのか?」

「何も聞いてないの?」

「俺,さっき学校来たから教室行ってねーんだ」

「そうなんだ!あのね…殺されたんだって」

「は?」

「昨日の帰りに,●●駅で通り魔に刺されたらしいの!」

「結構,近いとこじゃん」

「何人も怪我してるらしいんだけど,亡くなったのは桜井さんだけで」

「うん」

「…犯人,逃げたままなんだって」



そんなこと,初耳.

物騒な事件だな,なんて悠長なこと言ってる場合でもないよな.

犯人が捕まってないっつーことは,危ないんじゃね?



「お前,電車通だっけ」

「あ,うん」

「なら,帰り一緒に帰ろうぜ」

「いいの?」

「そりゃ,心配だし」

「有難うっ…!ホントはね,凄く不安だったの.帰りに通過する駅だし…」

「早く捕まるといいな,犯人」



ホント,世の中怖いよな.

ただ,そういうのに巻き込まれませんようにって思うことくらいしかできねーけど.

にしても,シェリアもまたなんで急にそんな噂持ってきたんだ.



「通り魔なんて,ニュースでやってる遠くのことだと思ってたのに」

「いざ身近に事件が起こると,不安にもなるわな」

「ホントだよ!お母さんもすっごい心配してるし」

「ま,よっぽどの恨みがない限り狙われるのは女子供だし…用心するに越したこたねーよ」



並んでフェンスにもたれかかる.

今日は,ちょっと風が吹いているせいで頬が冷たい.







「あ,その……悪い」

「「えっ」」



ぎぎぎっと扉が開けば,吹き込む風に棚引く黒髪.

髪の毛を揺らしていた風が,一瞬だけその手を緩めて,冷たい頬に熱を戻す.



「…先輩」

「凰壮くんの,知り合い?」

「悪い,邪魔してごめんな.出なおすわ,じゃあまた」

「あ,ちょ,先輩!?」



俺らに気付いて,そっと目を逸らす先輩.

早口で捲くし立てると,そのままくるりとターンして去っていった.

なんだったんだ,もしかして…気を遣わせたかもしんねぇ.

今度会った時に謝ろう.

あ,でも待てよ?俺,謝るって…何を謝るんだ?

意味わかんねーな俺.



「凰壮くん」

「あ,今のは1個上の先輩」

「へー…,すごく綺麗な人だったね」

「見た目は美人だけど,正確がドギツイんだぜ.お前とは正反対で,不良だしな」

「そうなんだぁ…怖いなぁ」



怖くはねーけど.

でも,シェリアの前で,先輩の名前を呼ぶわけにはいかない.

いつか,バレるとしても,だ.

そんなことを頭に浮かべながらシェリアの会話に適当に相槌を打っていたら,突然に,ぴろーんと機械音が鳴る.



「あ,メールだ.戻らないと,私」

「ん,そろそろ休憩終わる時間か?」

「そうみたい,また放課後ね」

「ん」



シェリアは,携帯を確認もせずにそのまま去っていった.

シェリア先輩へ問いたいこともあったはずなのに,そんなことは頭から流れ出たまま.

次に会ったとき,絶対聞こう.

叶うなら,真実とやらを聞いてみたい.



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